広告をテクノロジーで変革するAd-Tech、金融をテクノロジーで変革するFin-Tech、教育のEd-Tech、保険のIns(Insur)-Tech。テクノロジーの進化は、様々な業界を変革してきている。そしてその波は、テクノロジーから遠い業種にも広がりをみせる。

仕事の依頼は電話が中心、仕事は冊子から探すか知人や親方からの紹介か、勤怠管理は紙か記憶、給料は手渡し。建設現場で働く職人は、こんな経験をしたこともあるそうだ。そんな建設業界にも、テクノロジーによる変革が起きるかもしれない。

建設現場にテクノロジーは介入できるか

Construction-Tech(建設×テクノロジー)が昨今、注目を集めている。

2020年の東京オリンピックに向け建設市場は盛り上がりを見せる一方、今後10年で100万人以上の就業者不足が発生すると言われており、他産業と比較しても人材不足は深刻な問題だ。そんな中、生産性を上げるテクノロジーとしてConstruction-Techへの期待が高まっている。

また、CB insightsの調査では、世界におけるConstruction-Techへの投資額が、2013年の約70億円から2016年には5倍の約350億円になるなど、国内のみならず世界的にも注目が集まっている状況だ。

それに伴い、建設現場でドローンを活用する取り組みや、工事写真の管理を行うクラウド型のサービスなど、建設業界にテクノロジーを活用したサービスが続々と登場してきている。

そして、Construction-Techの中でも“職人”に対するアプローチで注目を集めているのが東京ロケットだ。東京ロケットは、2017年3月に創業し、“建設現場を魅力ある職場に革新する”をビジョンに掲げ、建設現場と職人を繋ぐアプリ「助太刀くん」を発表している。

もう仕事は探さない、「助太刀くん」

助太刀くんは建設現場と職人を繋ぐマッチングサービスをベースとしたアプリだ。本日11月29日にiPhone版アプリを提供開始し、サービスを正式リリースした。

助太刀くんは、2ステップで始めることができる。まずは職種を選択し、次に居住地を選択する。これで登録が完了だ。そうすると、職人の条件に合った助太刀する(働く)ことができる建設現場がリストアップされる。

各現場の発注者情報や応募状況、現場詳細情報も確認ができ、気に入れば“助太刀する”ボタンをおして応募完了だ。この極めてシンプルがUXが、職人がアプリを利用するハードルを大きく下げる点である。

資金調達、スタートアップベスト3選出、ピッチイベント入賞・・・

東京ロケットの勢いがとまらない。

東京ロケットは、2017年6月にジーズアカデミー主催GGAにて「助太刀くん」のプレゼンをして優勝すると、それをきっかけにさまざまな出会いが生まれていった。そして8月にはシードラウンドで総額約5,000万円の資金調達を実施し、メディアにも取り上げられ注目を集めた。

9月には就労支援機能について特許を出願し、10月には次代を担うスタートアップを決めるForbes JAPAN「RISING STAR AWARD 2018」のベスト3に選出され、11月の発表では最終的に第2位の結果になった。また、同11月に行われたTechCrunch Tokyo スタートアップバトル2017では、審査員特別賞、engage Award、さくらインターネット賞を受賞した。

ロケットスタートをきっている東京ロケットだが、助太刀くんの開発背景や東京ロケットの魅力、目指すところはどこなのか、CEO我妻氏に話を伺った。

我妻氏「助太刀くんを作った背景は、自分の実体験からです。建設業で15年以上働く中で、ずっと疑問に思っていた問題がICT化の遅れでした。基幹システムや現場管理のICT化は進んでいましたが、“人”に関するところは仕事探しが紹介で行われていたり電話で依頼していたりと、ずっとこのスタイルでした。

そして、職人を囲い込む習慣というのも課題と感じていました。同業種でも元請を超えた繋がりがなく、仕事や人材の情報は一部の限定された範囲にしか届かないのです。その結果、職人は取引先が限定され、忙しい時と暇な時の波が大きく、不安定な環境でした」

