AMP

AMP CLOSE×

スマホで何でも買える時代に、なぜZ世代は「95分」かけて店舗に行くのか SNSが生む新たな消費行動

欲しいものがあれば、スマホで検索して、そのままネットで注文する。早ければ翌日には自宅に届く。

そんな買い物が当たり前になったいま、わざわざ遠くの店まで足を運ぶ必要はなくなったようにも思える。ところが、デジタルネイティブであるZ世代の間で、逆の現象が起きている。

SNSで偶然見つけたカフェやショップに興味を持ち、実際に足を運ぶ。時には長時間かけて移動し、行列に並ぶこともある。そして、その体験を再びSNSで共有する。

イギリスの小売業界メディア「Retail Gazette」が2026年9月に紹介したAmerican Express(アメリカン・エキスプレス、以下Amex)と小売業専門の調査会社Retail Economicsの調査によると、Z世代の5人に4人が、SNSで知った個人経営の店を実際に訪れた経験があるという。

そうした経験を持つ人に、SNSをきっかけに店へ足を運ぶために「これまで最長でどのくらいの時間をかけて移動したか」を尋ねたところ、その平均は95分だった。

こうしたSNSで見つけた店を目的地として実際に足を運ぶ行動は、「viral pilgrimage(バイラル巡礼)」と呼ばれている。

SNSやECは、リアル店舗から顧客を奪う存在と考えられてきた。しかし今、SNSは「店に行かなくてもいい理由」ではなく、「わざわざ店に足を運ぶ理由」を生み出す存在へと変わりつつある。

「若者はリアル店舗に足を運ばない」は本当?

Z世代には、買い物をオンラインで完結させる世代というイメージがあるかもしれない。しかし、今回の調査結果からは、そうしたイメージとは異なる消費行動が浮かび上がる。

調査によると、Z世代の80%が、SNSで知った個人経営の店を実際に訪れた経験がある。つまり、SNSはオンラインで商品を見つけるだけの場所ではなく、実際に店へ足を運ぶきっかけにもなっているのだ。

また、同じ調査を取り上げた別の記事では、Z世代の35%がオンラインで話題になっている商品を買うために別の街や地域まで移動した経験があり、87%は十分に欲しいもののためなら行列に並ぶ意思があると報じている。

ネットショッピングであれば、数回タップすれば購入できる。一方で、Z世代は時間をかけてリアル店舗へ足を運ぶ。その背景には、単なる買い物にとどまらない目的がある。

Amexのイギリス小規模事業者向けパートナーシップ担当であるKeith McDonald(キース・マクドナルド)氏はRetail Gazetteの取材に対し、「Z世代はユニークな体験を求め、自分だけの特別な場所を発見したいと考えている」と説明する。さらに、その体験を友人と共有できることも重要だと指摘している。

便利さを求めてデジタルを使う一方で、時間をかけてでも実際の場所へ足を運ぶ。Z世代にとってSNSは、リアル店舗の代わりではなく、リアルな体験を探すための入口にもなっているのである。

SNSとリアル店舗は、「競合」から「共存」に変わり始めた

SNSが普及し始めた当初、デジタル化はリアル店舗にとって脅威と捉えられることが多かった。オンラインで商品を見つけ、そのままECで購入できるようになれば、リアル店舗へ足を運ぶ必要がなくなると考えられていたためだ。

しかし、今回の調査からは、SNSとリアル店舗の新たな関係性が見えてくる。SNSで商品や店舗を発見し、さらに情報を収集した上で、実際に店舗へ足を運ぶという消費行動だ。

AmexとRetail Economicsの調査では、SNSの影響を受けた人々のイギリスの中心商店街への訪問回数は、年間約17億回、週3,000万回超にのぼると推計されている。

さらに、SNSをきっかけにリアル店舗を訪れた人の約3分の1は、同じ外出で周辺の別の店舗やレストランなどにも足を運んでいた。Z世代では22%が現地に到着してから当初の予定以上にお金を使ったという。

つまり、SNS上で一つの店が話題になることが、その店だけではなく、周辺エリアへの人流を生み出す可能性もあるのだ。

オンラインとオフラインは、必ずしも「どちらで買うか」を奪い合う関係ではない。むしろ、SNSで発見し、現地へ訪れて体験し、その体験を再び共有するという循環が生まれている。

