木を使うほど、森は育つ。日本木材が提案する「木のある暮らし」と「持続可能な循環」
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床を素足で歩いたとき、思わず「気持ちいい」と感じた経験はないだろうか。あの柔らかくて暖かい感覚は、木ならではのものだ。
「木」は、日本人にとって最も身近な素材の一つだといえる。住まいの床や壁、オフィスの内装、公共施設の家具。気づけば、暮らしのあちこちに木がある。ところが今、その木が十分に活かされていないのが実情だ。戦後に植えた大量のスギやヒノキが伐採の時期を迎えているにもかかわらず、木材の需要は十分とはいえない。加えて、木材を扱う人材の技術や知識も不足しているのだ。
木材専門商社として日本と東南アジアをつないできた株式会社日本木材は、この課題に正面から向き合っている。単に木材を売るのではなく、森から暮らしまでを見据えた「木材コーディネート」を掲げ、木の価値を社会に届けようとしている。なぜ今、木材の活用が求められているのか。そして、木はどのように暮らしと森をつなぐのか。代表取締役の長谷部 愛氏に話を聞いた。
- <企業概要>
- 株式会社日本木材
- 1979年創業。大阪府堺市に本社を置く木材専門商社。東南アジア、特にインドネシアとの長年の取引関係を強みとし、木材の企画・輸入販売を手掛ける。自社工場を持たないファブレス経営を採用し、木材の品質を見極める目利き力を生かした事業を行う。また、植林木の利活用や木材を通じた持続可能な社会づくりにも取り組む。
- 企業公式サイト: https://japan-timber.com/
伐採の時期を迎えた木が、使われないまま山に眠っている
日本木材は、インドネシアをはじめとする東南アジアと日本をつなぐ木材専門商社だ。ウッドデッキや床材、内装材など、主に住空間に使われる木材を扱い、仕入れから提案まで一貫して手がけてきた。長年のパートナーシップで培った現地とのネットワークと、木材を見極める目利き力が同社の強みだ。そんな同社が今、業界全体の構造的な課題と向き合っている。
戦後の日本は、焼け野原になった山を復旧するため、全国でスギやヒノキを植え続けた。住宅建設の需要にも応えるためだ。その木々がいま、伐採に適した時期を一斉に迎えている。
伐採されない木は、樹齢を重ねるにつれてより多くの花粉を放出するといわれている。スギ花粉症が社会問題として注目されるなか、国は伐採の促進と、花粉の少ない苗木への植え替えを進めている。
木を適切に伐採することは、環境面でも意味がある。木は若いほど光合成が活発で、二酸化炭素をよく吸収する。一方、老木になると吸収量が減少することもある。成熟した木を伐採し、若い木を植え続けることは、温暖化対策の一環にもなりうる。
こうした背景から、国は木材利用の推進に本腰を入れ始めている。2021年10月には「都市(まち)の木造化推進法」を大幅に改正し、木材の利用促進の対象は、それまでの公共建築物から、民間施設や戸建て住宅などを含む一般建築物へと拡大。補助金や支援制度の整備も進み、木材を使う機運は官民で高まっている。
ただ、現場には簡単には解消されない壁があると、長谷部氏は話す。
「木材を使う流れにはなってはいるものの、実際に扱うには専門的な知識や技術が求められます。木は生き物なので、スギでもヒノキでも1本1本、木目が違う。さらに、施工後も湿気を吸収・放出する調湿作用があるため、サイズが伸び縮みすることもある。そうした木材の特性を理解して扱うためには、使い手の知識や経験が必要であり、それが木材活用の難しさの一つとなっています」

