“貧困”や“紛争”のイメージが根強く残るアフリカだが、近年大きく様変わりしているという。圧倒的な人口増に加えて、今後も大きな経済発展が見込めるアフリカは「地球最後のフロンティア」と呼ばれ、現地でのビジネスチャンスを狙う日本企業も多いだろう。

とはいえ、経済水準もインフラも文化的背景も、日本とは大きく異なるアフリカで、ビジネスを軌道に乗せるのは並大抵のことではない。

アフリカでビジネスをするとはどういうことなのか、何がビジネスを成功に導くカギなのか。現地に根付いて活動しない限り、その本質は見えてこないはずだ。

取材したのは、ケニアを拠点に製造・流通業向けの営業マネージメントシステム「SENRI」を展開する株式会社アフリカインキュベーター(Afri-inc)の創業者・永井健太郎氏。

インタビュアーは、アフリカの情報を発信するWEBマガジン「Africa Quest.com」の編集長であり、ケニアを拠点に日系企業のビジネス進出支援や日本製品のPR・販売事業を展開する横山裕司氏に依頼した。

過去10年で様変わりしたアフリカのマーケット

インタビューをお届けする前に、アフリカの現状と市場の変化について触れておきたい。

経済産業省が発表した「通商白書2016」によれば、アフリカでは、未だ電力・水道・港湾・道路といったインフラが未発達であり、コスト高騰の原因となっている。


経済産業省「通商白書2016」諸外国の下水道普及率より

アフリカ地域の下水道普及率を見ても、他国に比べて著しく低い。衛生的な施設を継続的に利用できていないことから水系感染症にかかるケースも少なくないことが予想される。


総務省が発表している「世界における携帯電話およびインターネット普及率の変化」より

一方で、大きな伸びを見せているのがインターネット普及率で、特に携帯電話普及率は75%を超える地域も多くある。

ケニア全土では少額から送金できるモバイル決済サービス「M-Pesa」が広く普及しており、これは銀行口座やスマートフォンを持たない人でも、携帯電話を使って簡単に送金できるのが最大のメリットだ。

ケニアでは銀行の支店やATMが存在しない地域が多く、銀行口座を所有しない人も多いため、「M-Pesa」の活用によりケニアに住む数十万人が貧困を脱したと言われている。

また、横山さんの話によれば、日本でもおなじみのフードデリバリーサービス「Uber Eats (ウーバーイーツ)」やスペインのスタートアップが手掛ける買い物代行サービス「Glovo(グローボ)」を頻繁に利用するハイエンド層が増えてきているそうだ。


経済産業省「通商白書2016」各地域における人口見通しより

そして、世界各国がアフリカに注目する最大の理由とも言えるのが人口の増加。2025年には約25億人に達する見通しで、世界人口の約4分の1をアフリカ人が占めることになる。

この驚異的な人口増を前に、世界各国がビジネスチャンスを見出そうとしているのだ。

このようなアフリカ市場の変化を踏まえて、永井さんの創業から現在までの歩みを振り返りながら、アフリカでのビジネス展開のヒント、アフリカ市場のポテンシャルを探ってみたい。

アフリカの未熟な「流通市場」に着目し、サービスを開発


株式会社アフリカインキュベーター(Afri-inc)の創業者・永井健太郎氏

横山:まずは、永井さんのキャリアについて伺えますか?

永井:新卒でJICAに就職し、アフリカでのインフラ建設プロジェクトに携わったのち、ビジネスを学ぶためにアメリカでMBAを取得、その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーで4年ほどマネージャーを務めました。

そして、2015年後半にアフリカに渡り、現地で創業して今に至ります。

横山:永井さんは、そもそもアフリカでビジネスをしたいという強い思いがあったんですか?

