AMP

AMP CLOSE×
TAG:
,

AMP

スポーツは、地域の未来への投資になる。新潟県と地元プロチームがつくる、子どもたちの“夢の入口”

スポーツは、地域の未来への投資になる。新潟県と地元プロチームがつくる、子どもたちの“夢の入口”

体育館にプロ選手やコーチが現れると、子どもたちの表情が変わる。同じコートに立ち、直接言葉を交わし、目の前でプレーを見る。プロ選手との距離が一気に縮まる体験は、スポーツへの憧れや「もっとやってみたい」という気持ちが芽生えるきっかけになる。

一方で、こうした出会いの機会が、すべての子どもたちに等しくあるわけではない。特に地方では、住む地域によってプロスポーツとの距離に差が生まれやすく、子どもたちがスポーツに触れ、その楽しさを知る機会を地域としてどうつくり続けていくかが問われている。

この問いに、行政と地域のプロスポーツチームの連携で向き合っているのが新潟県だ。「交流促進ゆめづくり事業」では、バスケットボール・サッカー・野球を通じて、県内各地の子どもたちにプロスポーツとの接点を届けている。

これは、単にスポーツを体験する機会を増やすだけの取り組みではない。子どもたちの「好き」や「やってみたい」を育み、地元チームへの親しみ、さらには地域への愛着へとつなげていく——。子どもたちへの一つの体験の提供が、どのように地域の未来への投資になっていくのか。本記事では、男子バスケットボール教室の現場から、その可能性を探る。

プロとの距離が縮まった日。子どもたちに芽生えた「憧れ」

普段は試合会場や画面の向こうで見るプロ選手が、同じコートに立ち、目の前でボールを扱い、直接声をかけてくれる。この日のバスケットボール教室は、新潟県が地域密着型プロスポーツチームと連携して展開する「交流促進ゆめづくり事業」の一環として開催されたものだ。子どもたちが地元のプロスポーツと出会う機会を、県内各地につくる取り組みの一つの現場である。

新潟県の燕市立吉田南小学校の体育館に、新潟アルビレックスBBの星野 曹樹選手と長谷川 智伸選手が姿を現すと、子どもたちの視線が一斉に集まった。

開会の挨拶で「選手からいろいろなことを盗んでください」と告げられると、会場の空気が変わった。星野選手は新潟県出身。自己紹介を終えた後、子どもたちにこう呼びかけた。

星野選手「今回のような機会はなかなかないので、ぜひ、一緒にバスケを楽しみましょう」

地元のプロ選手が目の前に立つだけで、子どもたちにとってはすでに特別な時間が始まっていた。

新潟アルビレックスBB 星野 曹樹選手

今回の教室では、バスケクリニック・ミニゲーム・サイン会の3部構成で進んだ。

まずは星野選手・長谷川選手によるバスケクリニックからスタート。「ドリブルは肩から行う」「下にたたきつけて、どこまで高く上がるか」。実際にボールを手に取った星野選手が動きを見せると、子どもたちは食い入るように見つめながら同じように挑戦する。何度もボールをつき直す。うまくいかなくても、それが楽しい。そんな空気が体育館に広がっていった。

ミニゲームになると、会場の熱気は一段と高まっていく。プロ選手を相手にシュートが決まれば、子どもたちから思わず笑顔がこぼれ、豪快なプレーには体育館いっぱいの歓声が響く。目の前で感じるスピードや迫力は、映像越しに見るのとはまるで違う。プロ選手と同じコートに立ち、そのプレーを肌で感じるうちに、子どもたちはすっかりゲームに引き込まれていた。

クリニックではドリブルのレクチャーを実施。ミニゲームでは選手や大人たちも子どもたちと一緒にプレーした

バスケットボールの技術だけでなく、選手自身の経験や、競技を続けるうえで大切にしてきた考え方を直接聞けることも、プロ選手と交流する機会ならではだ。

サイン会後の質問コーナーで、「上達するために一番大切なことは何ですか」と尋ねられた長谷川選手は、「感謝」の大切さを挙げた。

長谷川「バスケをがんばるのは当然です。でも、バスケがうまくなるには、まわりの人への感謝が大事です。友達や家族に感謝することで、相手のためにがんばるという気持ちになれます」

