世界的な乗換案内アプリがバスを運行開始。目的は「ソフトウェアのさらなる進化」

ハードウェアとソフトウェアとの境目が、曖昧になりつつある。ハードウェアを開発する企業がソフトウェアを開発し、ソフトウェアを開発する企業がハードウェアを開発することも珍しいことではなくなった。

こうした「越境」は至るところで起きてるが、またひとつロンドンで興味深い動きが起きている。

世界で展開する乗換案内アプリ「Citymapper」

2011年にロンドンで創業した「Citymapper」は、東京を含む世界40ヵ国の都市で利用できる乗換案内アプリだ。 バスや電車などの交通機関を使った、現在地から目的地までの行き方の候補を教えてくれる。iOSとAndroidアプリ、およびウェブサイトから利用できる。

都市によっては、交通機関が独自に乗換案内を提供していることもあるが、異なる事業者を網羅し、包括的であることがCitymapperの強み。交通機関ごとの時刻表や運行状況のデータ、また都市のオープンデータなどを活用することで、リアルタイムの乗換案内を実現している。

サービスの利用者数は非公開だが、主要拠点であるロンドンでは、2014年頭の時点でスマートフォンの半数にダウンロードされていた。

抜け穴に着目して運行する深夜バス「CM2 Night Rider」

2017年5月にCitymapperは、緑色が人目をひく「Citymapper Smartbus(以下、Smartbus)」を発表した。昔から進化が見られないバスにおいて、現代の“あるべき姿”を追求したという。

車内には、乗客向けの運行ルートや所要時間などを表示するディスプレイ、また全席に充電用のUSBポートを完備。支払いには、Apple PayやAndroid Payなどのモバイルウォレットおよび非接触ICが利用できる。また、ドライバーにも従来のバスにはなかった機能が用意されており、同社が独自に開発した専用ソフトウェアを用いることで、交通状況や乗客数をリアルタイムに把握できる。

公共交通機関の効率化に注力するCitymapperの場合、欠かせないのが行政機関との協力体制だ。ロンドン版のアプリでは、以前からロンドン交通局「Transport for London」が提供するオープンデータを活用。5月に期間限定で運行されたSmartbusも、当局の協力によって実施されたものだった。

初回の試験運行から2ヶ月強ほどが経った7月20日、Smartbusの2度目となる運行が発表された。2017年8月下旬から9月頭に運行を開始する、夜間運行ルート「Citymapper CM2 Night Rider」だ。まずは週末の夜(午後9時〜午前5時)に限って、ロンドンの東部地区を走る予定。5月の試験運行では無料だった運賃が、ロンドン交通局から正式に認可を得たことで今回は有料となる。

運行ルートの決定には、アプリの利用状況に基づいた需要と、運行ルートを評価する解析ツール「Simcity」を活用。その結果、既存の公共交通機関の“抜け穴”であるロンドンの東部地区に着目した。2016年末に開通した週末限定の地下鉄「Night Tube」の登場で、この地域における深夜の外出は増加傾向にあったが、移動手段が地下鉄に限られていた。代替え交通機関やその運行頻度などの要素を考慮して、CM2 Night Riderの運行ルートが決められた。

バスを「ソフトウェア改良のためのツール」として使う

Citymapperのように、ソフトウェアを主軸にしてきた企業がハードウェアに参入するモデルは興味深い。同様の例では、コミュニケーションアプリ「Snapchat」を開発するSnapが、ユーザー体験の向上を目的に「Spectacles」 というサングラス型のウェアラブルを開発している。

Citymapperの事業モデルを考えると、同社がハードを手がけるのはごく自然なことかもしれない。彼らは、移動手段の計画と最適化ツール「Simcity」を世界中の都市に対して販売することを目指しているからだ。

つまり同社にとって、バスというハードウェアは、そのソフトウェアを改善・強化するためのツールという位置づけになる。事業開発の責任者である Omid Ashtari氏は、Business Insiderの取材に対して「バスというハードを自ら運行することは、ソフトウェア販売の事業化をすすめるために必須」とコメントしている。

将来的には、Citymapperは乗客からの需要に応じてその都度運行ルートが変更されるようなダイナミックなシステムを構想している。まだ社内実験の段階だが、乗客のアプリとバス側のソフトウェアを連携させることで、乗客にどこの停留所で降りるべきなのかをプッシュ通知するようなことも視野にいれているという。

アプリの有効性を確かめるために現実世界で実際に使ってみる必要があるように、ソフトウェアが公共交通機関で力を発揮するのかを見定めるためには、バスでさえ開発してしまう。立ち上げ当初はあくまで乗換案内アプリの域を出なかったCitymapperだが、その巨大なビジョンが世界中の都市の移動のあり方を大きく変えていくのかもしれない。

img: Citymapper

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