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「見て買う」から「体験して語る」へ。「Tokyo Gendai 2026」で広がる現代アート

「現代アートは難しそう」——そう感じる人もいるかもしれない。しかし、会場に一歩足を踏み入れれば、専門知識がなくても、鑑賞者の興味関心からアートに触れられる多様な入口が用意されていた。

巨大なインスタレーション、目の前で生まれるライブペインティング、そして国内外のギャラリーが紹介する現代アートの数々——。2026年9月11日から13日まで、パシフィコ横浜で開催された国際アートフェア「Tokyo Gendai 2026」では、枠にとらわれない表現空間が広がっていた。

作品を鑑賞・購入する場にとどまらず、アートを起点に新たな発見や対話を生み出そうとするフェアの姿勢は、今回の展示構成や各種プログラムからも感じられた。活気に満ちた会場の様子とともに、主催者や関係者の言葉から、日本と世界のアートシーンをつなぎ、アーティストの発表機会や多様な人々の対話を生み出す場として、このフェアが果たす役割と見据える未来に迫る。

「Tokyo Gendai 2026」会場の様子

新設は「紙」、復活は「デジタル」。第4回Tokyo Gendaiを彩る5つのセクター

2023年にスタートした「Tokyo Gendai」は今年で4回目を迎え、18の国・地域から69のギャラリーが参加。業界を牽引する名門から新進気鋭のギャラリーまで、多彩な展示が繰り広げられた。

Tokyo Gendaiの価値は、国内外の作品を一堂に集めることだけではない。ギャラリーやアーティスト、コレクター、来場者が作品を介して出会い、直接言葉を交わす。展示と販売、交流が同じ会場で行われることで、作品が新たな鑑賞者や購入者と出会い、アーティストやギャラリーにも次の接点が生まれる。作品・人・市場をつなぐプラットフォームとしての役割が、このフェアの大きな特徴だ。

その役割を会場で具体化しているのが、それぞれ異なる機能を持つ5つのセクターだ。

国内外を代表するギャラリーが出展するメインセクター「Galleries」をはじめ、若手から中堅アーティストを紹介する「Hana ‘Flower’」、アジアを中心に美術史的価値のあるアーティストに焦点を当てる「Eda ‘Branch’」を展開。

さらに、デジタルメディアを取り上げた「Tane ‘Seed’」が2年ぶりに復活したほか、写真を含む紙を媒体とした作品や印刷作品に焦点を当てる「Miki ‘Trunk’」が新たに登場した。Miki ‘Trunk’は、紙を用いた表現の豊かな歴史を持つ日本の文化的背景を踏まえて新設されたものだ。

今年のセクター構成で注目したいのが、デジタルメディアに焦点を当てたTane ‘Seed’の復活と、紙を媒体とした作品を紹介するMiki ‘Trunk’の新設だ。性質の異なる2つの媒体に同時に光を当てた点に、2026年のTokyo Gendaiの特徴が表れている。

フェアディレクターの高根 枝里氏は一見対照的な2つの展示について、「反対に見えるけれど、実はつながっている」と話す。こうしたセクターの構成や出展ギャラリーの顔ぶれは、媒体の特性だけを起点に設けられたものではなく、ギャラリーとの継続的な対話から生まれることも多い。

今回新設した紙を媒体とした「Miki ‘Trunk’」

その一例が、BANGKOK CITYCITY GALLERY (バンコク)のMiki ‘Trunk’への出展だ。高根氏によると、映画や映像を中心に活動してきたApichatpong Weerasethakul(アピチャッポン・ウィーラセタクン)氏が写真にも表現を広げていることを受け、今回の出展に至ったという。

またTane ‘Seed’では、数年にわたり対話を重ねてきた台湾の3つのギャラリー(Chi-Wen・Project Fulfill Art Space・Double Square Gallery)も参加し、映像作品の紹介が実現した。変化し続ける表現に合わせて、ギャラリーとともに発表の場をつくることにも、Tokyo Gendaiのプラットフォームとしての価値が表れている。

そのほかMiki ‘Trunk’の新設には、コレクションのハードルを下げる狙いもあるという。同じ作品を一定数制作し、それぞれに限定番号を付けて販売する版画や写真などのエディション作品は、一点物のオリジナル作品に比べて価格面でも手に取りやすく、アート収集の第一歩としてアクセスしやすい。日本市場においてエディション作品の購入者割合が、オリジナル作品と同程度であるというデータも、新設を後押ししたとしている。

見るだけでは終わらない。映像・パフォーマンス・対話で広がるアート体験

Tokyo Gendaiの魅力は、ギャラリーのブース巡りにとどまらない。会場の空間を生かした大型インスタレーションやパフォーマンスのプログラム「Sato ‘Meadow’」では、本フェアのために特別に制作された作品も披露された。

なかでもShohei Takasaki氏は、即興の打楽器演奏に呼応しながら、巨大なターポリンをキャンバスに見立てたライブペインティング『Untitled(September 10 2026)』を披露。音と身体の動きに合わせて画面が刻々と変化し、来場者は完成した作品を見るだけでなく、作品が生まれる過程そのものを目の当たりにした。会期中にはこのような五感で味わうアート体験も生み出していた。

