紅葉シーズンが終わり、寒さが本格化してくる日本。一方、南半球に位置するオーストラリアはこれからが夏本番だ。寒い日本を抜け出して、オーストラリアでサーフィンや海水浴を計画しているひとも多いのではないだろうか。

オーストラリアの海で注意したいのがサメによる被害だ。日本ではあまり報じられないが、オーストラリアはサメ被害が世界のなかでも多いとされる国だ。特に西オーストラリアはサメ襲撃による死亡事故が増え続けているといわれている。

「国際サメ被害ファイル」によれば1958〜2016年までに報告されたサメ被害数は世界で2785件、このうち435件は死亡事故。最大は米国(ハワイを除く)で1104件。そしてオーストラリアが536件(このうち死亡事故は72件)で2番目。

増え続けるサメ被害を食い止めようとサメ避けネットを貼るなどの対策が取られている。しかし、サメ避けネットはサメだけなく他の生物やときに絶滅危惧種などを捕らえてしまうケースもあることから多用することへの懸念も少なくない。またサメ自体も乱獲により数を減らしており、ネットや捕獲以外の対策が求められている。

そんなオーストラリアで、ドローンを使ってサメ被害を減らそうとする取り組みが開始され、注目を浴びている。いったいどのような方法でサメ被害を減らすのだろうか。

オーストラリア発、サメ検知人工知能ドローン


サメ検知ドローン「リトルリッパー・ライフセイバー」(Little Ripperウェブサイトより) 

「リトルリッパー・ライフセイバー」と名付けられたこのドローンは、高精度でサメを検知する人工知能と連携し、サメを検知すると搭載されているスピーカーでサーファーや海水浴客にサメの接近を伝えることができる。

沿岸にはサメだけでなくエイやイルカ、クジラが回遊していることも多く、ひとの目ではそれらをサメと断定することが非常に難しいが、ディープラーニング手法を活用した画像解析により、高精度でサメを検知できる。このサメ検知人工知能を開発したシドニー工科大学の研究者によると、検知精度は90%を誇るという。

このドローンの開発・オペレーションは、地元ドローン会社Westpac Little Ripper Lifesaverが担っている。同社は救助にフォーカスしたドローン活用を進めており、その活動範囲は沿岸だけでなく、砂漠、森林、山など広範にわたる。

救助向けのドローン活用は、世界でもその事例が多く報じられているが、サメ検知人工知能と連携した取り組みは世界初として注目を浴びることになった。現在はニューサウスウェールズやクイーンズランドの海岸で試験運用を行っている。


人工知能でサメを検知 

テクノロジー活用と動物との共存

このサメ検知ドローンの取り組みは日本においてもっと注目されてもよいかもしれない。サメは世界中の海に生息する生物。ここ日本も例外ではなく、これまでに多くの被害が出ているからだ。

スティーブン・スピルバーグ監督の映画『ジョーズ』で人食いサメの代名詞として認識されるようになったホオジロザメ。日本ではこれまでに愛媛県松山沖、愛知県伊良湖沖、山口県光市海水浴場などで事故・目撃が報告されている。

ホオジロザメに次いで被害が多いといわれているイタチザメは、八重山諸島、八丈島、相模湾などで目撃されている。沖縄県宮古島では、これら2種と並び危険とされるオオメジロザメと思われるサメによる死亡事故も起こっている。このほかに多くの海水浴場での目撃情報もあり、オーストラリアのサメ被害を対岸の火事として見ることはできないはずだ。

ドローンを活用し、動物からの被害を減らす取り組みは、このオーストラリアのサメ検知の事例だけでない。日本ではカラスの追い払いにドローン活用を試みるプロジェクトが進んでいる。

このプロジェクトではカラスの社会性を利用し、ドローンからカラスの鳴き声を発することで、カラスを誘導・追い払うというもの。このほかにも、ドローンと超音波を使うことで、動物を傷つけることなく撃退する取り組みなども実施されている。日本では農作物被害など、野生動物による被害が年間約230億円に上るともいわれており、ドローンを活用したソリューションに期待が寄せられている。

今後はロボティクス・人工知能の発展により、対象となる動物そっくりのロボットやドローンを用いて、より効果的に動物を誘導できるソリューションも出てくる可能性もある。テクノロジーを活用することで、動物との共存がどこまで可能になるのか考えていくことが重要になってくるだろう。

img: shutterstock , Little Ripper