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「そもそもオフィスは必要なのか?」
働き方改革が叫ばれると同時に、オフィスそのものの役割が見直されつつある。スマートフォンをはじめとしたデジタルツールの普及と発展により、会社員であってもノマド的な働き方ができるリモートワークが可能となった今、オフィスは不要であるという声も聞かれるようになっている。
その一方、スタッフが物理的に集まることで生まれるクリエイティビティを重要視し、コミュニケーションが生まれる場としての設計や、人が集まりたくなるホスピタリティをオフィスに求める流れも。
今、オフィスをめぐる価値観は、大きく動いていると言えるだろう。
「オフィス」にいる間、人は集中できていない?
オフィスで仕事に集中しようとしても、そこには様々なノイズが存在する。誰かに話しかけられたり、電話がかかってきたりする。飛び込みの営業など、予定していなかったアポイントメントに対応しなければいけないこともある。作業を中断しなければいけないシーンは多い。
仕事に集中するためにイヤホンをつけて音楽を聞きたくても、それでは同僚が話しかけにくくなるし、かかってくる電話に対応することもできない。オフィスは集中して仕事に取り組むのに適していない環境ではないか、と思う。
シェアオフィスやコワーキングスペースも、ノイズがあるという点では同様だ。空間のデザインからも、シェアオフィスやコワーキングスペースは、集中して仕事に取り組むためのものではなく、交流のための空間であることがわかる。
「集中」を計測可能にする挑戦
「オフィスでは集中できない」と感じていたとしても、定量的に示すことは難しかった。だが、「集中できているかどうか」の計測にチャレンジするプレイヤーがいる。メガネ・アイウェアブランドのJINSだ。
JINSは、メガネ型デバイス「JINS MEME」を開発した。同デバイスは、3点式眼電位センサー・加速度センサー・ジャイロセンサーの3つのセンサーを活用し、ユーザーの心と身体の変化を捉えることを目的に開発された。
従来、メガネは、目の前のものをより良く見るためのツールであった。しかし、「JINS MEME」を使って見えてくるのは、自身の身体の「内側」だ。
「JINS MEME」は、人々の生活場面のデータを計測しようとしている。仕事中の集中時間の可視化や、車の運転中の疲労や眠気の感知、ランニングのフォームのブレ判定、瞑想を行うことで集中力や創造力の向上のサポートなど様々だ。
「オフィス」は集中できないという調査結果
「JINS MEME」は、ユーザー数千人を対象に集中時間に関する調査を実施した。この調査が、JINSの新たな動きにつながった。
その調査では、人が集中する時間帯がわかった。なんと人が集中するのは午前7時前後の朝方、午前1時前後の深夜なのだという。つまり、通常オフィスにいる時間帯、人は集中できていないということである。
同社社長である田中仁氏はこの結果を受け、コミュニケーションを取るだけでなく、集中できる環境を作る必要を感じた。
「JINS MEME」は実験的な取り組みとして、様々な専門家の集中力の計測も行っている。国内トップクラスのe-Sportプレイヤーの「格闘ゲームプレイ中の集中」や、京都にある手作り茶筒の老舗「開化堂」のベテラン職人と中堅職人の集中の質の違いを明らかにしようとしている。
このように、JIMS MEMEを通じて、人々の“集中“に関する様々なデータを収集する。そのデータを活かしながら、JINSは空間の設計に乗り出した。
「コミュニケーション」ではなく「集中」のためのオフィス
JINSが設計したのは、人が集中するためのシェアオフィス「THINK LAB」だ。
従来のシェアオフィスは、主に人との出会いやアイデアの創発を重視した「つながりを生む場所」として設計されてきた。だが、冒頭で述べたように、シェアオフィスはノイズが多く、集中したい時には不向きな空間だ。
「THINK LAB」は、個人が集中して仕事をすることにフォーカス。曰く「世界一集中できる仕事場を目指し、進化し続けるワークスペース」だという。同スペースは、12月1日に、飯田橋グラン・ブルーム29階に開設予定だ。
予防医学研究者の石川善樹氏が科学的根拠に基づいて監修したというこのシェアオフィスは、神社仏閣をイメージしたという入り口、集中を高めていく石畳のアプローチ、空と緑を融合させた開放的な庭といったエントランスからして特徴的だ。
視覚的なユニークさに加えて、集中できる空間をデザインするために、次のような要素を盛り込んだという。
- 緑視率
- 知的生産向上やストレス低減、空間満足度向上に最適な緑視率(視野内の植物の比率)は10%〜15%と言われている。THINK LABでは、適切な値になるよう植物を配置している。
- 光マネジメント
- 太陽の光を元に生活リズムを整えてきた人類にとって、光は体調のパラメータになる。光を自然光に近しいバランスで調整し、体内時計を整え、明日の集中をサポートする。
- 自然音
- 従来より高解像度である「ハイレゾ」のクオリティーでレコーディングした、屋久島や白神山地の森・川・並みの自然音で、集中とリフレッシュを。
- 椅子
- 肩こりや腰痛にならないように、長時間集中に向いた姿勢をサポート。クリエイティブワークに重要な収束思考と発散思考の切り替えは、視線の角度によって入りやすさが変わると言われている。どちらの思考にもスムーズに入れるようなリクライニングも重視している。
- 飲食
- 血糖値マネジメントによって集中しやすい脳の状態を作り出すために、最適な間食アイテムを常備している。
- Active Rest
- 「Active Rest(攻めの休み)」と呼ばれる運動が、脳の活動に良い影響を与えることは多くの研究で証明されているという。ビル内のスポーツジムを会員価格で利用可能にすることで、最高のパフォーマンスを発揮できるようにサポートする。
そのほかにも常駐している弁護士や会計士にビジネスの相談ができたり、有料のマッサージルームなども提供される。
JINSは「THINK LAB」という空間を持つことで、この空間に盛り込んだ要素が集中を促してくれるのかを計測できる。そうすれば、より人が集中しやすいオフィスづくりに向けて改善できる。
オフィスは不要なのか、コミュニケーションに特化すべきなのか、集中に特化すべきなのか。今、働き方の多様化と共に、オフィスも多様化が求められている。
img : Think Lab