かつて、これほどまでに人と出会いやすい時代はなかった。インターネットが登場し、スマートフォンやソーシャルメディアが普及したことで、個人が可視化され、接続しやすくなったことで状況は変わった。
はずだったのだが、”良い相手”に出会うことが難しいことは相変わらずのようだ。恋愛においても、ビジネスにおいても。出会いやすくなった時代において、良質なマッチングはどのように生み出されるのだろうか。
ビジネスにおける価値あるマッチングを生み出す「yenta」
転職サイト「Green(グリーン)」を運営するアトラエは、2016年1月27日にビジネスマッチングアプリ「yenta(イェンタ)」をリリースした。
yentaは、毎日昼12時に人工知能がユーザーにオススメの相手を10人選出し、レコメンドする。ユーザーは左右にスワイプしながらレコメンドされた10人を「興味あり」「興味なし」に振り分けていく。夜の8時になると、その日のマッチングや受けた「興味あり」の結果が配信される。
yentaはリリースから約15ヶ月で50万件以上のマッチングが生まれているという。数々のマッチングを生み出してきたyentaはレコメンドのために、「完全審査制」と「機械学習によるレコメンド精度向上」を行ってきた。
ユーザーの審査を行うことで、yentaを利用し始めたタイミングですでに相性のいいユーザーが一定以上いることが保証できる状態を作り上げ、プロフィール情報とyenta内での行動データから相性のよい人を予測してレコメンドする人を決めている。
yentaは2017年3月にレコメンドされる10人にフィルタを掛けられる有料アカウント向け機能をリリースした。会いたい対象が明確になっているユーザーにとっては、価値あるマッチングを増やすことができる機能だろう。
yentaは、サービスを通じて会った相手に対するレビューや、Facebookログイン時に取得している関係性のデータなども保有している。今後、継続的にレコメンドの精度向上のためのアルゴリズム改善をしていこうとしている。
アトラエCTO 岡 利幸氏は、yentaにおける「価値のあるマッチング」について、このようにコメントしている。
岡氏「わたしたちが考える価値のあるマッチングには、大きく分けて2種類があります。1つは、自分が関わりのない世界やグループにいるビジネスプロフェッショナルと会う機会が作れること。もう1つは、どちらかが提供してどちらかが享受するような出会いではなく、お互いに何らかの理由で会いたいと思い合っている対等の状態で1on1で話ができることです」
知らない世界のビジネスプロフェッショナルと密度の濃い話ができるので、自己成長や自分のビジネスに新しいエッセンスを加えることができ、対等に話ができることで事業提携や、出資、起業、顧問契約などの話にもつながりやすいという。
フリーランスとして経営者のディスカッションパートナー、新規事業の立ち上げ支援を行う黒田 悠介氏は、yentaについてこのようにコメントしている。
黒田氏「共通の興味関心や問題意識、問いが見つかったときの感じはすごく好きですね。ヤマダヤスヒロさんとマッチングしたことは、とても印象に残っています。当時、わたしが携わっていたプロジェクトにお誘いして、ご一緒することになりました。違う専門性の人と出会えるのが素晴らしいと思っています。
わたしは、yentaで出会うエキスパート人材を誘って一緒にチームを組んで『チームランス』として活動することもありますし、出会った方の課題を聞いている中で、いつの間にかクライアントとなることもあります。共同でイベントを開催などのプロジェクトを始めることもありますね」
直接会うまでを含めたUXデザイン
マッチングサービスである以上、ユーザー体験はアプリの画面内に留まらない。マッチングした後、直接会うところまで含めてユーザー体験を設計する必要がある。アプリ上でのマッチングと、対面で会うことには大きな違いがある。yentaは、どのようにユーザーのアクションを促しているのだろうか。岡氏は、以下の3つの工夫をこらしていると語る。
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- 1.ユーザーが1日に行う行動をシンプルにすること
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- 2.メッセージを送りやすい空気作り
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- 3.会うきっかけになるオープンランチ
