ドラマシリーズ化もされた人気グルメ漫画『孤独のグルメ』(94~96年連載)では、主人公が「『オーガニック』は面倒臭いヒッピー崩れたちが、上から目線で押し付けるもの」と、オーガニックに対して偏見を持っている描写があった(しかし、その後どれを食べても美味いと手のひらを返していた)。
『孤独のグルメ』でその描写が描かれてから約20年が経ち、「オーガニック」に対する人々の印象は大きく変わったように思える。当時のような選民的、ヒッピー的な印象は薄れてきているのではないだろうか。
むしろ、オーガニック食品はファッションとして楽しめるものとなり、身近なものとなっている印象がある。
ウォルマートが脱ジャンクフード?
オーガニックトレンドは、低価格戦略を武器に成長してきたアメリカの巨大スーパーマーケット「Walmart」をも変え始めている。
Walmartの店舗には、マクドナルドやダンキンドーナツといった、いわゆるジャンクフードに分類される飲食店が併設されるケースが多い。
だが、フロリダ州オーランドの店舗では、オーガニックフードやコールドプレスジュース、スムージーなどを提供する「Grown(グロウン)」が併設された。Grownは元NBA選手であるRay Allen氏と妻のShannon氏が手がける、100%オーガニックなメニューをエコフレンドリーな容器で提供する人気店だ。
Walmartがオーガニックフードを扱う店舗を併設したのは、Walmartの店舗を訪れるユーザーの属性が変化し始めていることの現れだろう。この先、Walmartに併設される飲食店がオーガニックフードが増えていく可能性もある。
Walmartがオーガニックフードに積極的な姿勢を示すと考えられる背景には、AmazonによるWhole Foods Marketの買収がある。オンラインショッピングや物流などの様々な領域で激しい戦いを続けている両者は、次にWhole Foods Marketの主戦場であるオーガニックフードの領域でも競争する可能性がある。
アメリカのオーガニック市場は約4兆円規模に成長
アメリカをはじめ世界のオーガニック市場は大きく成長している。
2016年のオーガニックトレード協会の発表によると、アメリカ国内オーガニック市場は433億ドルにまで到達。オーガニック食品の売り上げは397億ドルとなり、これは前年比11%の成長率を誇る。
この変化はアメリカだけに止まらない。日本貿易振興機構(ジェトロ) ロンドン事務所の2014年のレポートによると、欧州のオーガニック食品市場は、リーマンショックによって景気が落ち込んだ2008年以降も年率平均約7.5%の成長を遂げているという。
世界的に成長しており、アメリカでも成長しているマーケットであることが、Walmartのオーガニックに関する新たな動きにもつながっていると言える。この世界的なトレンドは、日本のマーケットにも影響をもたらし始めている。
日本は、全国の有機農家数や有機農園面積の少なさから長らくオーガニック後進国と言われてきた。しかし、その状況も変化の兆しを見せている。
2016年12月、大手スーパーであるイオンが、オーガニックスーパー「ビオセボン」の日本1号店を麻布十番に出店。「ビオセボン」は、2008年にフランスで創業し、ヨーロッパで140店舗以上を展開しているスーパーだ。
イオンは、ビオセボンを傘下に持つMarne&Finance Europeと合弁会社ビオセボン・ジャポンを立ち上げ、日本で本格的な展開を開始した。
インターネット通販を中心に、高品質な食品や食材を販売してきたオイシックスは、有機野菜の認知度向上や市場規模の拡大を目的として、オーガニック野菜販売の草分けである大地を守る会との経営統合を発表している。日本の大手も、オーガニック領域におけるアクションを始めている。
右肩上がりに伸び続けるオーガニック市場は、世界で11,000店舗以上を展開するスーパーマーケットチェーン「Walmart」にも、オーガニックフードへの一手を打たせた。Walmartのような大手スーパーマーケットの動きには、大衆の欲求やニーズが表出する。
北米のオーガニック市場がどの程度成長しているかは、Walmartに併設されるレストランがどれくらいオーガニックフードのものに置き換わっているかをチェックすればわかるかもしれない。
img : Walmart, Grown, Pete Owen
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