ふくおかフィナンシャルグループ(ふくおかFG)は、銀行の根幹ともいえる勘定系システムをグーグルのパブリッククラウド上に構築することを発表した。国内では初の試みになるという。
ふくおかFGとグーグルが勘定系システムのクラウド採用でタッグ
高い信頼性が求められる銀行として、クラウドの全面採用は異例の挑戦ともいえる。果たしてその狙いはどこにあるのだろうか。
高い信頼性が求められる銀行勘定系にクラウド採用
福岡銀行など九州の4銀行を傘下に持つふくおかFGは、地銀として初となるネット専業銀行「みんなの銀行」を2020年度に開業する。
注目は、システム開発子会社、グーグル、アクセンチュアの3社により、銀行の勘定系システムをクラウド上に構築する点だ。
ふくおかフィナンシャルグループ。新たにネット銀行を開業する
そもそも銀行とは、「預金」「為替」「融資」の3大業務と、「金融仲介」「信用創造」「決済」の3大機能から成り立っているとふくおかFGは説明する。
これに対して新たに開業するネット銀行では、デジタルトランスフォーメーションを背景に、銀行のあり方を再定義するという。
新銀行の構想を語る、ふくおかフィナンシャルグループ 取締役執行役員の横田浩二氏
マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏は、「銀行機能は必要だが、今の銀行はいらない」と1994年に予言している。
ふくおかFGはこの予言を引用し、変化の必要性を強調した。フィンテック企業が続々と登場し、スマホ決済各社が金融への進出を目論む中、「このままでは従来型の銀行は不要になる」との危機感があるようだ。
新銀行「みんなの銀行」が掲げるコンセプト
新銀行はモバイル・ファーストのサービス提供により、全国のデジタルネイティブ層への訴求を狙う。
既存の顧客基盤は九州にあるが、口座開設や振込などはスマホアプリを利用し、ATMはコンビニと連携すれば物理的な店舗は不要になる。ネット銀行が地方にとどまる必要は全くないだろう。
だが「単にローコストなLCC銀行はレッドオーシャンだ」とふくおかFGは見ている。そこで新銀行のシステムは、機能追加や外部とのAPI連携を容易にする「マイクロサービス」で実装し、新たな付加価値を提供するという。
うまく行けば、新進気鋭のスタートアップ企業といち早く連携する、といったことが実現しそうだ。
勘定系のクラウド実装、グーグルも本格支援へ
最近では銀行によるクラウド活用は急速に進んでいる。だがふくおかFGは銀行の根幹といえる勘定系システムをグーグルのパブリッククラウド「Google Cloud Platform(GCP)」上に構築する点が新しい。海外では事例があるものの、国内では初になるという。
ふくおかFGの既存システムには手を付けず、新銀行のシステムのみをゼロから構築することから、リスクは限定的ともいえる。だが勘定系は金融システムの中でも特に高い信頼性が求められることもあり、IBMなどが提供するメインフレームが採用されてきた。
その一方で、フィンテック企業とAPIで連携できるようにするなど、金融業界全体はオープン化の方向に向かっている。ふくおかFGも、かつて自社のシステムとスマホアプリを連携させるのに苦労し、「ゼロから作ったほうが早いのではないか」という考えに至ったとしている。
クラウドの利点の1つがコストの低さで、ふくおかFGは10分の1になると期待している。クラウドのデータセンターには安価で高性能なサーバーが大量に設置されており、必要に応じてスケールさせたり、壊れても即座に切り替えたりと柔軟な運用が可能だ。
アプリを実行するコンテナ管理や分散データベースなど、可用性の高い基盤をGCPは提供する
クラウドの能力を引き出すにはソフトウェアが必要だが、グーグルのGCPはコンテナ技術や分散データベースを提供している。
国内のデータセンターは東京と大阪の2つのリージョンを利用できるなど、銀行に求められるミッションクリティカルな要件に耐えられると判断したようだ。
将来的には構築したシステムの外販も検討していくという。フィンテック時代における生き残りをかけて、クラウド採用を検討する銀行は増えていくはずだ。そこにゼロから取り組むよりは、ふくおかFGのシステムに相乗りしたほうが早いと判断するところは出てくるかもしれない。
果たして銀行に求められる高い信頼性をクラウドで実現できるのか、未知数の部分はある。だが新銀行の立ち上げにあたっては、グーグルも全面協力の姿勢を見せている。
クラウド市場でシェア1位のアマゾンによる「Amazon Web Services(AWS)」は金融業界でも採用が広がっているだけに、ここは譲れないところだろう。
グーグル・クラウド・ジャパン 代表の阿部伸一氏も支援を約束した
高い信頼性が求められる勘定系がグーグルのクラウドで動いたとなれば、クラウド採用を考えている他の多くの業種に向けて、絶好のアピールになることは間違いない。
グーグル、アマゾン、マイクロソフトの三つ巴によるクラウド市場の勢力争いとしても注目だ。
取材・文:山口健太