星野選手も、日常的に感謝を言葉にすることの大切さを伝えた。

星野「『ありがとう』と言われて嫌な気持ちになる人はいません。お弁当をつくってくれてありがとう、などと少しずつ声に出していくと、感謝を伝えられるようになります」

選手たちの言葉を、子どもたちはどう受け止めたのだろうか。参加した小学生からは、こんな声が聞かれた。

「間近で見て、ダンクやハンドリングが本当にすごかったです。あとは、長谷川選手が感謝を大切にと言っていたので、明日からまわりの人に感謝を示すために、服をちゃんとたたもうと思います」(参加した小学生)

同じ言葉でも、プロ選手の口から語られると、子どもたちへの届き方は変わる。目の前でプレーを見て、同じ時間を過ごした相手だからこそ、その言葉は競技の場を越えて、日常の行動にも小さな変化を生む。保護者も、子どもの変化をこう振り返る。

「普段の試合では遠い存在のプロ選手のプレーを間近で見られて、子どもたちにとっても大きな刺激になると思います。この機会をきっかけにモチベーションを上げてほしいです。普段の練習はピリピリしているところもありますが、今日は本当に楽しそうでした。バスケが楽しいという気持ちを、改めて思い出させてくれたと思います」(参加者の親)

プロ選手と同じコートに立ち、そのプレーと言葉に直接触れる。この日の教室で生まれていたのは、バスケットボールの技術を学ぶ時間だけではない。子どもたちがスポーツを「もっとやってみたい」と思い、地元チームを身近に感じるための、“夢の入口”ともいえる体験だった。

なぜ行政が「夢の入口」をつくるのか、新潟県がプロスポーツと組む理由

こうした子どもたちとプロスポーツチームの出会いは、自然発生するものではない。新潟県が意図的に設計し、機会をつくり続けているからこそ生まれる。新潟県観光文化スポーツ部スポーツ課に所属する阿部 達也氏は、交流促進ゆめづくり事業の目的を次のように説明する。

阿部「スポーツ課の最終目標は、スポーツを通じて豊かな生活を県民の方々に送っていただくこと。そのために、子どもの頃から『スポーツは楽しいものだ』と感じてもらいたいんです。プロ選手になりたいと思ったり、チームを応援したいと思ったり、そういう夢を与えられる場所をつくり上げる事業だから、『ゆめづくり』という名前がついています」

交流促進ゆめづくり事業は、新潟県が地域密着型プロスポーツチームと委託契約を結び、各市町村が希望する競技でスポーツ教室や大会を実施する仕組みだ。各市町村が毎年「実施を希望する競技」を申請し、その希望に応じてプロスポーツチームとの教室などが組まれる。新潟県が連携の窓口を一元化することで、市町村は現場の準備だけに集中でき、費用負担もほとんどない。

新潟県観光文化スポーツ部スポーツ課 スポーツ交流係 阿部 達也氏

そして事業の継続を支えているのが、スポーツくじの助成金(※)だ。阿部氏はその役割を次のように説明する。

阿部「新潟県の重要課題が多々ある中では、スポーツ事業は優先順位が上がりにくいのが現状で、我々の予算だけでは事業実現が難しいところがあります。そのため、スポーツくじの助成金をいただくことで、プラスアルファの予算をつけられ、より幅広く事業を実施することが出来ます」

さらに、継続性という点でも、スポーツくじの助成金は大きな支えになっていると話す。

阿部「スポーツ交流の取り組みは、単発では効果が出にくく、続けることに意味があります。国の補助金などには期限があることが多い中、本事業では、スポーツくじの助成金を毎年申請し、採択されながら、今年で9年目を迎えています。スポーツくじが目指している日本のスポーツの普及・振興という目的と、私たちが目指す方向性が合致しているため、本事業にも活用しやすい助成金だと感じています」

