博多一風堂や熊本県庁、東京駅のお菓子屋さんに、大手町にあるスタートアップ向けインキュベーション施設。彼らにはある共通点が存在する。

従業員向けのチームウェアだ。4社とも衣類生産プラットフォームを展開するsitateru(シタテル)のサービス「WE ARE」を利用し、ワークウェアを制作している。一風堂では有名デザイナーを起用した独創的なデザインにこだわりの生地を用いており、熊本県庁は災害時に着用するウェアのため、背中には大きく熊本県の文字が刻まれる。

従来、ワークウェアは決まった形の服にロゴが入るといった単純なデザインが中心だった。その背景には、ワークウェア程度の小ロットの場合、生産側がデザインのバリエーションに対応できないという課題が存在していたという。生産負荷のない同じ型の服を作り、後からロゴを入れるといった作り方が一般的になっていた。

sitateruが実現する、工場の余剰リソースを活用した小ロット生産

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対してsitateruの場合、独自のデザインや仕様、生地を用いたウェアの製造を小ロットから可能としている。同社は国内250以上もの縫製工場や生地メーカーと提携。工場における生産ラインの稼働率をテクノロジーを用いて管理し、稼働していない時間を小ロット生産に活用。

工場側にとっては稼働率の向上を提供し、発注者側にとっては小ロットでも自由度の高いオーダーを可能としている。

近いモデルでは印刷業界におけるラクスルが存在するが、製造現場においては既存プロセスには一切手を加えず、テクノロジーによって管理体制を構築するだけで製造のハードルを下げているのは大きな特徴と言えるだろう。

テクノロジーの導入で管理コストの削減にも寄与しつつ、稼働率の向上にも寄与する。導入側にとっては良い条件が揃っているというわけだ。

小口製造が実現するのは、小規模の可能性の拡大

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sitateruは前述した250以上のネットワークを活かし、ワークウェアだけでなく、渋谷にあるホテルのガウンやブランケット、銀座蔦屋書店における限定アイテムのトートバック、登山コミュニティサイトが作る登山用パンツなど、幅広い布製品を手がけているという。

特に、多店舗展開していないホテルでのオリジナルアイテムや、登山コミュニティサイトのオリジナルパンツなどは、従来の大口製造では実現がかなり難しいアイテムのはずだ。大量に注文するわけではなかったり、見込める数がそもそも多くない人にとって、sitateruが取り組むアパレルを中心とした布製品の製造はハードルが非常に高い分野だ。

そこにテクノロジーとプラットフォームを持ち込むことで、上手く作る側と作って欲しいと思う側をマッチングさせるのがsitateruの役割となる。前述したラクスル同様、製造におけるハードルが高い一方で稼働率が決して高くないといった分野はまだまだ存在するはずだ。

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ものづくりを一部の会社の膨大な量の発注に頼るのではなく、個人レベルの小さな発注を大切にし効率よく管理することで売り上げを上げる。製造という一見ハードルが高い分野だからこそ見逃しがちだが、テクノロジーはこのギャップをも容易に超えていくようだ。

US版Wired編集長のクリス・アンダーソン氏は著書『ロングテール』において、3Dプリンタをはじめとした製造技術の変化によるロングテールに言及している。個人レベルでものづくりができるようになることで、社会全体の商品ラインナップは爆発的に増加。それに合わせて消費する側の多様なニーズへマッチングしていくというものだ。

 

クリス氏が言及するロングテールの実現に対しsitateruはその一助となるだろう。製造における小口対応やバリエーション、柔軟性やオンデマンド対応はロングテールには欠かせない。社会のニーズが多様化しニッチな需要が増加するからこそ、それに対応するビジネスは今後必要性を増していくだろう。

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