今回は、Tokyo Gendaiとして初となる映像作品のスクリーニングもSato ‘Meadow’で実施された。パフォーマンス・アートの世界的第一人者と称されるMarina Abramović(マリーナ・アブラモヴィッチ)氏をはじめ、田名網 敬一氏、クリエイター集団Rhizomatiksなど、出展ギャラリーに所属するアーティスト8組の作品を大型LEDで上映。絵画や写真などの静止した作品だけでなく、映像や音、時間の経過を伴う表現にも触れられるプログラムとなった。

「Sato ‘Meadow’」の映像作品スクリーニングで、大型LEDに映し出された田名網敬一氏の『赤い陰影(Red Shad)』(2021年)

さらに、国内外から20名を超えるキュレーターが参加した「キュレーターシンポジウム」や、多分野の表現者が登壇するトークイベント「Art Talks」も実施。Art Talksでは、現代アートにおける映像表現、コレクターと作家から見るアートの価値、国際芸術祭の未来など、全9セッションにわたって熱い議論が交わされた。

大型インスタレーションや映像、パフォーマンスによって作品を体感し、Art Talksを通じて作品を取り巻く考え方やアート界の動向に触れる。見ることに加えて、聞き、考える機会が設けられている点にTokyo Gendaiの会場体験の広がりが表れていた。

展示・販売の先へ。世界のアートコミュニティをつなぐTokyo Gendai

こうしたプログラムは、来場者の体験を広げるだけではない。新進アーティストの活動を後押しするとともに、国内外の専門家が知見を共有し、新たなつながりを築く機会にもなっている。

その取り組みの一つが、アート作品の鑑賞・購入を支援するアートプラットフォームArtStickerの協力によって実施された「Hana Artist Award」だ。2026年は、福岡県を拠点に活動するSoh Souen(ソー・ソウエン)氏(AWASE gallery)が受賞者に選ばれ、賞金100万円が贈られた。

また、国際的なアートフェアの企画・運営を手がけるAngus Montgomery Artsが創設した「AMA Artist Award 2026」の初代受賞者、Umar Rashid(ウマー・ラシッド)氏も、受賞を機にTokyo Gendaiで新作を展示。アーティストに国際的な発表機会を提供する取り組みも実施された。

Tokyo Gendaiが目指すのは、作品を展示・販売して終わるフェアではない。アーティストには次の発表機会を、ギャラリーや専門家には新たな協働のきっかけを生むこと。そして3日間で生まれた接点を、会期後も続く関係やプロジェクトへつなげることだ。

会期前日の2026年9月10日に開かれた記者説明会で、共同創設者のMagnus Renfrew(マグナス・レンフリュー)氏は、「Tokyo Gendaiをきっかけに、年間を通じて新たなプロジェクトやコラボレーションが生まれ、長期的な文化交流や人と人との確かなつながりへと発展していくことを目指していきます」と語った。

また、プリンシパルパートナーであるSMBCグループの加藤 聡彦氏も、「作品鑑賞や購入だけではなく、アーティストやギャラリーと直接言葉を交わすことで新しい価値に出会える。アートには言葉や国境を越えて人と人をつなぎ、文化と経済の間に新たな循環を生み出す力があると思います」と期待を寄せた。

「Tokyo Gendai 2026」記者説明会の様子。左から、マグナス・レンフリュー氏、高根 枝里氏、加藤 聡彦氏

そして2027年、Tokyo Gendaiは会場をパシフィコ横浜から「有明GYM-EX」へと移し、11月4日から7日まで開催される。日本と世界のアートシーンを継続的につなぐプラットフォームとして、新たな展開を目指す。

レンフリュー氏は、横浜での開催に感謝を示しつつ、日本のアートシーンにさらなる機運を生み、海外からの来場を促すための挑戦と今回の移転を位置づけた。日本の文化芸術を世界へ発信する、より力強いプラットフォームとなっていく考えだ。

「分からない」から始めてもいい。“ドアのないフェア”が開く現代アートの入口

国内外のアート関係者が集う一方、Tokyo Gendaiは、現代アートになじみのない人にも間口を広げようとしている。高根氏は、世代や国籍によって作品への反応は異なるとしたうえで、フェアの楽しみ方について次のように語った。

「何を意味しているのか分からないと感じることもあるかもしれませんが、現代アートは怖いものではありません。ギャラリーのブースだけでなく、インスタレーションやパフォーマンス、トークなど、さまざまな“入口”を用意しています。気になる作品があれば立ち止まり、興味がなければ次へ進む。ドアのないフェアだからこそ、常に間口は広げていたいです」

この考え方は、会場の設計にも表れていた。通路の幅は3.5メートル以上が確保され、来場者が自分のペースで作品を鑑賞できる環境が整えられている。ベビーカーや車いすでの来場にも配慮されており、購入目的の人だけでなく、現代アートに初めて触れる人も会場を巡りやすい空間となっていた。高根氏は、こうした“ドアのないフェア”の姿勢こそがアートの裾野を広げていくと語る。

Tokyo Gendaiが生み出しているのは、作品の展示・販売にとどまらず、国境を越えた出会いと対話が重なり、次の関係やプロジェクトへとつながっていく場だ。現代アートを楽しむことに、最初から知識や正解は必要ない。巨大な作品に圧倒されるのでもいい。気になる一枚の前で立ち止まるだけでもいい。その小さな関心こそが、未知の価値観と出会い、新たな対話を始める第一歩になる。

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