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海外移住を望むZ世代はわずか19.4% イギリスの若者が選ぶ「移住しないグローバルキャリア」とは

「海外で働く」と聞いて、あなたはどんな働き方を思い浮かべるだろうか。

海外企業への転職。あるいは会社から辞令を受け、数年間、家族とともに海外拠点へ赴任する。これまで「グローバルキャリア」を築くには、仕事だけでなく、生活の拠点まで海外へ移すことが当たり前だった。

しかし、イギリスのZ世代が求める国際キャリアは、従来とは異なるようだ。

グローバル雇用プラットフォームのPeblがイギリスのZ世代のプロフェッショナル501人を対象に実施した調査によると、88%が「海外からの一時的な勤務を認める企業で働くこと」に強い関心を示した。

一方、キャリアアップの機会が同等であれば、68%がイギリスに生活拠点を置きながら、短期の海外勤務や国境を越えたチームでの業務を通じて、国際経験を積みたいと回答した。海外への恒久的な移住を望む人は19.4%にとどまった。

海外で働いてみたい。でも、海外に生活のすべてを移したいわけではない。

そんな一見矛盾する希望が、これからの「海外勤務」のあり方を変えていくのかもしれない。

「海外で働きたい。でも、海外には住みたくない」

興味深いのは、イギリスの若者が国内志向になり、海外への関心を失っているわけではないという点だ。むしろ、彼らが求めているのは、「海外か、国内か」という二者択一ではない。

前述のPeblの調査では、62%以上が「自分にとって最も良いキャリアの機会はイギリスにある」と考え、68.1%がイギリスに本社を置く企業で働くことを希望している。一方、海外に本社を置く企業を希望した人は15.4%だった。

つまり、生活やキャリアの拠点をイギリスに置きながら、国境を越えて働きたいということだ。イギリス企業に所属しながら海外のチームと協働する。短期間だけ海外で勤務する。国際的なプロジェクトに参加する。

従来の海外赴任では、グローバルキャリアを築くことと、海外へ生活拠点を移すことはほぼセットだった。だが今回の調査から見えてくるのは、その二つを必ずしもセットにしない選択肢だ。

海外志向がなくなったわけではない

では、なぜ海外への移住を望まない一方で、海外で働くことには関心を持つのだろうか。

その理由の一つとして、Z世代が海外勤務を単なる海外生活の経験ではなく、キャリア形成の機会として捉えていることが考えられる。

調査では、イギリスのZ世代の88%が、異なる国や文化を越えて働く経験によって「より優れたリーダーになれる」と回答している。また、83%は異文化環境での就業経験を持つ人にはキャリア上の競争力があると考えている。

PeblのCEOであるFrançoise Brougher(フランソワーズ・ブロガー)氏は、企業は国際経験を上級管理職のためのものと考える傾向がある一方、今回の調査からは、若手社会人が国際経験を「リーダーになるための道」と捉えていることが分かると指摘する。

つまり、彼らが求めているのは、「海外に住んだことがある」という経歴そのものではない。異なる文化的背景を持つ人と協働し、多様な価値観に触れる。自分とは異なる考え方を持つ相手とコミュニケーションを取り、共に課題を解決する。そうした経験を、自身のキャリア形成に生かしたいと考えているのだ。

さらに76%は、AIが進歩するほど、異なる視点や文化の間を行き来する能力の価値は高まると考えている。調査で重要なスキルを尋ねたところ、コミュニケーションとリーダーシップが上位となり、AIスキルは最下位だった。

AIの進化によって国境を越えた働き方が広がるほど、人間には「異なる文化や価値観を持つ人々と協働する力」が求められる。Z世代は国際経験を、単なる旅行や福利厚生の一環ではなく、そうした能力を身につける機会として捉えていると考えられる。

なぜ「移住しない国際キャリア」なのか

一方、海外移住には憧れだけでは解決できない現実的な課題もある。

調査では、国際的なキャリアを築くうえでの障壁として、61%が移住にかかる費用、53%がビザや就労許可に関する問題を挙げた。さらに、40%は企業による支援や機会の不足を障壁として挙げている。

