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ゲームプレイでスポーツ選手のような高額の報酬を得る「プロゲーマー」。日本では、まだまだ馴染みのない職業かもしれない。
しかし、多くの国ではプロゲーマーは、これまで子供達の憧れだったスポーツ選手のような存在になりつつあり、プロゲーマーがゲームを競技として行う「eスポーツ」人気の高まりにともない、世界中でゲーム人口が増え続けている。
これまでも、インターネットやソーシャルメディアが普及することで、テレビや新聞などのオールドメディアに費やす時間は減少してきたが、このeスポーツの台頭によって、さらなる市場変革が起こりつつある。ゲームがソーシャルメディアに取って代わる可能性があるのだ。
各企業はこれまでインフルエンサーを起用し、ソーシャルメディアでプロモーション活動を実施してきたが、その影響力には限界が見えはじめている。そんな中、ゲーム人口の増加を見据え、ゲームを通じてブランド認知を高めようという企業が、ケンタッキーなどのコンシューマブランドから、ルイ・ヴィトンなどのハイブランドまで多岐にわたって増加している。
最近増えているブランドとゲームのコラボレーションとはいったいどのようなものなのだろうか。
伝統的なスポーツに匹敵。爆発的に増加するゲーム人口
昨年、およそ11億ドル(約1,200億円)と報じられたeスポーツの市場規模は、年平均成長率約14.4%と拡大を続けている。
eスポーツと呼ばれるようになったことからもわかるが、ゲームはプレイするだけでなく観戦する対象としても人気となっており、その視聴者の規模は2016年には2億8千100万人に達し、米ナショナル・フットボール・リーグの視聴者数に匹敵するようになった。
現在もその増加スピードはとどまるところを知らず、2021年には5億5千700万人にも達すると予想されている。
国際的にゲームをeスポーツとして再定義する動きは加速しており、国際オリンピック委員会(IOC)は、2017年にはeスポーツを五輪競技種目に採用する可能性を模索すると発表、2024年パリオリンピックへ競技としての追加も検討された。
米政府も、ゲーム大会参加プレイヤーに対し、スポーツ選手用ビザを出すなどの対応を開始、日本でも世界各国のプレイヤーが集う大会が開催されるようになった。
来年の東京オリンピック開催に合わせて、インテルが格闘ゲーム「ストリートファイターV」と4輪車サッカーゲーム「ロケットリーグ」によるeスポーツ大会「Intel World Open」の開催も発表され、今後もeスポーツの人気は高まっていくだと考えられる。
日本で開催された「PES LEAGUE WORLD TOUR 2018 ASIA ROUND」 KONAMI公式チャンネル
これまでにないほど近づく高級ブランドとゲームの距離
もはやゲームは一部の人の趣味以上の存在として、各企業にとって無視できないものとなり、ナイキやサムソン、コカコーラなどが多くの企業がゲーム、特にオンラインゲーム とのコラボレーションに興味を示すようになっている。
日本でも、コカコーラ社と人気オンラインゲーム 「メイプルストーリー」がコラボレーションし、ゲーム内で「コカコーラシールド」や「ファンタアーマー」などのアイテムが提供されるキャンペーンが行われた。
高級ブランドにもこの動きは波及、ルイ・ヴィトンは、人気オンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」の毎年恒例のeスポーツファイナルに、カスタムメイドのトロフィーケースを提供すると発表した。
「全世界で1億人が熱狂するオンライン対戦ゲーム」リーグ・オブ・レジェンドはピーク時の1日のユーザー数800万人と、世界トップクラスの人気を誇る。
プレーヤーは3〜5人の2つのチームに分かれ、チャンピオンと呼ばれるキャラクターを選択し戦う。100種類以上あるチャンピオンは、常にアップデートされることが魅力だ。大会優勝賞金が高額なことでも知られ、世界大会には億単位の賞金が提供される。
人気オンラインゲーム リーグオブレジェンド 公式YOUTUBEチャンネル
このコラボレーションでは、トロフィーケースに加えて、大会賞品としてゲームキャラクター用の「ヴァーチャルな」ファッションと、このゲームにインスパイアされた「現実の」ファッションコレクションもリリースされる。
実は、ルイ・ヴィトンが、ゲームとのコラボレーションで若い世代へのリーチを試みるのはこれが初めてではない。
ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエール氏は、RPG「ファイナル・ファンタジーシリーズ」の女性キャラクター「ライトニング」を16年春夏コレクションに起用、高級ブランドとしてはじめてゲームキャラクターをモデルとして登場させた。
広告ブロックソフトが普及し、Netflixなどが広告なしのコンテンツを配信する昨今、若い世代を中心にソーシャルメディア離れも始まり、フォロワーを買う偽インフルエンサーも増加、各ブランドはどのように効果的なプロモーションを繰り広げるか模索を続けている。
そんな時代に、ブロックできない広告が可能であり、リーチできるオーディエンス数もクリアなゲームを活用したプロモーションは魅力的なのだ。
イタリアの高級ブランド、モスキーノも、ライフシュミレーションゲーム「シムズ4」と提携、ルイ・ヴィトンのように、「ヴァーチャル」なファッションと、ゲームにインスパイアされた「現実」のファッションを同時にリリースした。
現実世界で、モスキーノスマホケースを買うには1万円近く、バックパックは15万円近くかかるが、シムズの世界においてファッションを楽しむヴァーチャルアイテムは気軽に購入できる値段となっている。
ヴァーチャルな生活を送れる人気ゲーム シムズ 公式チャンネル
大手ブランドのゲーム市場への参入はなにをもたらすのか?
家族が知らない間に数十万の高額課金をしてしまったというトラブルもよく聞かれるオンラインゲーム。特に課金によりランダムに手に入れられるアイテムを集めて、レアアイテムを手に入れるコンプガチャは、その中毒性から社会問題にもなった。
ヴァーチャルの世界で、実感なく大金を使ってしまうユーザーも多い中、魅力的なコラボアイテムが多数登場したら、さらに問題が悪化するという懸念もあるかもしれない。
しかし、そもそもこの高額課金問題の根底には、テクノロジーの進歩に伴い、ゲーム開発費が高騰、その回収のために基本無料をうたい、ゲーム内での課金で収益を上げるモデルが一般的となったことがある。
現状、オンラインゲームでの広告収入は微々たるもので、課金収益に頼るしかないところがあるのだが、今後大手企業がオンラインゲームで様々な形でのプロモーションに参入し、広告収入の割合が伸びれば、この現状に変化をもたらし、課金なしでも楽しめるゲームがもっと増えるのではないだろうか。
ハイブランドにとっても、このコラボレーションは若い世代への認知を高めるチャンスだ。
ゲーマー層と現状のハイブランド顧客層が一致するのか疑問に思うかもしれないが、ルイ・ヴィトンのバーク会長兼CEOによると、そこは重要ではなく、大事なのは「未来とつながる」ことだという。
2024年のパリオリンピックからは野球がなくなり、eスポーツが組み込まれる議論が始まった。
そして、かつて野球用バッグを新庄選手に提供したルイ・ヴィトンは、2019年、オンラインゲームとのコラボレーションアイテムをリリースした。
この、ルイ・ヴィトンの時代の変化に柔軟に対応したプロモーション戦略は、これからどのように実を結ぶのか、おおいに注目される。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)