日本でも高い人気を誇る玩具の中に、フィギュア・プラモデルがある。

このフィギュア・プラモデル、日本だけではなくアメリカや中国を中心に世界的に見ても人気が高いのだ。また、アメリカ・中国は玩具の生産大国だ。世界玩具市場の1位がアメリカ、2位が中国とされている。そして、日本はこの2つの国と並び世界3位を誇っていることを皆さんはご存じだろうか。


コトブキヤ立川本店

この日本玩具市場の中で、フィギュア・プラモデルを中心に先陣を切って海外でも戦い続ける企業がある。株式会社壽屋(コトブキヤ)だ。

コトブキヤはフィギュア・プラモデルメーカーの中でもかなりの老舗である。1953年に玩具の小売店として創業。1989年には完全可動式のモデルキット(キャストキット)を自社商品として発売し、プラモデルメーカーとして注目されるように。1995年には新世紀エヴァンゲリオンのフィギュアを発売し、日本のフィギュアブームの火付け役となった。

さらに、日本のみならず、海外においても注目を集めている企業だ。アメリカで開催される世界最大のポップカルチャー(漫画、アニメ、映画、ゲーム等)コンベンション『コミコン・インターナショナル(通称サンディエゴ・コミコン)』では出展企業の中で最も多い動員数を誇ったこともあるのだ。

そんな国内外問わず人気の株式会社壽屋の取締役副社長・清水浩代氏から、フィギュア・プラモデル市場について、そしてコトブキヤが国内外問わず人気を獲得した理由について話を伺った。

約1,400億円の市場規模を誇る、日本のフィギュア・プラモデル市場

2018年度の玩具市場は8,398億円。
玩具市場はゲームや知育まで様々な分類によって構成されるが、今回取り上げるプラモデル・模型・フィギュアなどは“ホビー”と分類される。このホビー市場は約1,400億円。玩具市場の中では大きな割合を占めているのだ。


2018年度国内玩具市場規模-日本玩具協会

ホビー市場は年々増加傾向にある。(2017年度の対比で2018年度は104.2%)]

消費者の傾向から紐解くと、幼い頃からフィギュアやプラモデルを趣味として続けている大人たちが一定層、長年ホビー市場を支えていた。そして、その根強い層が家庭を持ち、今度は子どもと一緒にホビーを趣味として行う。そこから子どもたちの中でも広まっていくことで、売上を少しずつ伸ばしている市場なのだ。

また、近年はフィギュア・プラモデルの種類が幅広くなってきている

高単価で高クオリティの商品から、ゲームセンターのUFOキャッチャーやコンビニ・書店の一番くじで手に入る比較的安価でそれなりのクオリティの商品までを展開。昔からフィギュアやプラモデルに慣れ親しんでいる人は高単価で高クオリティの商品を、そこまで値段は払えないけど好きなキャラのフィギュアが欲しい人は安価でそれなりのクオリティの商品を手に取るようになった。この幅広いターゲットに向けた展開も市場拡大における一つの要因だ。

さらに、海外需要も年々高まってきている。

インバウンドでの店頭消費量が増加、近年デジタル化が進んだこと、動画配信サービスで全世界の日本のコンテンツ視聴が増えたことでネット購入者も増加しているという。

フィギュアの聖地・アメリカでの成功が世界へ名を周知させる

実は、アメリカや中国をはじめ海外での日本のホビー商品は評価が高い。

そもそも玩具市場が大きいアメリカや中国だが、その中でも日本のフィギュア・プラモデルは強いプレゼンス(存在感)があるのだという。

日本のポップカルチャーコンテンツ(アニメ、漫画、ゲームなど)そのものの評価が海外で高いというのもあるが、日本のホビーが海外の人々から高い評価を受ける理由は日本特有の職人気質、こだわりにある

それは、コトブキヤの商品も同様だ。

コトブキヤでは海外売上高を年々伸ばしている。アメリカで開催される『アニメエキスポ』や『コミコン・インターナショナル』には毎年出展し、ブースは大盛況。コトブキヤが海外でも人気のホビーメーカー企業であることは確かであり、日本のホビーの魅力を海外に広める一翼を担っていると言っても過言ではないだろう。

なぜなら、同社は海外展開に向けて多くの創意工夫をしてきているのだ。

清水「海外展開を考えたとき、まずはコレクタブル・ホビーの聖地であるアメリカで成功したいと思いました。当時は日本のアニメ・ゲームキャラのフィギュアはほとんど海外展開されてなかった。その中で、私たちは日本の誇るゲームで海外でも人気の高いファイナルファンタジーシリーズのフィギュアをアメリカのイベントで展示販売したんです。