スポーツくじの助成金は単なるイベントの支援にとどまらない。なぜなら、子どもたちとプロスポーツチームの出会いそのものを支えているからだ。

一極集中させない、スポーツを起点とした新潟県の地域づくり

交流促進ゆめづくり事業は、年間を通じて県内各地で実施されている。スポーツ教室はバスケットボール・サッカー・野球の3競技で年間約20件。サッカー大会2つ、野球大会1つ、未経験者向けの「親子サッカー教室」が4回など、合わせると年間30件近い活動が県内各地で展開されている。

特に阿部氏が力を込めるのが「県内各地に届ける」という点だ。

阿部「新潟市に住む子どもたちは、プロスポーツチームの本拠地や試合会場へのアクセスがしやすく、スタジアムでプロ選手のプレーを見られる機会が多いんです。しかし、遠方の子どもたちは、そもそも試合を見に行くことが難しい。だからこそ、プロスポーツに触れる機会を県内各地に届けたいんです」

市町村からの希望を集め、なるべく多くの地域の子どもたちにアプローチする。各市町村が「やりたい競技」を申請し、新潟県がプロスポーツチームとの委託契約で応じる仕組みは、新潟市への一極集中を避けながら、新潟県全体のスポーツ振興につなげる設計だ。「希望しない市町村はあまりない」と阿部氏が語るように、県内各地から継続的に申請が寄せられている。

また、スポーツ経験者だけが対象ではない。アルビレックス新潟レディースが担当する「親子サッカー教室」は未経験の子ども向けで、ボールを蹴る楽しさそのものを体験してもらうことを目的としている。

阿部「親子サッカー教室からそのままサッカーを始める子もいます。この事業を通して、子どもたちがこれから成長していくためのきっかけをつくれていると感じますね」

上から、2026年8月9日開催 オイシックス新潟アルビレックスBCドリームフェスタの様子、2026年6月14日開催 アルビレックス新潟SMILEカップU-10サッカー大会の様子、2025年5月18日開催 アルビレックス新潟レディース親子サッカー教室の様子
(新潟県観光文化スポーツ部スポーツ課提供)

スポーツ教室がはぐくむ、チームのファンづくりと地域の“ゆめづくり”

助成金を活用して県内各地で開催されるスポーツ教室は、子どもたちにとってプロ選手と出会う機会であると同時に、新潟アルビレックスBBにとっても地域と直接つながる接点になっている。新潟県出身の星野選手は、五泉市や燕市など複数の地域へ足を運ぶ中、「少しずつ形になってきている」と話す。

星野「新潟県は、日本初のプロバスケットボールチームが生まれた地です。伝統と歴史をもっと広げる必要があります。特に、自分たちが動けるオフシーズンの時期にバスケットボールを広めたいんです。プロ選手として、時間がある限りはこうした活動を続けていきたいですね」

一方で長谷川選手は、「地域貢献」として何をすべきか、簡単には答えが出ないと率直に話す。それでも星野選手と共通しているのは、こうした活動を「一度きりの奉仕」ではなく、積み重ねによって裾野を広げていくものだと捉えている点だ。

長谷川「地域貢献はよく耳にする言葉ですが、プロ選手として地域のために具体的に何ができるのかを考えることがあります。今回のような教室であれば講師として参加し、普段の練習で考えていることや経験を伝えられます。その積み重ねが、地域のスポーツを盛り上げるきっかけになればと考えています」

新潟アルビレックスBB 長谷川 智伸選手

そうした積み重ねの先にあるのが、バスケットボールを次の世代へつないでいくことだ。星野選手は、「バトンを渡す」という言葉でその思いを表現する。ファンが特定の選手に紐づくのではなく、バスケットボールそのものを好きになってもらうことで、選手が引退しても応援の連鎖が続いていくと話す。

星野「例えば、長谷川選手のファンがいたとして、長谷川選手が引退したらそのファンは離れてしまうかもしれない。でも、その人がバスケットボール自体を好きになってくれたら、次の選手の応援につながっていく。まず知ってもらうことを積み重ね、現役中に自分たちが若い世代へしっかりとバトンを渡していきたいんです」

