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もはや、Amazonが関わらない領域はないのかもしれない。続々と新たなニュースが飛び出すビッグプレイヤーから、また新たなサービスがリリースされた。
2017年7月18日、Amazonがオンラインコマース事業を強化する新たな一手「Amazon Spark」を正式にリリースした。Sparkは、一言でいうと商品との出会いを促すソーシャル機能だ。
Sparkについて、Amazonは以下のように説明している。
「家のインテリアにまつわるインスピレーションを探しているとき、また長距離ランに適したランニングシューズについてアドバイスが欲しいときなど、Sparkはその発見、そして購入をスムーズにしてくれます。あなたと同じようなものを好むコミュニティから、ストーリーやアイディアを得られるのです」(英語版サイトより筆者翻訳)
流れてきた写真から、その場で即買い
現在、SparkはAmazonのiOSアプリで提供されている。初回利用時に、「旅行」「犬」「バーベキュー」「インテリア」など5つ以上のテーマをフォローすると、それをもとにカスタマイズされたフィードがつくられる。
フィードには、他のユーザーが投稿した写真やコメントが流れてくる。その仕様はInstagramを連想させるが、欲しいものに関するインスピレーションを提供する意味ではPinterestのようでもある。ただ、それらと明確に異なるのは、リンクを踏んで別サイトで購入するのではなく、気になったものはすべてAmazonで即買いできることにある。
ユーザーにはプロフィールページが用意され、フォロワー数やウィッシュリスト、そのユーザーが過去に投稿したレビューなども見られる。これらの公開範囲は個別に設定可能だ。
Sparkには、Amazonが有料で参加招待したブロガーやインフルエンサーもおり、#sponsored のハッシュタグで特定できる。インスピレーションと購入が共存するSparkでは、インフルエンサーがただ“影響力を発揮”するだけにとどまらず、消費行動の増加が期待できるだろう。
Sparkに投稿できるのはプライム会員に限られるが、投稿にコメントしたり、Facebookのいいね!に代わる“smiles”を押すことで誰でも反応できる仕組みだ。
“コマースの上にSNS”でウィンドウショッピングの場に
一時期バズワードだった「ソーシャルコマース」は、友達とショッピングモールに出かけるように、SNS上の人間関係を活かしてオンライン購入を促進するものだった。
ソーシャルコマースが期待ほど伸びなかった理由のひとつには、ユーザーのマインドセットがあった。人がSNSを使う理由は、知人や友人と繋がって近況を知るためであって、買い物をすることが主目的ではないからだ。ほとぼりが冷めたようにも感じられるソーシャルコマースだが、確立されたEコマースのうえにSNSを重ねるSparkなら、当時の盛り上がりが復活するかもしれない。
何か欲しいものがあったとき、Amazonに行けばあらゆる選択肢を一箇所でチェックできる。また「ほかのサイトで買うより安い」というイメージが定着しているため、とりあえず覗いてみる感覚で気軽に利用されている。その気軽さゆえか、Amazonは「なんとなくウィンドウショッピングをする」というよりは、目的買いに活用されていると言えそうだ。これは、Amazonのコンバージョン率に見てとれる。
北米のオンラインストア TOP500のコンバージョン率は、平均3.32%にとどまる。一方、Amazonの非プライム会員のコンバージョン率は13%、常連であるプライム会員のコンバージョン率にいたっては、74%に及ぶ(2015年発表の調査結果)。この驚くべきコンバージョンの高さこそ、Amazonが“目的買い”に使われてきたことの表れであるように思う。さらにSparkの登場によって、Amazonがふらっと立ち寄るウィンドウショッピングの場にもなる可能性が開けたと言える。
「買ったもの」や「欲しいもの」で繋がる時代!?
Business Insiderによると、Z世代(1995年以降生まれ)の若者の80%、またミレニアル世代の70%が「ソーシャルメディアが購入の意思決定に影響する」と回答した。
Sparkのリリースは、今後、消費力を高めていく彼らを受け入れる備えだと見ることもできる。また、長い目で見れば、いつまでもPinterestなどの第三者プラットフォームに依存せず、独自にSNSを設けることで消費行動の始点から終点まで抑えることは理にかなっている。
2009年末にサービスを開始した「Blippy」を覚えているだろうか。クレジットカードを登録することで、購入した内容を友人と共有できるサービスだった。そこで何かを買えるわけでもないのにカード情報を登録するというハードルが高すぎたのか、わずか1年半後にはサービスを閉鎖した。
Amazonなら、ユーザーはすでにウィッシュリストを公開しているし、例えば書籍の購入履歴は、まるで人の本棚を覗くような面白いコンテンツになり得る。本に限らず、将来的には友人間で商品を売買するようなこともできるかもしれない。
7月中旬、Amazonが独自のメッセージアプリを開発中だというAFTV Newsの報道があったが、Sparkやメッセージアプリなどが、Amazonのコマース事業に今後どんなインパクトを与えていくのか見所だ。
img: Amazon