分厚い黄色いガイドブックを小脇に抱え、空港へ降り立つ…。十数年前であれば当たり前だった姿も、いまや普段から使っているスマートフォン1台で全てがまかなえるように変化。ガイドブックを片手に観光する姿を見る機会もぐっと減っただろう。

この変化は、ほとんどの観光客が観光情報をインターネットで得ていることを示している。1冊の本よりも膨大な情報が溢れるインターネットがあれば本は確かに不要かもしれない。ただ、われわれはインターネットによって観光先の情報を『適切に取得できるようになった』かと言われると少々疑問が残るだろう。特に海外旅行においては言葉の壁もあり、難易度が高くなる。

たとえば訪日観光客が情報を取得する場合、日本語のサイトは閲覧せず、自身の母語で情報を集める。そこに集まる情報は過去の観光客が集めた情報もある一方、本と同様広告出稿して掲載してもらっている情報が集まっているところも少なくない。

外国人観光客を集めたいと考える店舗などが彼らにアプローチしようと思うと、結局媒体に出稿するという苦労を強いられる構図に変化はない。チェーン店をはじめ大規模にプロモーションをかけられる店舗は問題ないだろうが、小規模な店舗ではなかなか外国人観光客に対し情報面でのアプローチは難しくなる。

そこを副次的につなぐのがecbo(エクボ)株式会社が運営するecbo cloakの役割の1つだ。

ecbo cloakは、店舗の空きスペースに荷物を預かってもらう『荷物を預けたい人』と『荷物を預かるスペースを持つお店』をつなぐ、シェアリングサービスだ。東京であれば、駅前でコインロッカーを探す訪日観光客の姿を目にしない日のほうが珍しいほど、コインロッカーのニーズが高い。

そのコインロッカーの役割を店舗に担ってもらう。『外国人観光客に来てもらいたい』『空いている場所を有効活用したい』という店舗のニーズと、『荷物を預けたい』と考える訪日観光客をマッチングし、『店舗に預けに行く』という行動を発生させるのがecbo cloakの役割だ。

一度店舗まで足を運んでもらえば、カフェであればコーヒーを頼むかもしれないし、お土産物屋ならばお土産を買うかもしれない。荷物を預けるという本来の目的はあるものの、そのタイミングで興味喚起さえできれば、ecbo cloakは外国人観光客を集める広告ツールとなり得るのだ。

ecbo cloakを導入している渋谷のカフェ「factory」のオーナー・西原 典夫氏に導入にしてみての変化を伺ったところ、以下のように語ってくれた。

西原氏「factoryでは、リスクやコストなしでメディアやサービス内での露出が狙えると考えて、ecbo cloakを導入しました。当店の場合、観光客狙いというより、リテラシーが高いアーリーアダプターの人たちへのアプローチを狙いました。収益を上げることはそこまで期待していませんでしたが、駅から離れた立地にも関わらずユーザーは足を運んでくださいますし、認知の獲得にはつながっているのではないかと感じます。これからの成長に期待したいサービスだと思っています」

ecbo

ここで少々視点を変え、事業者ではなく消費者視点で見てみると、ecbo cloakはテクノロジーによって街中の至る所をコインロッカーにアップデートしようとしている。今年1月に渋谷でスタートした同サービスは、京都や大阪、福岡など各地へ展開。5月中旬には新宿TSUTAYAという横展開が期待できる店舗でトライアルを行うなど勢いを増している。ecbo代表の工藤慎一氏は現在のコインロッカーのアップデートを通し荷物を預けるのが当たり前となる文化をつくろうとしていると語る。

工藤氏「ecbo cloakはコインロッカーをアップデートすることを通し、店舗をはじめ、荷物を預けることの心的ハードルを下げたいと考えています。どこにでも荷物を預けることが当たり前といった文化をつくる。文化ができれば、利用者の方はもちろん、店舗様も含めより多くの方にecbo cloakの価値を感じていただけると思っています」

消費者・店舗ともに価値を提供しようとするecbo cloak。このサービスはまさに、三方良しのビジネスといえるだろう。単純に利益を上げるだけでなくビジネスを通し社会にどのような価値を提供していくかは、いまのビジネスシーンでは避けて通れない視点だ。誰のため、何のため、そのビジネスを行うか。今一度整理し見つめ直すことで、その価値は自ずと見えてくるだろう。

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