20世紀のアメリカの思想家、建築家バックミンスター・フラーは、地球を閉じた宇宙船に喩えることで、地球の資源の有限性や、その資源を適切に使用する重要性を世に訴えた。フラーは1963年に『宇宙船地球号操縦マニュアル』を著し、資源を消費する社会から、資源が循環する社会へ移行する必要性を語っている。

経済学者や思想家がこのような提言を続けてきたものの、約250年前に資本主義が”発明”されてから、生産と消費のあり方は大きな進化を遂げずに今に至っている。だが、人類はいよいよ進化しなければならない局面に至っている。

WWFの試算によれば、「2030年には、地球2個分以上の資源がないと現在の消費は維持できない」という。サステイナブルな経済を実現しなければ、今後わたしたちの生活を維持していくことが難しくなるというわけだ。

では、わたしたちはどんな未来を作っていけばいいのだろうか?2017年4月に開催された、世界の新経済・新産業を牽引する起業家・イノベーターが一堂に会し、時代の潮流を先取りする議論を交わす『新経済サミット2017』では、そのヒントが提示された。

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2日にわたって開催された本イベントの1日目の『サステイナブルな未来のビジョン -サーキュラーエコノミーとLiving Anywhere-』と題したセッションで語られた、循環型経済の概念「サーキュラーエコノミー」は私たちが知っておかなければならないものだろう。

同セッションには、株式会社LIFULL(ライフル) 代表取締役社長・井上高志氏、Mistletoe(ミスルトウ)株式会社 代表取締役社長兼CEO・孫泰蔵氏、アクセンチュア株式会社 取締役会長・程近智氏の3名が登壇。「サーキュラーエコノミー」やサステイナブルな未来を実現する方法論について白熱した議論が交わされた。

本記事ではイベント内で議論された内容を踏まえながら、今注目を集める新概念「サーキュラーエコノミー」について解説していく。

「無駄」を富に変えるサーキュラーエコノミーの考え方

世界では、消費していく一方の経済ではなく、資源を循環させる経済が求められている。ここ最近、新しい概念として注目を集めているのが「サーキュラーエコノミー」だ。サーキュラーエコノミーは、資源の無駄や捨てられている素材、まだ使用できるにもかかわらず破棄されている製品など、世の中の数多ある「無駄」を活用し、利益を生み出すことを目指す考え方。

サーキュラーエコノミーにおける「無駄」は廃棄物だけではなく、企業の会議室や自動車、日用品などの使われていない資産も含まれる。こうした無駄を活用しているシェアリングサービスなども、サーキュラーエコノミーに含まれると言えるだろう。

アクセンチュアの調査によると、日本における住宅の空き家率は13.5%、食品ロスは約500-800万トンにものぼる。わたしたちは生産・消費のあり方を根本的に変える必要がある一方で、世の中の既存設備や製品を最大限活用していくことも求められている。

困難な状況にある私たちにも希望の光は差している。2016年に世界経済フォーラムとエレン・マッカーサー財団は「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)がサーキュラーエコノミーへの移行を促進する役割を果たす」と主張した報告書を作成している

報告書の中では、世の中のあらゆるデバイスがインターネットに接続されると、遊休資産の状況がリアルタイムで可視化され、資源の利用効率を高めると語られている。テクノロジーの進化によってわたしたちは無駄をなくしていける可能性を手にする。

サーキュラーエコノミーに分類される5つのビジネスモデル

程 近智氏(アクセンチュア株式会社 取締役会長)

「『どのような未来を実現したいか』を考え、起業家は夢を追い事業をつくります。彼らが追いかける夢のひとつが、地球と共存しサステイナブルな未来を実現する『サーキュラーエコノミー』なのです」

セッションの冒頭で程氏はこのように語った。程氏が会長をつとめるアクセンチュアでは、書籍『サーキュラー・エコノミー ~デジタル時代の成長戦略~』を出版するなど、「サーキュラーエコノミー」に注力している。アクセンチュアは、企業がサーキュラーエコノミーの概念をビジネスにするためのアプローチを5つに分類し、書籍の中で紹介している。

  • 再生型サプライ
  • 回収とリサイクル
  • 製品寿命の延長
  • シェアリング・プラットフォーム
  • サービスとしての製品

「再生型サプライ」は、繰り返し再生し続ける100パーセント再生可能な製品や、リサイクルや生物分解が可能な原材料を製品にする考え方だ。再生型サプライを自社のビジネスに導入している企業に「CRAiLAR Technologies(クライラーテクノロジーズ)」がある。