作品の認知度も高く、かなりの反響もあったので、コトブキヤの名前もある程度知られたと感じたんですけど…実際は、そんなことなかったんです。


株式会社 壽屋  取締役副社長・清水浩代氏

というのも、2002年にスター・ウォーズのライセンスを獲得したのでフィギュアを製造して、アメリカ最大級のサンディエゴ・コミコンに展示したら、『これどこの会社!?』と驚かれてしまって(笑) その時、全然知られてなかったと実感。海外で成功するなら、その国の作品、人気のキャラクターを取り扱わなきゃいけないと思い知りました」

そして、2005年にワーナーブラザーズ社のライセンス、2008年に米国コミック出版大手マーベル社のライセンスを取得。コトブキヤ独自の緻密さをアメリカで人気のキャラクターを取り扱ったフィギュアを展開していくことで、コトブキヤの名前が世界へ周知されていくこととなる

フィギュアは海外へ日本文化を浸透させる“カギ”になる

とはいえ、アメリカにはアメリカの有名なホビーメーカーが数多くある。

その中でも、ディテールや色使いにこだわった商品を出していたが、それでは世界で勝ち進んでいくにも限界がある。何より、コトブキヤは日本企業という誇りを忘れてはいなかった。そこで生み出されたのが、海外の人気キャラクターに“日本らしさ”を加えた商品だった。

清水「海外で人気のアメコミのキャラクターを日本の絵柄でフィギュア化しました。アメコミキャラクターに日本特有の美少女、イケメンの表現を加えて、独自のコンセプトを確立させたことで、海外の人たちからの注目を集めたんです。

当時は、日本独自の“アニメ顔”キャラクターは海外から受け入れてもらえなかったので、日本のアニメキャラやゲームキャラのフィギュアに興味を持ってもらえませんでした。しかし、美少女・イケメンシリーズの展開をしたことで、日本特有のカルチャーを受け入れてもらうことにも成功したと感じています」

日本のアニメフィギュアファンも同様に、フィギュアを通して海外の人気キャラクターを知ることになる。日本と海外どちらの文化も取り入れていくことで、国内外問わずさらなる周知へと繋がっていった。

消費傾向の変化がもたらす、国内ホビー市場の課題

そうした取り組みもあり、海外展開を確立させていった日本のホビー市場だが、近年は国内外問わず消費傾向が少しずつ変化してるという。

清水「以前は、アメリカではアメコミ系のフィギュアが、日本を含めたアジアは日本コンテンツのフィギュアが売れる、というように傾向がハッキリしていました。しかし、最近では動画配信サービスの影響や、マーベル系の作品がアジアで爆発的な人気を得たことで消費者傾向がより多様化してきていると感じます」

もちろん文化や倫理観の違いから国によって評価を受けやすい作品はある。

例えば、NARUTOは日本文化への憧れから北米や欧州で日本以上の人気を集めている。一方、ワンピースは西洋文化への憧れからアジアを中心に人気を集めている。

日本ではある程度の人気を集めたアニメが、アメリカでは何倍もの評価を受けることもあり、何が当たるのか予測が難しくなってきた。プロダクトを企画するにも以前より複雑さを増しているのだという。

さらに、消費者はフィギュア・プラモデルを購入することに対してシビアになってきたと清水氏は話す。

清水「フィギュア・プラモデルの販売価格が上がってきて、顧客の敷居が少しずつ高くなっていると感じます。

10年ほど前に3,000~4,000円で販売できていたフィギュアが、今では8,000~10,000円あるいはそれ以上と小売り単価が上がってきてしまいました。そのため、お客さんは以前より一層選ぶようになってきたんです」

日用品や食費のように日常的に使うものであれば、値上がりしたとしても習慣的に買い続けるだろう。ところが、フィギュアやプラモデルは趣味の領域だ。買わずとも生活は成り立っていく。

いくら大人とはいえ、趣味に使えるお金は限られている。様々なモノに囲まれた現代の中で市場拡大に向けて勝ち進んでいくことに難しさを感じざるを得ない。

市場拡大に重要な2つの戦い方

このように難しい時代の中で、日本のホビー市場は国内外問わずどのように戦い、どのように市場拡大を狙っていくべきなのだろうか。その問いに大きく2つの要素があると清水氏は述べた。

