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ストレス社会のなかで生き抜く現代人の知恵
人間関係や仕事のパフォーマンスを大いに損なってしまうイライラや焦りなど負の感情。そんな負の感情をコントロールできたらどれほど良いだろうかと考えたことがあるはずだ。
一方で、ストレス社会という言葉が示すように、満員電車や過酷な労働などで世の中はストレスだらけ。連続するストレスによってなかなか負の感情を取り払うことができないのではないだろうか。
そんなストレスフルな現代社会を生きる多くのひとびとのニーズを満たそうと試みるサービスやプロダクトが続々登場している。今回は「感情をコントロールする食べ物・飲み物」という新しいトレンドを紹介していきたい。
食べ物で感情をコントロールできるのか?
「感情をコントロールする食べ物・飲み物」と聞いて、そもそも食べ物で感情をコントロールすることができるのか、と疑問を持つひとも多いかもしれない。
しかし、日常生活のなかでもっとも身近な例である、コーヒーの効果を考えてもらうと食べ物・飲み物が感情に影響を与えることを認識してもらえるのではないだろうか。
コーヒーの場合、カフェインという物質が脳を刺激して、眠気を取り払ったり、シャキッとした気分にしてくれる効果がある。
コーヒー以外の食べ物・飲み物にも、感情に影響を与える栄養素や物質が含まれており、それを摂取すれば個人差はあるもののある程度感情や気分をコントロールできることが最近の研究で明らかになってきている。
感情をコントロールできる身近な飲み物「コーヒー」
そのような研究をもとに、実際にサービスやプロダクトを開発する企業が増えているのだ。
セロトニン・ピザで「ブルーマンデー」をふっ飛ばす
英国ではピザハットがそのような取り組みを実施している。
楽しかった週末が終わる日曜日の夕方、月曜の通勤や通学のことを考えて憂うつになってしまう「ブルーマンデー症候群」。日本では「サザエさん症候群」などとも呼ばれるこの症状をピザで改善しようという試みだ。
ピザハットUKは著名な栄養コンサルタントと共同で、4つの主要幸福物質であるセロトニン、ドーパミン、オキシトシン、エンドルフィンを増やすピザ用の最適な具材を突き止め、その具材をもとに「気分を高めてくれるピザ」を開発した。
脂分が豊富な魚類(マグロなど)やモッツァレラチーズなどが具材として使われている。そうした魚類にはトリプトファンが豊富に含まれている。トリプトファンは、脳内でセロトニンに変換される必須アミノ酸の1つ。モッツァレラチーズも同様にトリプトファンの豊富な食材とされている。
ピザを食べて感情コントロール
旅行客にも食事でリラックス効果を
また英国ではモナーク航空が今年8月、リラックス効果などを狙った「Mood Food」ボックスを導入。
この食事セットには、ムラサキバレンギク、スペインカンゾウの成分が含まれる免疫力を高めるアイスクリーム、リラックス効果がある緑茶とラベンダーケーキ、そして腸にガスが溜まるのを防ぐハーバルティーが含まれている。
モナーク航空がMood Foodボックスを導入したのは、同社が行った調査で、英国旅行者の72%が旅行中にストレスを感じ、さらに33%が連休の3日目までリラックス気分を感じることができないということが判明したためだ。
旅行のことを考えると楽しい想像をしてしまうが、現実は渋滞、長距離移動、長い待ち時間など、ストレスを感じてしまう状況は頻繁にある。
モナーク航空は、旅行客がリラックスした旅気分をできるだけ早く感じることができるように、ミシュラン星付きレストランとコラボレーションしたこともある心理学者の協力を得て、心身ともに落ち着くリラックスメニューを開発した。
旅行中や通勤中など移動中にイライラが爆発して、ちょっとしたことで暴力事件に発展するケースは世界中で増加傾向にあるとされており、航空会社や交通関連会社は対応を求められている状況だ。
国際航空運送協会の調べでは、2015年に各国航空会社スタッフへの暴言や暴力行為は計1万854件で、前年の9316件から約17%増加したことが分かった。
これに対して各航空会社はアルコール飲料の提供を控えるなどの対策を実施している(モナーク航空の取り組みはこれらと異なるアプローチで注目を集めていたが、資金繰りの行き詰まりで2017年10月2日付けで倒産を発表した)。
テクノロジーの発展と健康意識の変化・高まり
近年、企業によるこのような取り組みが増えている背景には、ひとびとの健康意識の変化・高まりや市場の拡大もあると考えられる。
もともと健康というと身体的な健康に焦点が当てられがちだったが、近年では精神的な健康への注目度が高まっている。これは「マインドフルネス」という言葉が広く浸透していることからも読み取れる。書籍だけでなくNHKなどのテレビ番組での特集も増えており、かなり一般的に普及していることがわかる。
日本に先がけマインドフルネスやウェルネスの考えが普及していた欧米市場では、すでにさまざまなサービスやプロダクトが立ち上がっている。グローバルウェルネス研究所によると、ウェルネス世界市場は2013〜2015年にかけて3兆3600億ドル(約379兆円)から3兆7200億ドル(約420兆円)へと拡大したという。
これまでの感覚でウェルネスと聞くとスポーツジムを思い浮かべるかもしれないが、健康への意識が変化しているいま、ウェルネスが意味するところは「身体的、精神的、そして社会的に健康な状態であること」と幅広い意味を含んだものだ。そして、その市場はウェルネスツーリズム、ウェルネスライフスタイル・不動産、ウェルネス労働環境など多岐にわたる。
また人工知能やバイオテクノロジー、遺伝学などの発展で、これまで分からなかった症状、特に目に見えない精神状態やDNAレベルで起こっていることを可視化できるようになっていることも、こうした変化を促進している要因といえる。人工知能の分析によって声の状態から特定の症状を検出する取り組みや、DNAレベルで食事健康管理ができるサービスなど枚挙にいとまがない。
食事による感情コントロールを含め、マインドフルネスやウェルネス分野は、テクノロジーを取り込みどのように進化していくのか、これからが楽しみなところだ。
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