「きれいな空気は基本的な人権であるのに、世界の大半の人はそれがない」
IEA (国際エネルギー機関)のエグゼクティブ・ディレクターのFatih Birol(ファティ・ビロル)氏はこう述べた。
2016年6月にIEAが発表した特別リポート「エネルギーと大気汚染(Energy and Air Pollution)」では、全世界で推定毎年650万人の死亡に大気汚染は関係していると書かれていた。
大気汚染の問題に向き合うことは世界的に必須となってきている。
イギリス政府は、2040年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の販売を禁止
その動きが顕著にあらわれているのが、自動車業界だ。
イギリス政府は、2040年までに国内でのガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を決めた。与党・保守党は6月の総選挙前に、「ほぼ全ての自動車とバン」のゼロエミッションを2050年までに実現すると公約しており、今回の発表はその計画の一環だ。
報道によれば、販売禁止に向けて政府は段階的な措置を実施していく。汚染の深刻なエリアへのディーゼル車の乗り入れに課金するほか、ディーゼル車の廃棄なども検討するという。
地方自治体を通じてバスなどの公共交通機関の改修も進める。その他、信号の設置場所や道路のレイアウトの変更により、交通渋滞を避けることで、有害なガスの排出を抑制することも求める。
掲げている目標をクリアしていくためには、ルールや仕組みを変更し、段階的にシフトしていくことが必要になる。加えて、各地で実施されているソリューションの進化も影響してくるだろう。
世界で大気汚染への対応が加速する
大気汚染への対応は、世界各地で進んでいる。フランスも同様の措置を発表し、ドイツでは2030年までにエンジン車の販売禁止を求める法案が2016年に可決。オランダでも「2025年までにガソリン車、ハイブリッド車の販売を禁止する法案」が可決される見込みにある。
中国も電気自動車(EV)優遇に乗り出し、インドも国内で販売するすべての自動車を2030年までに電気自動車のみにするという政策を発表した。先進国の都市部での動きに加え、人口が増加している自動車大国でも電気自動車へのシフトが始まっている。
こうした脱石油の動きに呼応して、自動車メーカーも動き始めた。スウェーデンのボルボは、2019年以降に全車種を電気自動車やハイブリッド車に切り替えることを発表している。
2015年以降、強まる環境問題の解決に向けた動き
こうした環境問題への対応は、2015年以降加速した。2015年9月25日に、ニューヨーク・国連本部で開催された国連サミットで、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」を中核とする「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。17のゴールの1つに、気候変動への対処がある。
同年12月には、パリ協定が採択。同協定では、温室効果ガスが原因とされる地球規模の気温上昇を抑制するため、締約国が取り組みを約束している。
同年、米国を拠点とするHealth Effects Institute(HEI)が発表した報告書も影響しているだろう。同報告書では、大気汚染が原因で亡くなった人の数が全世界で420万人超となり、うち約220万人が中国とインドだとしている。
これらの環境対策や大気汚染の原因は自動車だけに限った話ではない。だが、北京市において発生しているPM2.5の最大の原因は自動車の排気ガスだということが発表されている。
地域によっては、死因ともなる大気汚染。その解決に向けて、自動車業界全体も変化が求められるのは必然だ。この先、自動車業界のみならず、多くの業界でこの問題に向き合わなければならなくなる。
img: UNIC、Creative Commons