リオデジャネイロ・パラリンピックの男子走り幅跳びで金メダルを獲得した、マルクス・レーム氏。彼は2014年に開催されたドイツ選手権において、義足でありながら健常者の記録を超えた跳躍で優勝し、スポーツ界に衝撃を与えた人物だ。義足を身にまとうことで、健常者の記録を凌駕する——義足が身体の機能を拡張する可能性を世界に示したのだ。
古くはメガネにはじまり、工場労働者の外骨格など身体機能を「拡張」するテクノロジーはさまざまな場面で活躍してきた。「身体拡張」と呼ばれるこの分野は、テクノロジーによって本来人間の持つ能力以上の身体能力や機能、技術などを体の一部として扱えるようにする。
近年では、筋電義手やMR(Mixed Reality)ゴーグル、ウェアラブルデバイスなど。さまざまな身体を拡張する可能性を持ったデバイスが登場してきている。
現在Indiegogoでクラウドファンディングを行う「Knops(ノップス)」も、身体拡張の一種だろう。Knopsは耳の機能を拡張しボリュームコントローラーの役割を身体の延長上に持たせようとしている。
Knopsは耳に入ってくる音量を物理的にコントロールする。ノイズキャンセリングのようにノイズと逆向きの波長を出すことで聞こえなくするのではなく、純粋に遮音。本体のつまみを回すことで0〜30dbまで10dbずつ4段階の調整が可能となる。
さまざまな音から耳を守るという思想のもとKnopsはつくられている。イヤホンやヘッドホンを装着し音楽を楽しむシーンだけでなく、現代人はあらゆるシーンにおいて音楽、ひいては音に触れ続けている。意図するか否かを問わずわれわれは音に触れ続けることで、耳にはそれ相応に負担をかけていると言える。その負荷を調整する役割をKnopsは担おうとしている。
耳に入ってくる音量を調整したいシーンは騒音下だけではない。日常生活においても、集中するためのスイッチとして、気分転換への入り口としてなど…役割は幾つも考えられる。そのスイッチの役割をKnopsによって耳に持たせるというわけだ。
身体拡張は今後のテクノロジートレンドの中で、大きな役割を果たしていく。労働人口の年齢が上昇し続けると、身体機能は低下していく。年齢によって生じる身体機能の低下をテクノロジーにカバーさせることで、高いパフォーマンスを維持し続けようとしても不思議ではない。極端な話では介護現場におけるパワードスーツの役割はまさにそれに近いだろう。身体機能を拡張・実装する社会はそう遠くはない。
img: Knops