実際、調査では、回答者の3分の1が直近に訪れた個人経営の店舗について「ユニークな商品や体験を友人や家族に薦められること」を楽しんだと回答した。また、6人に1人がその店舗を訪れた体験を自身のSNSに投稿していた。

このように、消費者はSNSをきっかけにリアル店舗を訪れるだけでなく、自らの体験を発信することで、ほかの消費者が店舗を知るきっかけにもなっている。

小さな店ほど「わざわざ足を運ぶ理由」が武器になる

この変化は、大規模な広告予算を持たない個人経営の店舗にとっても重要な意味を持つ。Retail Economicsの分析によると、Z世代がSNSの影響を受けてイギリスの中心商店街で行う消費のうち、独立系事業者への支出が47%を占めている。

従来、遠方の消費者に店舗の存在を知ってもらうには、多額の広告費が必要になる場合があった。しかし、SNSの普及により、特徴的な商品やメニュー、店主・店員の個性、リアル店舗ならではの体験などが注目を集め、遠方からでも足を運びたいと思わせるきっかけになり得る。

Retail Gazetteが紹介しているイギリスの家族経営の菓子店Randallsでは、スタッフが270ポンド分の量り売り菓子を詰める動画がネット上で1,200万回以上再生された。その後、Randallsにはイギリス各地から客が訪れるようになり、1日の店頭売上は3倍になったという。

ただし、SNSで話題になれば必ずしも成功するわけではない。SNSを通じて抱いた期待と、実際にリアル店舗を訪れた際の体験にネガティブなギャップがあれば、一時的な話題にとどまる可能性がある。

マクドナルド氏も、オンラインで見せているものとリアル店舗での体験にズレがあれば問題になると指摘する。SNSで注目を集めた後は、その期待に応え、再び来てもらえる店になれるかどうかが重要となる。

実際、Amexの調査では、SNSの影響で初めて訪れたリアル店舗に再び足を運んだ消費者は8割を超え、Z世代では96%に達したと報じられている。

SNSはリアル店舗への集客につながる一方、一時的な話題を継続的な来店につなげられるかどうかは、実際の店舗体験の質に左右される。

リアル店舗は「便利な場所」から「目的地」へ

ECとリアル店舗を利便性の観点から比較すると、ECが優位に立つ場面は多い。オンラインでは商品の比較や価格の確認が容易で、自宅にいながら注文を完結できる。

だからこそ、リアル店舗には利便性だけでは測れない価値がある。その店舗でしか購入できない商品や、店員との交流、商品を実際に手に取る体験、友人と過ごす時間などだ。さらに、写真や動画に残したくなるような体験や、店舗を訪れること自体が、記憶に残る特別な経験となりうる。

2026年にSnapchatとPortasがYouGovと共同で実施した調査でも、Z世代の51%が、オンラインですぐに購入するよりも、「体験のためにリアル店舗へ足を運ぶこと」を好むと回答している。調査では、Z世代にとって買い物が、単なる商品の獲得から、社会的なつながりや記憶に残る体験へ広がっていることが示されている。

デジタル化によってリアル店舗の価値が消えたのではない。むしろ、便利さをオンラインが担うようになったからこそ、リアル店舗には「わざわざ足を運ぶ理由」がより強く求められるようになったとも考えられる。

そしてSNSは、リアル店舗ならではの魅力を広く発信する役割を担っている。オンラインとオフラインは対立するものではなく、SNSで店舗を発見し、実際に足を運んで体験した後、その体験を再びSNSで共有するという循環が生まれている。

「95分かけてリアル店舗に足を運ぶ」というデータが示すのは、Z世代が便利さを捨てたということではない。便利さだけでは得られない体験のためなら、あえて時間を使うことも選ぶという事実である。

これからのリアル店舗にとって重要なのは、「近いから足を運ぶ存在」になることだけではない。消費者にとって物理的に離れていても、オンラインで完結せず電車や車を利用してでも足を運びたくなる「ここでしか体験できない」と思わせる目的地になれるか。

SNS時代のリアル店舗の競争は、立地や利便性だけではなく、「わざわざ足を運びたくなる理由」をどうつくるかへと変わり始めている。

文:中井 千尋(Livit)

Vote

    あなたの年齢を教えてください
    あなたの性別を教えてください
    あなたの年収を教えてください
    勤務先でのあなたの役職を教えてください
    勤務先の会社規模を教えてください
    1カ月あたりの自己投資額を教えてください
    起業経験や起業意向について教えてください
    資産運用について行っているものを教えてください(複数回答可)