同社はCleanTech分野で、サステイナブルな繊維の開発に取り組んでいる。同社は亜麻や麻の茎などの端材を活用することで、コットン並みの品質を持った繊維を環境に負荷を与えず生産することに成功した。

「回収とリサイクル」は、不要になった資源を回収し、リサイクルすることで、「無駄」を減らすという考え方だ。これまで企業が取り組んできたような製品のリサイクルを指す。

Nudie Jeans

「製品寿命の延長」は、高品質で耐久性に優れた製品づくりや、中古品の修繕や再販を通じて、製品の耐用年数の延長によって価値を生み出す考え方。スウェーデンのジーンズメーカー「Nudie Jeans(ヌーディージーンズ)」では、自社が販売したジーンズの修繕を無償で行っている。また、スウェーデンでは政府が修理代にかかる付加価値税の引き下げを検討するなど、国家が主体となって、サーキュラーエコノミーの普及に取り組んでいる。

Spacious

「シェアリング・プラットフォーム」は、使われていない資源を他者と共有する考え方だ。AirbnbやUberを筆頭に、世界各地で様々なシェアリングサービスが登場した。営業時間外のレストランをオフィススペースとして貸し出す「Spacious(スペイシャス)」をはじめ、遊休資源を活用するサービスも存在している。

Philips

「サービスとしての製品」は、これまでは売り切りだった製品を従量課金制のようなサービス型のビジネスモデルに変える考え方だ。フランスのタイヤメーカー・Michelin(ミシュラン)では、車が1マイル走るごとに使用量を支払う、従量課金制のタイヤを販売している。オランダの電機メーカー・Philips(フィリップス)では、電球販売から「どれだけ明るさを提供したか」を基準に課金するモデルへ転換導入した。このモデルは「Pay-by-the-Lux(ルクス):明るさに応じて支払う」とも呼ばれている。

サーキュラーエコノミーが社会に浸透した未来のビジョン

サーキュラーエコノミーが浸透することで、世の中はどのように変わるのか。

製品寿命が延び、遊休資産を共有し、消費者は製品・サービスに対しては使った分だけお金を支払う。社会で定常的に必要となるコスト、資産の総量は今より減少することが予測される。

モノを買い換えずに長く使う、モノを所有せずに共有する文化が普及していけば、生産と消費を絶えず繰り返していく社会は変化し、企業もビジネスモデルを変える必要が出てくるだろう。

サーキュラーエコノミーの5つのビジネスモデルの中でも「製品寿命の延長」は、企業の製品製造数を減らし、モノを買い換えずに長く使う時代を加速させる。新しく製品を製造しなくても、中古品の修繕や再販を行えば、消費者には同じだけの価値を提供できる。このビジネスモデルは、「回収とリサイクル」とも関連する考え方だ。

耐久性に優れた製品をつくり、その製品の買い換えではなく、製品に付随するプレミアムサービスで課金していくような方法を取れば、企業は消費者から継続的に利益を得ることができる。この「量」ではなく「期間」で稼ぐビジネスモデルは、「サービスとしての製品」とも関連する考え方だ。

「シェアリング・プラットフォーム」型のビジネスモデルは、モノを所有しない時代を加速させるだろう。世の中の隠れた遊休資産を発見し、それを必要とする人とつなぐことができれば、ゼロから新しいものを作らずとも、同じだけの価値を消費者に提供できるはずだ。

サーキュラーエコノミーのアプローチに共通するのは、「モノ」を媒介にした消費者と企業の関係が長く、多面的になっていくことが挙げられる。大量生産・大量消費の時代と比較して、圧倒的に企業が生み出すモノが消費者に寄り添う時間は長くなっていく。新しく紡がれる関係性をいかに価値化していくかが、これからの企業には求められそうだ。

アクセンチュアの調査では、サーキュラーエコノミーの経済効果は2030年までに4.5兆米ドルにのぼるといわれている。いかにして循環するビジネスモデルを生み出していくかは、資源の有効活用と経済性の両方において、企業が対峙すべき「問い」だといえるだろう。

img: Nudie Jeans , Spacious , Philips