一つ目に、“実物に触れる機会を作ること”だ。

清水「製品の情報取得から購入決済まで全てがオンラインでできてしまう便利な時代です。その反面、お客さんが商品を直接見て触れる機会が極端に減ってしまいました。

フィギュアやプラモデルは立体物です。直接見て触れて感じてもらうことで、大きく消費に結びつくと確信しています。小売店からメーカー企業になったコトブキヤだからこそ確信しています。

なので、イベントや店舗で実物を見て触れてもらえる機会を増やしていくことが重要だと感じます」

フィギュアもプラモデルも作り手が存在する。実物に触れることで、商品のバックグラウンドを考えながら商品に向き合える。そうすることで新しい気づきが生まれる可能性もあるだろう。デジタルな社会だからこそ、フィジカルに体験できる場が必要かもしれない。


アニメエキスポ2019(LA)

そして、もう一つ重要な要素は“プロダクトの追求”だ。

清水「今までは男性に向けて魅力的な女性のフィギュア、女性に向けて格好いい男性のフィギュア、というようにターゲットによってプロダクトを企画してきました。

しかし、これからは誰が見ても魅力的に感じるフィギュアを作ることも必要です。一つの商品の中に色んな価値観を混ぜて、色んなターゲットに刺さるような商品を作ることが、幅広い層に愛されるのではないかと思っています。

それは海外での展開も同様です。他の国では出せない“日本らしい”プロダクトを企画できるのも市場拡大に繋がっていくでしょう」

“全ての人に豊かな心を持ってほしい”の想いが高クオリティのホビーを生む

コトブキヤは前述した戦い方でホビー市場の先陣を切って進み続けている。

清水「実物に触れてもらえるための場づくりとして、店舗に営業に行ってサンプル品を置いてもらったり、国内外問わずイベントに出展したりと地道に取り組んでいます。

そして、実際に商品を見てもらったときにお客さんたちに『わっ!凄い!』と思われるようなものを生み出す。ディテールの細かさや、色の再現度、プロダクトの実用性などは常に追求し続けています。そこにこそ、小売店から長年培ってきたコトブキヤの価値があると思うんです」

製造工場にもかなりこだわりを持っているようだ。中国の工場で製造を行う同社は、クオリティを担保するために工場と強い連携を取っている。下請けではなく、一緒に作る仲間として工場で働く人たちと接しているのだそう。そこから、コトブキヤスタンダードと呼ばれるクオリティの高さが維持できているのだと清水氏は話す。

工場との連携には時間、資金、労力がかかるが、それでもクオリティを追求するためには必要な要素だという。

なぜそこまで、こだわり続けるのだろうか。そこには、“コトブキヤに関わる全ての人に豊かな心を持ってほしい”という強い想いがあるからだ。

清水「お客さんにはコトブキヤの商品を買って良かったと思ってもらいたい。そして、そんな素晴らしい商品を生み出す社員のみんなにもコトブキヤでフィギュアを作ってよかった、お客さんの笑顔を見られてよかったと思ってもらいたいんです」

小売店~メーカー企業、自社IPの創出…他にはないホビーメーカー企業へ

そんなコトブキヤの挑戦はまだまだ留まることを知らない。
2015年には自社IP(「フレームアームズ・ガール」)を制作。当初はプラモデルとして発売を開始し、2017年にTVアニメ化、2019年には劇場アニメが公開された。様々なホビーメーカー企業がある中で、このような取り組みを行う企業は前例がない。


フレームアームズ・ガール 公式HP ©KOTOBUKIYA / FAGirl Project

清水「自社でIPを持って、商品を作って、自社直営店舗で販売する会社は他にないと思います。小売店の誇りを持ちながら20~30年かけてメーカー企業に成長して、最近では自社IPを作って、活動の幅を広げてきました。

それによって以前より忙しさが増しているのは事実です(笑)『全部自社でやってるなんて馬鹿じゃないの!』って思われることもあると思います。でも、私たちはそう思われることすら嬉しい。それがコトブキヤらしいと、コトブキヤならではだと思ってもらえますから。

自分たちが生み出した商品を、自分たちの店舗で、お客さんのもとへ届けるのはすごく素敵なこと。お客さんの近くに立って、お客さんの望むものを提供することをこれからも大事にしていきたいです」

取材・文:阿部裕華
写真:西村克也