人間の手を一切介さずに美味しいコーヒーを淹れる。それは既存のカフェでも、コンビ二のコーヒーマシンでも成し得なかった体験だ。

ガラスの向こうに存在するロボットアームが、手際よくエスプレッソ、ミルクと順に注ぎ、受け取り口で待つ人に渡してくれる。そんな光景を、香港、サンフランシスコで見ることができる。

ロボットバリスタは飲食業界にどのような影響をもたらすのだろうか。

ロボットバリスタを提供する「Cafe X」が世界展開へ

サンフランシスコのスタートアップCafe Xは、香港に引き続き、サンフランシスコのショッピングセンターでも、ロボットアームによる自動式カフェをオープンさせた。

注文方法は備え付けのタブレットか、スマートフォンアプリ。ユーザーは3種類の豆から選び、シロップの量や味を調節してコーヒーを淹れてもらう。事前にスマートフォンアプリで注文しておけば、オーダー時に4桁の番号を入力するだけで、すぐにコーヒーを受け取れる。

1杯のコーヒーを入れるのにかかる時間は20秒ほど。人が介在する業務であった金銭授受や、口頭でのオーダー確認など、これらを大幅に短縮した上で、本格的なコーヒーを味わうことができる。日本でもShowcase Gigが開発する「O:der」のような事前注文アプリが存在しており、店頭での注文や決済に関しては簡略化が進んでいる。

Cafe Xも人が介在する業務を減らす。「接客などいらない。ただ美味しいコーヒーが早く飲みたい」、ロボットバリスタはそんな欲求を叶えてくれる存在だ。

多くの業務をロボットが代替可能に

Cafe XのCEOヘンリー・フー氏が、ロボットバリスタのアイデアを思いついたのは、コーヒーを注文する列へのいらだちからだった。つまり、より早く、より美味しいコーヒーを飲みたいという欲求を満たすべく、Cafe Xは作られた。早く飲みたいというユーザーのニーズを満たすだけではなく、バリスタ側の働き方にも影響を与えている。

ロボットバリスタがカフェに導入されれば、注文を受け、お金を受け取り、エスプレッソを注ぎ、その上からミルクを加えるといった作業は、人がやらなくて済むようになる。

ラテアートでさえ、ロボットが行うようになる日もそう遠くない。実際、イスラエルの会社が開発したラテアートの再現ソフトウェア「Ripples」を使えば、好きな図柄をラテ上にプリントできる。

ロボット化を進めるのはCafe Xだけではない。例えば、韓国にあるクラシックバー「Coffee bar K」では、ロボットバーテンダー「Cabo」を採用。人間でも習熟した技術が必要とされる氷を丸く削る作業を、一身に担っている。

サンフランシスコにある「eatsa」は、完全無人のレストラン。iPadで注文し、クレジットカードで支払いを済ませれば、出来立ての料理が受け取りボックスから提供される。

IBMが開発している料理アプリ「IBM Chef Watson」は、材料を入力すると、膨大なデータと自然言語処理能力を活かしてレシピを提案してくれる。

人が介在することでこそ生まれる価値とは?

コーヒーを淹れる作業にとどまらず、配膳やレジ、調理など様々な作業は、ロボットでも対応可能になる。そうなれば、さらに飲食店の効率化は進む。

だが、人々が飲食店に求める体験は単なる消費や栄養摂取だけではない。時間短縮が歓迎される場面もあれば、目の前でコーヒーを淹れてもらいながらゆっくりとした時間を過ごすことや、店員とのコミュニケーションなど、人が介在することに価値が出るようになることも考えられる。

コーヒーがこれだけ受け入れられた背景には、”インスタント”ではないことが要因としては大きいと考えられる。ロボット化や効率化が進む中で、人が提供できる価値はなにか、ユーザーが求めている価値はなにかを見直していくことも重要だろう。

img : Cafe X