永井:学生の頃にアジアを旅行する中で、その多様性に惹かれて、新興国をビジネスのフィールドにしたいと考えるようになりました。

JICAでアフリカプロジェクトに携わるうちに、インフラ整備も重要だけれど、それだけでは不十分で社会基盤を整えるためには企業が成長していく姿を見せることも必要だと考え、創業に至りました。

横山:永井さんが立ち上げた製造・流通業に特化した営業管理システム「SENRI」は、日本企業ではホンダや味の素といった大手企業も顧客になっており、順調に規模を拡大されていると思います。まずは、このサービスのビジネスモデルから教えてください。


「SENRI」のデモ画面

永井:「SENRI」は商品の受発注作業を自動化するシステムで、流通・製造業メーカー向けに提供しています。これまで各メーカーの営業マンが紙ベースや電話で倉庫へ発注していたプロセスを、インターネットを介しモバイルでの受発注を可能にしました。

このビジネスモデルに行き着いたのは、アフリカの未熟な流通市場が背景にあります。

アフリカでは、キヨスクのような個人商店の売上比率が約8割を占めていて、メーカーから小売店に商品が納品されるまでに、いくつかの卸を挟む流通構造になっています。

日本のように各小売店に受発注システムが浸透していないため、メーカーの営業マンが各店舗に足を運んで1店舗ずつオーダーを取り、手書きの発注書を倉庫に持参して配送準備をするのが一般的なオペレーションです。

「SENRI」では営業マンが各店舗に足を運ぶフローは維持しつつ、その後の流れを自動化することで、配送までのスピードアップやミスの削減に貢献しています。

横山:営業マンが店舗に足を運ぶフローを変えていないのは、なぜですか?

永井:小売店側に受発注システムを浸透させるには2つボトルネックがあって、1つは小売店で扱うすべてのメーカーとパートナーシップを締結したうえで、数十万相当の商品リストが用意しなければならないこと。

もう1つは、おそらく儲けが少ないであろう小売店が新しい技術を導入するには、相当な時間がかかると予想されることです。

ゆくゆくは小売店側にも踏み込みたいと考えていますが、まずはメーカーに特化しているのが現状です。

仮説を作り、現地人の声を拾い、ひたすらPDCAを回した


ケニアを拠点に日本製品のPR・輸入・販売事業を展開する横山裕司氏

横山:僕自身、さまざまなアフリカビジネスに携わるなかで、当初の事業計画がスムーズに進む例は見たことがなく、ゼロベースで考え直さないと通用しないという感覚があります。

「SENRI」の場合、どのような経緯を経て今のビジネスモデルに行き着いたのでしょうか?

永井:弊社の場合は、サービス内容を固める前からアフリカのメーカーに片っ端から電話をかけて、サービス概要を説明したうえで、細かくどんな機能を求めているのかヒアリングを重ねていきました。

プロセスとしては、ヒアリングを元に仮説を立てサービスを仮設計、実際に使ってもらって改善するという行程を1年半ほど繰り返して、ようやく今のモデルに行き着きました。


「SENRI」のデモ画面

「SENRI」には、受発注の自動化の他に、GPSでのトラッキングにより営業マンの位置情報を把握できる機能があるのですが、この機能の使い勝手を向上させたことで一気に需要が増えたんです。

営業マンの中には申告通りに営業に行っている人とウソを付いてサボっている人がいて、「SENRI」を入れたことで正当な評価ができるようになることが、大きなメリットになったようです。

これは現地顧客の営業部長が挙げていた要望で、実は経理部長からはまったく異なる意見が挙がっていました。結果的に営業部長の声だけを反映する方向に舵を切ったのが功を奏しました。ここを見極めるまでに、時間がかかりましたね。

横山:なるほど。仕事をサボって副業しているケニア人は多いですからね。でも、メーカーに導入する際に営業マンが抵抗して揉めるなんてことはなかったんですか?

永井:揉めるのはほぼ毎回です(笑)。さまざまな理由で抵抗する営業マンに対して、弊社のカスタマーサポートが間に入り、システム導入のメリットを説明したり、マネージャーとの仲を取り持ったりして、導入を実現させています。

きめ細かいやり取りが求められるカスタマーサポートは現地人にしか務まらないというのも、事業を始めてみてわかったことでした。

横山:今の永井さんのお話には、アフリカでビジネスをする際のエッセンスが詰め込まれていると思います。仮説を立ててPDCAを回していく中で、グッとハマるポイントが1つ見えれば、そこからサービスを大きく伸ばすことができる。ただ、その型を作るまでには現地にどっぷり入り込んで、ある程度の時間をかけないと難しいですよね。