そういった課題意識から生まれたのが助太刀くんというわけだ。助太刀くんでは、現場情報や職人情報がオープンになることで、情報の非対称性がなくなり、発注者や受注者共に効率的に仕事をまわすことができるという。

出会いが新たな出会いを生み、パートナー開拓に

資金調達や業務提携、パートナーシップなど、周囲を巻き込んで前進する東京ロケット。どのようにパートナーを開拓しているのだろうか。

我妻氏「パートナー開拓は、実はこちらから狙って仕掛けているアクションは少なく、VCからの紹介やイベントでの出会いなどから自然と周囲に広がっていき、パートナーとして取り組みたいと声をかけてもらえることが多いんです。声をかけてくれる方は、サービスやビジョンに惚れてくれる人が多いです」

サービスやビジョンに惚れてくれる人が多いということだが、どういった点を魅力に感じてもらえているのだろうか。

我妻氏「まず、“Why you?”という部分に明確にこたえられるところが、信頼を得ているポイントだと思います。単なるマッチングサービスであれば、スタートアップ界隈の人であれば誰でも立ち上げることができます。しかし、本当に求められるサービスにするためには、業界理解が不可欠です。僕は建設業での経験から、深い理解と課題意識があるため、それこそが僕がやる意義であり価値なんです。

例えば、助太刀くんでは職種を61職種に分けています。これは職種が多く兼業がないという業界特性を反映したものです。また、UXについても周囲の職人さんを巻き込んでテストし、最適化を進めました。ユーザー目線で設計できる点も、業界経験のおかげなんです」

サービスを立ち上げた動機や、業界を理解しているからこそのサービス設計というのが強みと我妻氏は語る。そして、サービス領域についても魅力があると語った。

建設業のビジネスインフラを目指す

我妻氏「もう一つは、サービスのもつビジョンのスケールが大きい点です。単なるマッチングで終わるのではなく、建設業の働き方を大きく変革するポテンシャルがあるからです。助太刀くんを構成するのは、マッチング、業務支援、ペイメントです。

マッチングでは、発注者と受注者が必要なときに働くことができる効率的な循環を生み出します。加えて、業務支援という点では、勤怠管理システムや請求書代行サービスを提供します。これまで煩雑になっていた部分を、助太刀くんを利用することできちんと管理できるようになります」

マッチングだけでなく業務支援も助太刀くんはカバーする。そして一番ポテンシャルが高いのがペイメント機能だという。

我妻氏「最後はペイメントです。これはまだ話せない内容もあるのですが、外部パートナーとの取り組みにより、取引信用保険の対応であったり、日払い対応などが可能です。

これは例えば、初めて取引をする際に信頼のある第三者を経由することで取引をスムーズに進めたり、ファクタリングなどで早期に現金化できたりします。近い将来、職人さんが働いたその日に、コンビニATMで現金をおろして食事や買い物にいくことも可能になります」

建設業界におけるビジネスマッチング、業務支援、ペイメントとサービス領域を拡大させていき、目指すところは建設業界の変革だ。そのビジョンは社名にもあらわれていた。

我妻氏「東京ロケットという名前ですが、ロケットをつくっているわけではありません笑。

海外で成功したビジネスモデルを国内に取り込むタイムマシン経営というのがあると思います。僕はその逆がやりたかったんです。東京から世界に向けて飛びだしていきたい、そんな想いが込められています。

そしてこのネーミングはわかりやすさもポイントです。世界からみられたときに、東京もロケットも単語として知っている人がほとんど。だからみんなが一発で覚えてくれます。造語などは覚えてもらうのに時間がかかります。ここまでロケットスタートをきれたのは、このネーミングも寄与していると思います」

社名に込められた想いを語りつつ、わかりやすい名前がロケットスタートの追い風になったと語る我妻氏。東京ロケットは、建設業のビジネスインフラを目指して飛びたった。

Photographer : Kazuki Kimura