「1,000曲をポケットに」

初代iPodを発表するプレゼンにて、新たなプロダクトの革新性を伝えるために、スティーブ・ジョブズはこう語った。

だが、iPodに楽曲を詰め込むために、CDから取り込んだ音源をmp3形式に圧縮していたのは、もはや懐かしさを覚える行為だ。今のMacBookにはCD/DVDドライブすらついていないし、CDから音楽を取り込む行為自体も、最後にしたのはいつだったのか覚えていない。

世界では音楽はストリーミングで楽しむものになってきており、SpotifyやApple Musicといったサービスが広まっている。その一方で、オーディオ機器にはハイレゾブームが訪れている。「良い音源を、良いデバイスで、しっかりと聞き込みたい」、そういった人は、音源をmp3ではなく、AACやロスレス形式に変換している。

「mp3はもう役目を終えたかもしれない」−−そう多くの人が考えていたところに、終焉を決定づける事件が起こった。

2017年4月23日に、mp3を開発し、関連特許を所有しているドイツのフラウンホーファー研究所が、mp3のライセンスプログラムを終了したと発表。声明にて「mp3は消費者の間で未だに広く使われている」と前置きしつつ、高音質のAACなどの形式を推奨している。ちなみに、同研究所はAACのライセンスを所有している。

つまり、一時代を築いたmp3という規格は、死を迎えつつある。

テクノロジーによって変わる音楽体験

新しい規格の登場や、視聴環境が大きく変わる背景には、テクノロジーの進化がある。約15年前にポケットに1,000曲を入れられるようになり、今ではポケットに入っているデジタルデバイスからインターネット上のあらゆる楽曲にアクセスできるようになった。Spotifyに登録していれば、4,000万曲以上が聴き放題だ。

音楽は、CDという実物に込められた存在から、mp3というデータに変わり、最後は所有せずにアクセスするものになった。もはや「音楽を所有する」こと自体が古いのかもしれない。

昨年『ヒットの崩壊』を出版した音楽ジャーナリストの柴那典氏が「『音楽業界で起こっていることはうちの業界でも起こる』『音楽業界は他業界の先行指標なんだ』ということをほかのコンテンツ業界の人に知ってほしくてこの本を書いた」と語っているように、音楽業界における変化は、エンタメやカルチャーに関する他業界を読み解く上で、参考になりやすい。この先、映像業界や出版業界などでも、規格の変化は訪れるだろう。

共通規格として普及したものでも、その次の規格が現れることで、終わりを迎える。デジタル化が進むことで、一度普及した共通規格が塗り替えられる速度は上がっている。一度、多くの人々に使われるものができたからといって、油断は禁物だ。ただ、これは新しいテクノロジーによる進化だ。次はどんな進化が起こり、どこにビジネスチャンスが生まれるのか。常に探し続けるスタンスが求められる。