木は「生き物」であり、均一なサイズで量産できる工業製品とは異なる。その扱いの難しさが、普及の壁になっている。
さらに、意外な盲点もある。建築の専門家である建築士も、木材の特性についてほとんど学ぶ機会がないという。長谷部氏は、受講したNPO法人サウンドウッズ主催の「木材コーディネート基礎講座」で、その事実を知ったと話す。
「建築士の資格を取る過程で、木材のことはほとんど学習しないらしいんです。木材を体系的に学ぶ機会が限られていることが、建築士が木材をあまり使わないことにつながっている。つまり、木材に関する基礎的な知識を得る機会を増やせば、活用は進むと考えています」
「生き物」としての木を知れば、愛着が生まれ、長く使える。日本木材が大切にする姿勢
こうした課題に向き合いながら、日本木材が取り組むのが「木材コーディネート」だ。木材を扱う商社として、「単に木材を仕入れて供給する」のではなく、「木材の特性を理解したうえで提案する」ことを目指している。
「単に木材を建築用の材料(建材)として扱い、お客さまが欲しいからお渡しするのではなく、その木材の材質や生育場所も含めてきちんとお客さまにお伝えしながら販売をする。そうするとお客さまも木材の良さや特性を理解してくださるので、大事に扱ってくれるようになるんです」
木材と建材は、業界内では別物として扱われる。建材とは、電気設備やキッチンカウンター、金属製の部材など、建築に使われるあらゆる素材の総称だ。その多くは工業製品であり、規格通りのサイズで誤差なく量産される。発注した通りのものが、必ず届く。
一方、木材は生き物だ。同じ樹種でも1本ごとに木目が異なり、湿度や温度によって伸び縮みする。サイズを指定して注文しても、数ミリのずれが生じることもある。均一であることが前提の建材と、個性があることが前提の木材。その違いへの理解が十分に広まっていないことが、木材の活用を難しくしている面もあると、長谷部氏は話す。
「木材には呼吸するという特性があります。だからこそ、木材の特性を踏まえて適切に選別し、用途に合った提案をすることが大切です。表面に傷がついても丸ごと取り替えるのではなく、ヤスリをかけて使うことで長持ちさせる。そうやって木と付き合う姿勢を持ってもらうと、愛着が湧いて、長く使ってもらえると感じています。
木の床を触ってみると、プラスチックやシート素材では得られない、柔らかくて暖かい感覚がある。そこに木の良さがあると思うんです」
木のある空間への需要は、住宅だけではない。新築住宅の着工件数が長期的に減少するなか、業界では「非住宅」という言葉が合言葉のように広まっている。
オフィスのリニューアル、商業施設の内装、公共施設の空間づくりなど、木材の活用先は広がりつつある。日本木材もオフィスの大型案件を手がけており、こうした法人からの相談で最もよく聞かれるのが、持続可能性への貢献だという。

「木を使うことが持続可能性につながるから木を使いたいというご相談が多いですね。木は、育てて、使って、また植えるという循環が成り立つ限り、枯渇しない資源です。コンクリートや鉄と違って、使うこと自体が森を育てる動機になる。そこに共感してくださる企業が増えてきたと感じています」
需要が森を育てる。天然木の限界と、植林木への転換
木を使うことが、森を育てることにつながる。その論理は、シンプルだ。需要が生まれれば木に経済的な価値が生まれ、価値があれば誰かが植えて育てようとするためである。
「木が使われることがわかれば経済的価値が生まれるので、木を植えて育てようという発想になります。逆に需要がなければ、誰も植えて育てようとしない。だからこそ、需要があることが非常に重要なことだと思っています。需要を生み出していくことも一つの仕事だと思っています」

この考えのもと、日本木材はインドネシアのメーカーと共同で「植林木」の製品化に取り組んでいる。
これまで同社が主に扱ってきたのは「天然木」だ。人が植えたのではなく、自然に生えた木を伐採・製品化したもの。ウッドデッキなどに使われる硬い天然木は人気が高い半面、木材として使用できるサイズになるまでに非常に長い年月を要する。需要が伸びるほど、枯渇のリスクも高まる。長谷部氏は早くから、その限界を感じていた。
「そのため、枯渇しそうなものを使い過ぎるより、植林木で持続的に循環させられる樹種を扱っていったほうが、事業の持続性という意味でも山の持続性という意味でも良いのではないかと思っています。天然木のみに頼り続けることは、森のためにも、事業のためにもならない。そう気づいたことが、植林木へ踏み出すきっかけでした」
植林木の最大の強みは、成長の速さだ。天然木が使えるサイズになるまでに約100年かかるのに対し、同社のプロジェクトで扱う樹種は、約10年で製品として活用できる状態になる。成長が早い分、二酸化炭素の吸収量も多く、環境負荷の低減にも貢献できる可能性がある。
さらに、インドネシアでは山の斜面に限らず平地でも植林が可能なため、伐採や輸送にかかるコストも抑えられる。つまり、植林木は「早く育ち、何度でも植えられる」資源といえるのだ。天然木のように枯渇を心配する必要がなく、需要に応じて供給を増やすことができる。持続可能なビジネスモデルを考えると、植林木への転換は自然な選択だった。
そして将来的には、植林そのものに関わることも視野に入れている。
「可能であれば、将来的に何らかのかたちで植林にも関わっていけたらと思っています。日本でもできたら良いですし、インドネシアでもパートナーと共同でできたらと考えています。植林は、木材を使う側と育てる側が初めてつながる場所でもある。そこに経済的価値を生み出せれば、森を守ることが誰かの仕事になる。実施する際には、関わる人みんなが幸せになるようなかたちにしていきたいです」
木を売り、暮らしを豊かにし、価値を感じる人が増えることで森を育てる動機になる。日本とインドネシアをつなぎながら、長谷部氏はその循環を少しずつ広げようとしている。商社という枠を超えて、木材コーディネートの仕事は、森の未来にまで届いている。
取材・文:吉田 裕基