「選択肢が多ければ多いほど、人は選択できなくなってしまう」
飲食店に入って、メニューが多すぎるあまりに何を注文するべきかを決断できなかった経験がある人もいるはずだ。「選択回避の法則」と呼ばれるこの理論は、行動経済学の分野で長年研究されてきた。
音楽においても、目の前に膨大な楽曲のラインナップが並んでいれば、どう選んでいいかわからない。音楽ストリーミングサービスの場合は、そのラインナップが数千万曲にも上ることがある。
「この膨大な楽曲の中から、何を聴けばいいんだろう?」
そんな疑問を解消するために、音楽ストリーミングサービスを提供する各社は、楽曲のレコメンデーションやパーソナラーゼーションの精度向上に尽力している。4,000万曲以上のラインナップを揃えたSpotify(スポティファイ)も同様だ。
Spotify Japanは2017年6月1日に、自分好みの楽曲を含めたプレイリストを自動生成してくれる「Dailiy Mix」機能の提供を日本でもスタート。2017年6月13日には、ユーザー好みの曲を自動で選曲してくれる「Spotify Radio」の提供も始まった。
「Daily Mix」は、ユーザーが日頃よく聴く音楽のアーティストや、お気に入りの楽曲をもとに、おすすめの曲をミックスしたプレイリストを配信するパーソナライズ機能だ。
おすすめされるプレイリストには、ユーザーが過去に「My Music」に追加した楽曲と、その楽曲にジャンルや雰囲気が近い楽曲が追加される。Spotifyで音楽を聴けば聴くほど、ユーザーの好みが分析され、「Daily Mix」に反映されていく。
「Spotify Radio」は、ユーザーが自分で選択したアーティスト、アルバム、プレイリスト、音楽のジャンルや年代などをベースに、ユーザーの好みに近い楽曲を途切れることなく再生してくれる機能だ。
Spotifyに蓄積されているユーザーの音楽の嗜好に関するデータに基づき、これまでに聴いたことがない楽曲も再生される。
「Daily Mix」がユーザーの好みを分析して自動でプレイリストを作成すことに対し、「Spotify Radio」は、ユーザーが選んだアーティストや楽曲をベースに選曲が行われる。
相次ぐ買収によって、音楽レコメンデーション機能を強化
Spotifyはここ数ヶ月で様々なスタートアップを買収している。
2017年3月に、音楽データ認識技術を開発するロンドンのスタートアップSonalyticと、コンテンツレコメンデーション機能を提供するニューヨークのスタートアップMightyTVを買収。2017年5月には、音楽の検索とレコメンデーションをより正確に行うためのAPIを提供する、パリのスタートアップNilandを買収した。
一連の買収で獲得したサービスや人材を、Spotifyは音楽レコメンデーションやパーソナライゼーションの精度向上に活用していく予定だ。
ユーザーの音楽の嗜好を学習し、音楽レコメンデーションの精度が上がれば、ユーザーとSpotifyの接触時間は増えていくだろう。サービスとの接触時間を増やすことができれば、自ずと広告の再生数も増え、Spotifyの収益は上がる。
音楽レコメンデーションの精度向上はユーザーにとっても便益が大きい。ユーザーが能動的に音楽を探さなくとも、未知の好みに合う楽曲に出会える機会が増えるからだ。
膨大な楽曲の中から自分好みの楽曲を選んでくれる。その楽曲が今までは聴いてこなかったが、聴いてみたら興味を持つような楽曲であったら、より嬉しいだろう。そんなセレンディピティを実現するサービスにSpotifyは進化していくのかもしれない。