操作方法を学ぶ営業担当者

アフリカビジネスは “どこで始めるか”で結果が変わる

横山:サービスを固めて事業を拡大する中で、ローカルスタッフのマネージメントも1つポイントになると思いますが、組織づくりで工夫されていることがあれば、教えてください。

永井:まず、採用の際に必ずチェックしているのが、これまでに1つの会社で1年以上働いたことがあるかどうか。我々の事業は複雑な背景がある中で、複雑なシステムを提供しているので、それらを理解して業務の中で成果を出すには中長期的なコミットメントが不可欠です。会社に対してのロイヤリティが限りなく低いアフリカにおいては、1年以上の継続勤務というチェック項目を設けることで、ほとんどの人が採用基準を満たせなくなります。

実際に入社してからで言うと、KPIの数値目標とスキルセットを見える化した定性的な目標を設定して、どこまで達成できたかをお互いに把握するような評価制度を導入しています。あとはケニア人は日本人と似ていて、本音を引き出す関係性になるまでに時間がかかるので、マネージャーを育ててしっかりマネージメントできる体制を整えることも重要だと思っています。


オフィスでのミーティングにて

横山:確かに彼らは、シャイな一面があるかもしれませんね。でも、勤務期間が半年を超えたくらいから人が変わったぐらいに図々しくなる人もいたりして、コミュニケーションの難しさを感じます。最後に、これからアフリカでのビジネスを考えている人たちに、アドバイスをいただけますか?

永井:アフリカでビジネスを展開する場合、出張ベースでは成り立たず、こちらに根を張る覚悟がないと厳しいですね。先程もお伝えしたとおり、現地の人たちの要望を1つ1つ汲み取って、サービスの微調整を繰り返す必要があるからです。僕は生活拠点をケニアに移していて、日本に戻るのは年に2回ほどです。

また、アフリカでは”どこでビジネスを始めるか”も重要な視点だと思います。実は、「SENRI」は最初にウガンダからスタートしているんですが、大きくマーケットを伸ばすまでに至らず、ケニアに移った歴史があります。ITが発達しているケニアだからこそ規模が拡大したはずで、もしウガンダでそのまま続けていたら、今のような成長はなかったでしょう。

現在は、ケニアのビジネスモデルをナイジェリアでも展開していて、来年の頭にはケニアの売上に追いつくほど急拡大しています。ナイジェリアは非常にビジネスのポテンシャルが高い反面、現地に在住する日本人はわずか60人ほどと他国に比べて圧倒的に少なく、新しいビジネスを立ち上げるためのノウハウの蓄積が非常に難しいです。ケニアで実験しながら、ナイジェリアでも市場を取っていくのが賢いやり方と言えるかもしれません。


発展している様子が伺えるケニア・ナイロビ

横山:確かに、ビジネスを展開する場所は吟味したほうが良いですよね。1つ付け加えるとしたら、アフリカでは同じ国の中でも都市と田舎の格差が激しく、単純にトップ・ミドル・ローワー層とくくれないことも覚えておくと良いと思います。

例えば、ケニアでは首都ナイロビやモンバサなどの大都市とその他の地域では、別の国かのように世界観が違います。例えばナイロビならテクノロジーを使ったサービスでも問題ありませんが、その他の地域ではまだまだガラケーを使う人も多く、ナイロビと同じ戦略では通用しません。ナイロビのトップ・ミドル・ローワーと、その他地域のトップ・ミドル・ローワーを分けて考えないと見誤ってしまうかなと。

とはいえ、ハイエンドすぎず、かといってローエンドでもないケニアは、アフリカの中でもバランスのいい国だと思うので、まずケニアでトライしてみるのが良い気がします。ケニアとその他2〜3カ国でビジネスを回してみて、ようやくアフリカの全体像が見えてくるのではないでしょうか。

<取材協力>
株式会社アフリカインキュベーター
一般社団法人アフリカクエスト 代表理事(Africa Quest.com 編集長) 横山裕司

取材・文:小林 香織