日本旅行中のアメリカ人女性とカフェに行ったとき、宿泊は「Airbnb」でアパートの一室を借りたと話していた。宿泊期間は7日。アパートの一室であればキッチン、洗濯機など生活に必要な家具が揃っており、自炊もできる。日本に住んでいるような感覚になれるところがよい、と教えてくれた。

民泊を代表する大手民泊仲介サイトAirbnbの利用者は、10年間で約2億人にものぼった。 日本においても、2017年7月から9月の宿泊施設利用率はホテル、旅館に次いで民泊が訪日外客から支持を得ており、特に20代を中心としたミレニアル世代の利用率は半数を超えている。

また前述した彼女は「日本人が普段は何を食べているのか、どういう日常生活を送っているのかが知りたい」とも言っていた。彼女が民泊を利用した背景は“生活を体験する”というところにもある。

「日本人と同じ生活をしてみたい」という訪日外客の需要を満たす点でも、民泊のトレンドに拍車がかかる理由となっているのだろう。

「民泊」にビジネスチャンスを見出す大手プレイヤーたち

民泊の注目とともに政府も動き始め、住宅宿泊事業法(民泊新法)の制定を2017年6月に発表、2018年6月15日には施行が決まっている。民泊新法では180日以内という条件付きで、賃貸住宅の空き部屋なども住宅宿泊管理業者を介入させることによって、民泊としての使用を許可した。

過去にAMPでも紹介したアパート賃貸会社、レオパレス21の民泊事業参入や、楽天LIFULL STAY株式会社がレオパレス21へ民泊事業運用代行サービスを提供するなど、民泊事業にビジネスチャンスを見出した大手企業が相次いで参入してきている。

2018年1月には、不動産情報サイト「SUUMO」を運営する株式会社リクルート住まいカンパニーが、Airbnbと業務提携を結んだ。SUUMOに物件を掲載している賃貸管理会社や賃貸オーナーに、空き部屋を活用した民泊運営を提供することを目的として行われている。

民泊の運営などはリクルートと提携している民泊運営代行業者に委託を行い、入居者の決まらない間は民泊として、決まった際には賃貸として部屋を貸していく仕組みだ。

また、高級ホテル・旅館を運営する星野リゾートも、民泊事業の法制化に合わせ、その市場について注目しており、民泊事業について検討中だと発表した

個人の家の一室をユーザーに提供することから始まったAirbnbの民泊サービス。そのプラットフォームが人気となり、企業にも提供を始めることでビジネスの規模を成長させてきた。民泊新法が施行されれば今後ますます企業の参入も増え、民泊市場は拡大を続けるだろう。

一方で、当初ユーザーから期待されていた“民泊サービス”は、ビジネス化を受けて変化してしまう懸念もある。

企業から提供される“民泊”と体験の変化

民泊新法では民泊事業を営む者の申請が必須となり、また民泊専用の部屋を借り、提供することは禁止とされた。さらに民泊先に民泊事業者が不在の場合は、住宅宿泊管理業者を別途立てることが必須となっている。

民泊新法に従うと、Airbnbに登録している多くの物件が違法となる。これの整備にともない、Airbnbでは民泊の定義に該当しない違法物件を排除する方針を示していると、日経新聞が報じている

「民家へ泊まる」ためのサービスだが、一般市民がホストとなるハードルが上がってきてしまっているのが現状だ。

Airbnbはこれまで「暮らすように旅する」というコンセプトをもとに、民泊ビジネスを拡大してきた。地域住民の家の一室を借りて住まわせてもらうことで、現地の暮らしに溶け込む体験や、ホストとの交流が実現し、その土地により根付く形で旅ができる。

過去にAMPでも紹介したように、現地ならではのツアーに参加できる「トリップ」を提供することで、Airbnbはより現地の暮らしを体験できるサービスを提供しようと取り組んできた。

安価に泊まれるといった利点もあるが、それに加えて「現地の生活の体験」というところにユーザーは魅力を感じ、Airbnbの利用率が上がっていったはずだ。今後、民泊の企業参入により一般人からの提供が減少していくと、「誰かの家にお邪魔する」といった生活体験は難しくなってしまうかもしれない。

企業からの民泊物件提供はビジネス拡大のうえで欠かせないものではある。だが、本来のコンセプトであった「暮らすように旅する」を守るために、現地の人とも交流できるような物件提供を維持することが、今後求められてくるようになるだろう。

img:PEXELS,Unsplash