マッチングアプリといえば、「Tinder(ティンダー)」などのデーティングアプリを思い出す人も多いだろう。Tinderではスワイプをしながらリアルタイムにマッチングをするため、スワイプを続けるか、マッチングした人にメッセージを送るかの選択をしなければならない。yentaは、リアルタイムにはマッチングを行わない。「スワイプをする時間」と「マッチングを確認して連絡をする時間」を分けることで、ユーザーの行動を1つに絞る仕組みにしている。
マッチングしたとしても、いきなり面識のないビジネスパーソンにメッセージを送ることはハードルが高い。yentaでは初回のメッセージテンプレートが3パターン用意されており、どんな空気感でメッセージを送ればいいのかを示唆している。それぞれのテンプレートはユーザーが自分なりにカスタマイズできるので、丁寧なメッセージ、カジュアルなメッセージなど、いくつかのパターンを自分なりに保存しておくことが可能だ。
それでもまだハードルを感じるユーザー向けに、オープンランチという機能も用意されている。自分の空いているランチの場所と日付をマッチング相手に公開し、その日付と場所でランチができる人からメッセージをもらうことができる。例えば、オフィスが渋谷にある場合、「6月25日@渋谷駅周辺」というオープンランチを登録しておくと、マッチング相手でこの日の渋谷でのランチができる方から連絡が来る。
ビジネス領域の”知性のブラックボックス化”を解消する
「yentaがイメージしているのは、出会いの『最適化』と『爆発力』です」−−そう岡氏は語る。「最適化」は、明らかに相性が良く会った方がいい人同士を結びつけるための仕組みで、「爆発力」はセレンディピティとも呼ばれる、偶然の出会いから予想外の価値が生まれる事象のことを示しているという。
岡氏「わたしは『日本のどこに、どんな人が存在しているのか』が分からないという状態であると認識しています。これをわたしはビジネス領域の”知性のブラックボックス化”と呼んでいます。
こうした背景には、LinkedInではなくFacebookが流行ってしまったことや、そもそも自らのビジネスプロフィールを公開することにメリットを感じにくい職業文化など、いくつかの理由が存在しています。
ただ、もうすでに日本も世界に負けないスピードで変化していかなければならない時代を迎えている。時代に対応するためにも、もっと日本のビジネス領域に存在する知性が、有機的につながり、新しい価値が継続的に生まれているというインフラを作りたいと思っています」
岡氏は、本来であればエンジニアの世界におけるオープンソースカルチャーをビジネスの世界に構築したいと考えているという。オープンソースが存在することで、技術は驚くべきスピードで進化しており、これに近い状態をyentaで作り上げるために、「知性のネットワーク」を作り上げていこうとしている。
岡氏「最近では、スタートアップやベンチャーの方々だけでなく、大企業のR&Dやオープンイノベーション、新規事業などの担当の方々や、大学教授、国の官僚、政治に関わる方なども、yentaを利用していただいています。起業や事業提携、M&Aやオープンイノベーションなども、yentaによってもっと活性化していくのではないでしょうか」
普段接している人と違う人と出会うことは、イノベーションを生むためにも重要視されるようになっている。yentaはこうした人々にとっても、貴重なツールとなるだろう。岡氏は、yentaがこれだけ成長してきた背景には、ユーザーの人々との関係性があると語る。
岡氏「yentaはユーザーのみなさまに支えられて成長してきました。定期的なユーザーMeetupでも温かい声や、もっとこうしたらyentaはもっと価値があるなどのアドバイスをいただくことができています。ユーザーのみなさまに応援していただけているアプリであることが、わたしたちの原動力になっています。
これからも、各yentaユーザーにとって『人生を変えるような劇的な出会い』を生み出していきたいですね。嬉しいことに、現時点でもyentaの問い合わせフォームなどから『yentaのおかげで人生がポジティブに変わりました!』『yentaでの出会いによって、ぶつかっていた壁を超えられそうです』などの感謝の声をいただいています」
情報爆発が起こり、人々は自分に必要な情報だけを求めるようになった。現在起きているマッチングもオーバーフロー状態になってもおかしくはない。人が自らにとって適切な出会いだけを求めるようになったとき、yentaの役割はさらに重要なものになっていくだろう。
岡氏「人生の転機を自分で作り出すには限界があるはず。yentaのような偶発的な出会いを生み出せる仕組みが、多くの方々の人生をポジティブに変えていくプラットフォームになれば嬉しいですね」
img: yenta