新潟アルビレックスBBの選手と触れ合い、笑顔があふれる子どもたち

バトンは、すでに先人たちから自分たちへと受け継がれてきたものでもある。長谷川選手はそう感じているからこそ、今の自分たちにできることを考え続けている。

長谷川「今、B.LEAGUE(Bリーグ)がこんなに盛り上がっているのは、バスケットボール界を支えてきた人たちからバトンをもらってきたからです。試合に勝つ、練習に励むことが選手としての仕事ですが、それだけが役割ではありません。若い世代やバスケットボールに興味のない親御さんなどにも、B.LEAGUEが伝わるように活動していきたいです」

改めてこうした活動のきっかけとなっているのが、助成金を活用したスポーツ教室の開催である。過去には、チームが単独で地域に出向き、クリニックを開催することもあったという。しかし、ホームタウンの長岡から離れた地域では、参加者が少ないこともあった。だからこそ、行政と連携し、助成金を活用しながら教室を継続的に開催できることには大きな意味がある。継続して機会を届けてきた結果、今回のように30人を超える子どもたちが集まる場にもつながっている。

長谷川「バスケットボールだけでなく、違うスポーツ、違う世界でもいい。子どもたちが夢を持つことへアプローチができる、こうした環境をスポーツくじの助成金でつくってもらえることは、非常に良い活動だと思います」

星野「バスケットボールに関われない地域の子どもたちにとって、とてもありがたいですよね。我々が単独でスポーツ教室を開催したこともあったのですが、例えば5年前に五泉市に行ったときは参加児童が4人しかいませんでした。そのとき親御さんに『このような機会をもっと増やしてください』と言われたのですが、そこからスポーツくじの助成金があるおかげで、ちゃんと継続できています。日々の練習と同じように、こうした活動も継続することに意味があると考えています」

選手個人のファンを増やすだけでなく、バスケットボールそのものを好きになってもらうこと。その積み重ねは、新潟アルビレックスBBにとってのファンづくりであると同時に、子どもたちが地元チームに親しみ、スポーツを続けるきっかけを育む「ゆめづくり」にもなっているのだ。

“夢の入口”をつくり続けることが、地域の未来を育てる

プロ選手との出会いは、子どもたちにスポーツへの憧れや意欲を生むだけではない。地元チームへの親しみや、地域そのものへの愛着につながる入口になりうる。阿部氏は、その先に描く新潟県の将来像を次のように語る。

阿部「子どもの頃から新潟県でスポーツに関わることが楽しいと思ってもらえれば、この県に残ってもらうことにもつながります。新潟県民の方が日常生活で『新潟県』を意識することって少ないかもしれません。でも、一体となって地元のプロスポーツチームを応援することで『自分は新潟県民なんだ』と感じることができます。

新潟県の事業は数年で終わることも多いのですが、スポーツくじの助成金があるおかげで、この事業は10年以上、続けられています。続けているからこそ、対象の子どもたちが競技を続けたり、違う形でもスポーツに関わり続けたりしながら、また新しい世代にスポーツの楽しさを届けられます」

今回、参加した子どもたちや保護者の声、そして選手の言葉の先に共通して浮かんでくるのは、スポーツを通じた「つながり」の可能性だ。

県・市町村・地域のプロチームが連携し、子どもたちがスポーツと出会える場を継続的につくり続けることで、子ども・家庭・チーム・地域は少しずつつながっていく。その積み重ねが、地域のウェルビーイングを育み、スポーツが世代を超えて持続的に親しまれる「スポーツサステナビリティ」の実現にもつながっていく。

スポーツくじの助成金が支えているのは、単なるイベント開催ではなく、子どもたちがプロスポーツに触れ、憧れを持ち、地元チームを身近に感じるための体験価値そのものだといえる。プロを目指す夢、チームを応援する夢、地元を好きになるという夢。それぞれの“夢の入口”を地域でつくり続けることが、地域の未来への投資になっていくはずだ。

取材・文:吉田 裕基
写真:水戸 孝造

Vote

    あなたの年齢を教えてください
    あなたの性別を教えてください
    あなたの年収を教えてください
    勤務先でのあなたの役職を教えてください
    勤務先の会社規模を教えてください
    1カ月あたりの自己投資額を教えてください
    起業経験や起業意向について教えてください
    資産運用について行っているものを教えてください(複数回答可)