海外で数年間暮らすとなれば、住居を探し、生活環境を整え、場合によっては家族の生活も変えなければならない。国によってはビザや就労許可の取得も必要になる。

一方、「グローバルキャリアを築くこと」と「海外へ移住すること」を分けて考えれば、選択肢は広がる。数週間だけ海外に滞在して働く。短期の海外プロジェクトに参加する。普段はイギリスで働きながら、複数の国にいるメンバーと同じチームで協働する。

Peblも、企業がグローバルな経験を提供する方法として、一時的な海外勤務やクロスボーダーのプロジェクト交流、異文化リーダーシッププログラムなどを挙げている。

もちろん、どこからでも自由に働けるわけではない。実際に海外に滞在して仕事をする場合には、滞在先の移民法や就労資格、税務などへの対応が必要になる。それでも、グローバルキャリアを築く方法が「海外へ引っ越す」一択ではなくなりつつあることは重要だ。

「海外赴任」は会社員の特権ではなくなる?

これまで企業におけるグローバルな経験は、一部の社員に限られた機会でもあった。社員を海外の拠点へ派遣し、数年間にわたって現地で勤務してもらう。

そのためには、住居の確保やビザの取得、場合によっては帯同する家族の生活支援など、大がかりなサポートが必要となる。こうした事情から、海外赴任の機会はすべての社員に提供されるわけではなく、一定の役職に就いた社員などが対象となるケースも多かった。

しかし、Peblの調査からは、若手社員が国際経験を「一定の役職に就いてから得るもの」ではなく、キャリア形成の早い段階から必要なものと捉えていることがうかがえる。こうした意識の変化は、企業側にとっても従来の考え方を見直すきっかけとなりそうだ。

グローバルな経験を提供するために、必ずしも社員に何年間も海外へ赴任してもらう必要はない。

海外のメンバーと共同でプロジェクトを担当する。数週間から数カ月の短期海外勤務を認める。異なる国の社員で構成されるチームをつくる。こうした取り組みによって、海外赴任制度を持つ大企業に限らず、より多くの企業が若手社員に国際経験を提供できる可能性が広がる。

Peblの調査では、イギリス企業が「グローバルなキャリア」を提供するための準備状況について、Z世代による評価は5点満点中平均3.15点だった。

今後、企業が若手人材を採用・育成し、定着を図るうえで、給与や休暇などの待遇面だけでなく、「どのような国際経験を提供できるか」が企業選びの基準の一つになる可能性もある。

「どこに住むか」と「どこで働くか」が別々になる

かつて、「グローバルキャリアを築くこと」と「海外で暮らすこと」は、ほとんど同じ意味だった。海外支社に赴任する。現地企業へ転職する。生活拠点を移し、その国で働く。

しかし、イギリスのZ世代の意識から見えてくるのは、その二つを切り離すキャリアのかたちだ。生活の拠点はイギリスに置きつつ、仕事では国境を越える。海外のチームと働き、必要に応じて一定期間だけ海外で仕事をし、またイギリスに戻る。

ブロガー氏は、「企業は有意義なグローバルキャリアを社員に提供するために、すべての市場にオフィスを持つ必要はなくなった」と話す。現在の雇用インフラを使えば、恒久的な移住を前提とせず、社員と海外のチーム、文化、機会をつなぐことができるという。

これはイギリスだけの話として終わらないかもしれない。たとえば日本企業に所属し、日本を生活拠点にしながら、欧州やアジアのメンバーと一つのプロジェクトを動かす。あるいはキャリアの一時期だけ海外から働き、そこで得た経験を帰国後の仕事につなげる。そんな働き方も「グローバルキャリア」の一つとして考えられる。

重要なのは、単に「どこでも働けるようになった」ということではない。グローバルなキャリアを築くために、必ずしも生活拠点を海外に移す必要はない。イギリスのZ世代が求めているのは、海外か国内かの二者択一ではなく、両者を柔軟に行き来できるキャリアなのかもしれない。

企業側に求められる視点も変わる。「どの社員を海外に赴任させるか」ではなく、「移住を前提とせず、いかに社員に国際経験を提供するか」。海外勤務の新たなかたちは、こうした発想の転換から生まれようとしている。

文:中井 千尋(Livit)

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