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リモコン片手にテレビの前に構えて、定刻に始まる番組の開始を待った最後はいつだったか。
「Netflix」や「Hulu」に代表されるオンデマンド動画配信サービス(SVOD:Subscription Video On Demand)の台頭が、消費者によるコンテンツ消費のあり方を大きく変化させている。
タップ先に膨大な数のコンテンツが広がる世界の味を占めてしまった今、もう後戻りすることはできないのかもしれない。
子どもの視聴時間の72%を占める動画配信サービス
2016年に北米、カナダ、イギリスの3ヶ国の2,700の両親を対象に実施された調査では、子どもの視聴時間の72%を、「Netflix」や「YouTube」といった動画配信サービスが占めていることがわかった。定額のオンデマンド動画配信サービスを利用する家庭は、実に78%。さらにその52%が、動画配信サービスは「子どものコンテンツ消費の主な手段」であると回答した。
テレビで生まれ育った世代にとって、これは徐々に起こったシフトだったが、物心がついた頃からスマートフォンやタブレットが手の内にあった世代にとって、それはあくまでデフォルトだ。彼らにとって、オンデマンドの動画サービスは“あって当たり前”な存在となっている。
各種動画配信サービスのなかでも勢いを見せるのが、1997年創業のNetflixだ。2017年の第一四半期にはグローバルで購読者500万人を獲得し、その総数は今年4月時点で9,900万人に及んだ。同社はまた、2016年だけでそのオリジナルコンテンツの製作に50億ドル(約5,627億円)を投資したという。「The Crown」や「Black Mirror」といったNetflixオリジナルシリーズが定評を得るなか、同社は6月20日に一味違うコンテンツのリリースを発表した。
その後の展開を視聴者が選ぶインタラクティブ動画
Netlfixが新たに配信を開始したのは、視聴者が展開を選ぶことで ストーリーが “branching”(枝分かれ)する、インタラクティブ動画だ。最初のラインナップは、子ども向けのアニメーション「Puss in Book: Trapped in an Epic Tale」と「Buddy Thunderstruck」の2本。現在は、iOSデバイス、ゲーム機、Rokuデバイス、スマートTVで視聴できる。Androidに対応する時期については特に言及されていない。
実際どんなものなのか、猫が主人公の冒険物語「Puss in Book」を視聴してみた。ストーリーの各所で、視聴者はナレーターにその後の展開を2拓から選ぶように促される。例えば、熊と遭遇するシーンでは熊が敵なのか友達なのかを選ぶ。「そりゃ熊は友達であってほしい。でも、君がどっちを選んでも恨みっこなしだよ」といった具合に、主人公が視聴者に語りかけてくるシーンもある。Puss in Bookの分岐点は計13箇所あり、選んだ内容によって物語の視聴時間は18分〜39分と異なる。
Netflixが、そのインタラクティブ動画のターゲットに子どもを選んだのはごく自然な判断だろう。そもそも、子どもはお気に入りのキャラクターと遊びたがるものだし、タップ・タッチ・スワイプといった画面操作を自分でしたがる。また、言われなくても、まるで聞こえているかのように主人公に話しかけたりする。リリースに際して親と子どもに対して実施した独自調査では、インタラクティブ動画には従来の作品よりも子どもをひきつける効果があることがわかっている。
大人向けには主人公になりきった疑似体験も?
物語の経緯を自ら選べることで、視聴者のコンテンツへのエンゲージメントは高まるのか。どのストーリー展開が人気なのか。選んだ展開によって物語が変わることで、視聴者は同じ動画を複数回観るようになるのか。まだ実験段階の域を出ないインタラクティブ動画だが、その1億人近い視聴者の視聴傾向は貴重なインサイトをもたらすはずだ。
視聴者がストーリー展開を選ぶコンテンツといえば、2013年にYouTubeのアノテーション機能を使ったブリティッシュ・エアウェイズのプロモーション動画が話題になった。行き先を選ぶなどして、視聴者が旅の中身を選んでいく。今年3月中旬、YouTubeはアノテーション機能を“End Screen and Cards”というモバイルファーストの新ツールで置き換えることを発表した。カードを使うことで視聴者にアクションを促すもので、映像体験がインタラクティブになっていく未来を感じさせる。
子ども向けのインタラクティブ動画の結果次第では、大人向けコンテンツへの導入も期待できる。例えば、北米の政治世界の駆け引きを描いた「House of Cards」 では副大統領になった気分で国の未来を左右する意思決定を任されるかもしれない。また、何をやってもダメだった女性が起業家に成り上がる実話に基づいた「Girlboss」では、起業家の苦労を実感を持って味わうことができるかもしれない。
2017年、Netflixはそのオリジナルシリーズの製作に、昨年を上回る60億ドル(約6,753億円)を投資する予定だという。動画のインタラクティブ性が期待通り効果を発揮することは、ハリウッドを中心とする映像製作者にとってNetflixを配信先に選ぶ動機にもなる。機能的な違いが僅差にとどまるオンデマンド動画配信サービスにおいては、コンテンツを制するものがビジネスを制するのかもしれない。
img: Netflix