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ダボス会議でも主要アジェンダになった「プラスチックごみ問題」
マッキンゼーとOcean Conservancyによる海洋プラごみ問題に関するレポート「Stemming the Tide」。同レポートが伝えた学術誌「Science」2015年2月13日の論文によると、海に流れ出るプラスチックごみの量は年間800万トン。生態系の破壊だけでなく、経済にも大きな打撃を与えている。
現在も海洋に流出するプラスチックごみは増え続けており、何もなされなければ、その累計量は2025年には2億2,500万トンに達するという。
クジラやウミガメなどの海洋生物がプラスチックごみを餌と間違え摂取し死亡したというニュースをしばしば見聞きするが、ニュースになるのは氷山の一角。ニュースにならずとも、プラスチックごみが理由で死亡するクジラやウミガメはかなり多いと推測される。
これまでは主に環境NGOが率先して提起してきた問題であるが、今やダボス会議で主要アジェンダに掲げられるなど、政治・ビジネスリーダーや投資家なども高い関心を寄せるグローバルイシューとなっている。
モルガン・スタンレーの投資家意識調査によると、この数年投資家の間では、プラスチックごみ問題と気候変動問題への関心が急速に拡大。これにともない「サスティナブル投資」に流れる投資資金も増加の一途だという。
さまざまなプレーヤーの関心が向けられるのは前向きな動きと見て取れるが、実際にごみ問題を緩和し解決するのは非常に難しいミッションだ。前代未聞のグローバル危機であることから、国際機関を通じた対策が想定されるが、各国の足並みを迅速にそろえるのは困難。
個人レベルでプラスチック利用を減らすという取り組みもできるが、任意の行動に任せていては大きな効果は期待できない。
そんな中注目されるのが自治体レベルでの取り組みとその効果だ。世界各地には「zero-waste(廃棄ゼロ)」を掲げる市町村が登場。レトリックだけでなく、実際にごみの廃棄量を大幅に減らすことに成功しており、自治体レベルの取り組みの有効性を実証しているのだ。
スロベニア首都リュブリャナ、ごみゼロのロールモデル都市へ
自治体レベルの取り組みが奏功し、ごみの量を大幅に減らすことに成功したとしてスロベニアの首都リュブリャナに注目が集まっている。
スロベニアは、北はオーストリア、西はイタリア、南東はクロアチア、北東はハンガリーと国境を接する中央ヨーロッパの国。国土は2万平方キロメートルで、台湾(約3万6,000平方キロ)の3分の2ほどの大きさ、人口は約200万人。
スロベニアの中央に位置する首都リュブリャナ、人口は30万人ほど。歴史的な町並みを目当てに多くの人々が訪れる人気の旅行先の1つとなっている。
スロベニア首都リュブリャナ
このリュブリャナ、2014年に欧州で初めて「zero-waste(廃棄ゼロ)」を目標に設定。
当時すでに市内の分別ごみ回収率は60%に達し、1人あたりの年間ごみ排出量(residual waste)は150キログラム以下に抑えるなど欧州のなかでも進んだ取り組みを見せていたが、2025年までに回収率を75%、1人あたりの年間ごみ排出量を60キログラムにするというさらに高い目標値を掲げたことで、より一層の関心を集めるようになった。
欧州では2010年から、持続可能な取り組みで成果をあげている都市を表彰する「Green Capital賞」が毎年実施されているが、リュブリャナはその環境政策での成果や市民の環境意識が向上したことが評価され、2016年に同賞を受賞。
英ガーディアン紙2019年5月の記事によると、この時点におけるリュブリャナの1人あたり年間ごみ排出量は115キロ。順調にごみ排出量を減らせていることがうかがえる。この数値は、欧州のなかでかなり低い値だという。
リュブリャナのごみ削減の取り組みで特筆すべきは「焼却炉」という選択肢を選ばなかったことだ。日本はリサイクル率が高いといわれているが、実際のところはほとんどが焼却処分されているとの指摘がある。一方、リュブリャナでは「真のリサイクル/リユース」が実施されているのだ。
それを可能にしているのが2015年に開業したリサイクル施設「Regional Center for Waste Management(RCERO)」。同施設はリュブリャナだけでなく周辺都市を含めた約70万人分のごみのリサイクルと処理を行っている。運ばれてくるのは分別後に残ったその他ごみと生ごみ。
先端技術が活用されており、ここで取り扱われるごみの97〜98%がアルミ、堆肥、燃料に生まれ変わっているという。埋め立てられるのは残りの2〜3%のみ。リサイクル可能な、パッケージ、紙、プラスチック、ガラスは直接リサイクル企業に運ばれ処理されている。
リュブリャナの取り組みは、焼却施設を持たずとも、ごみの大部分をリサイクルし、廃棄量を大幅に削減することが可能であることを示す事例。その動向には欧州各都市が注目していることだろう。
リュブリャナ市内のシェア自転車(2019年10月)
リュブリャナより廃棄量少ないイタリアの小さな街&ベトナムでも「zero-waste都市」プロジェクト始動
1人あたりの年間ごみ排出量(residual waste)が115キロのリュブリャナ。欧州の都市の中ではかなり少ないといわれているが、一番少ないわけではない。
欧州で最も少ないのはイタリア・ヴェネツィア北部にある都市トレビーゾだ。その量は59キログラム。
2000年同市のリサイクル率は27.2%にとどまるものだったが、Contarinaという企業による廃棄物管理と自治体のコミットメントにより、2015年には85%以上に上昇。この間、市内1人あたりの年間ごみ排出量は217キロから50キロ台に下がった。
1人あたりのごみ排出量が欧州で最も少ないイタリアの街トレビーゾ
リュブリャナとトレビーゾは欧州で「zero-waste」実現に最も近い都市ということがいえるだろう。
自治体レベルで廃棄ゼロを目指す動きはアジアでも活発化しそうだ。
ベトナムでは、グラミン銀行でおなじみのムハマド・ユヌス氏が創業した組織Grameen Creative Labとプラスチック問題解決に向け結成された企業連合The Alliance to End Plastic Wasteが共同でzero-waste都市プロジェクトを開始。
2020年中の開始を目指し、プロジェクトを実施する都市の選定を行っているところだ。
ベトナムでは、回収されたごみがリサイクルされる割合は10〜15%のみ。90〜85%が埋め立て処分、または焼却処分されている。ごみ収集の制度が全国レベルで整備されていないベトナムでは、回収されないごみはかなり多いと見込まれる。
こうしたごみは河川に流れ込み、海を汚染。また埋め立て地のごみや搬送中のごみも海洋に流れ出ていると指摘されている。
冒頭で紹介したマッキンゼーとOcean Conservancyのレポートによると、海洋プラごみの80%は海で捨てられたものではなく、地上で捨てられたものが海洋に流れ出たものと推計されている。
そしてその地上ごみの半分以上は5カ国から流れ出ているという。その1つにベトナムが含まれているのだ。残りの4カ国は、中国、インドネシア、タイ、フィリピン。
今回のプロジェクトを機に、アジアでもリュブリャナやトレビーゾのような限りなく「zero-waste」に近い都市が増えることに期待したいところだ。
[文] 細谷元(Livit)