「フォロワーを増やして稼ぐ」はもう古い? SNSクリエイターが“自分の店”を持ち始めた理由
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SNSでフォロワーを増やし、企業の商品を紹介して広告収入を得る。「インフルエンサー」と聞いて、多くの人が思い浮かべるビジネスモデルである。
しかし海外では、こうしたインフルエンサーを含むクリエイターの役割が、商品の宣伝にとどまらず、販売やブランド経営にまで広がり始めている。
商品の紹介だけでなく、実際に販売する。複数のブランドから自分が薦めたい商品を選び、自分の「店舗」を持つ。さらにブランドと商品を共同開発し、最終的に自らがブランドオーナーになる。
「広告塔→販売チャネル→セレクトショップ→商品プロデューサー→ブランドオーナー」。クリエイターの役割は、商品の宣伝から販売、商品開発、さらには自社ブランドの経営へと広がり始めている。
第1段階:「広告塔」──フォロワーというメディアをブランドに売る
クリエイターエコノミーの出発点はシンプルだった。個人がYouTubeやInstagram、TikTokなどでオーディエンスを獲得し、その「リーチ」をブランドに提供するビジネスモデルである。
企業から商品提供や報酬を受け、SNSで紹介する。クリエイターが持つのは情報発信の場としてのメディアであり、商品も販売チャネルもブランド側が持っていた。
この市場はいまも拡大している。アメリカのビジネスメディアBusiness Insiderが2026年8月に報じた記事によれば、アメリカの企業によるクリエイターマーケティング支出は2026年に120億ドルを超え、クリエイターのソーシャルメディア収入も200億ドルを超える見込みである。
ただし、クリエイター側から見れば弱点もある。企業案件が来なければ収入にならず、報酬もキャンペーン単位になりやすい。そこで登場したのが、商品を紹介するだけでなく、販売によって収益を得るモデルである。
第2段階:「販売チャネル」──ExpediaはIShowSpeed専用の旅行ショップを作った
その進化を象徴するのが、アメリカのオンライン旅行予約サービスExpediaと人気インフルエンサー IShowSpeed(アイ・ショー・スピード)の取り組みである。
2026年4月、ExpediaはIShowSpeedと組み、カリブ海の5つの国と地域を15時間で巡るライブ配信を実施した。Expediaによると、SNS全体で4億人以上にリーチしたという。配信後、ExpediaのWebサイトにおける旅行先の検索需要はシント・マールテンで70%、グアドループで50%、ドミニカ国で35%増加した。
ここまでは一般的な大型インフルエンサーキャンペーンの枠組みに収まる。しかし、注目すべきはその後の展開である。Expediaは6月、IShowSpeed専用サイト「Exspeedia.com」を軸にした「shoppable travel experience」を開始した。

https://speed.expedia.com/
IShowSpeedが動画で体験したホテル、フライト、アクティビティを、視聴者がその場で探して予約できる。Expediaは「旅のインスピレーション」を「予約」へ直結させたのである。
IShowSpeed自身も、「ファンが自分の動画を見て、すぐ自分自身の冒険を予約できる」とコメントしている。つまりクリエイターは、広告を届ける「メディア」から、消費者を直接購買へ連れていく販売チャネルになった。
この変化は旅行業界に限らない。2026年7月には、TikTok内で商品の購入まで完結できるEC機能「TikTok Shop」がアメリカのEC市場の約2%を占め、オンライン売上高では小売大手のTargetやCostcoなどを上回ったとの推計も報じられている。
TikTokは、動画を視聴するSNSから、商品を直接購入できる巨大な販売チャネルへと進化しつつあるのだ。
第3段階:「セレクトショップ」──今度はクリエイターがブランドを選ぶ
さらに興味深い変化が起きている。SNSクリエイターが商品へのリンクを貼るだけでなく、自分の世界観で商品を選び、自分自身のデジタル店舗を運営するモデルである。
代表例が、クリエイターによる商品紹介・販売を支援するプラットフォーム「LTK」だ。
LTKが公開しているイギリスのSNSクリエイター事例では、Instagramで約25万人のフォロワーを持つクリエイターが、自身の「LTK Shop」を毎日更新するようになった。年間収入は3万5,000ポンドから17万8,000ポンドへ増加し、年間注文数は4万件に達した。
別のイギリスのファッションクリエイターの事例では、LTK Shopから年間3万件の注文を生み、年間収入は20万5,000ポンドに達している。
ここで重要なのは、単なるアフィリエイト収入の大きさではない。
従来のインフルエンサーマーケティングでは、ブランド側が商品紹介をクリエイターに依頼することが一般的だった。一方、クリエイター自身が運営するオンラインショップでは、クリエイター自身が「この商品を自分の店に置く」と選択する。
ブランドがクリエイターを選ぶ関係から、クリエイターがブランドを選ぶ関係への逆転が起きたのである。
同様のサービスを展開するのが、アメリカ発のクリエイター向けEC支援プラットフォーム「ShopMy」だ。ShopMyでは、クリエイターが自分専用のオンラインショップを開設し、5万以上の提携ブランドから紹介したい商品を選ぶことができる。
2026年3月時点で参加クリエイターは24万3,000人を超え、年間取引額は10億ドルに達したとInc.は報じている。これは、ある意味で「個人経営のデジタルセレクトショップ」である。
こうしたクリエイター主導の販売チャネルは、ブランドにとっても重要性を増している。
高級ファッションECのMATCHESがアメリカでLTKと提携したキャンペーンでは、12人のクリエイターが同社のLTK上の売上の40%を生み出した。LTK経由の売上は前年比50%増、ROAS(広告費用対効果)は4倍となり、MATCHESは翌年、クリエイターとのコラボレーション投資を425%増やした。
MATCHESで当時、グローバル・アフィリエイトマーケティング責任者を務めていたTom Pawley(トム・ポーリー)氏も、LTKから得られるパフォーマンスレビューやクリエイターからのフィードバックによって、「正しいキャンペーンと商品」をオーディエンスに届けられると説明している。
クリエイターが運営するオンラインショップで商品を取り扱ってもらうこと自体が、ブランドにとっての新たな価値を持ち始めているのである。
第4段階:「商品プロデューサー」──売る人から、作る人へ
自身のフォロワーが求める商品を把握できれば、そのニーズを生かした商品開発へと事業を広げることも可能になる。
2026年8月4日、アメリカのファッションブランドPacsunは、TikTokなどで人気を持つクリエイターAnna Sitar(アナ・シタール)氏との共同開発コレクションを発売した。
コレクションは全24アイテムのラウンジウェアで、価格は30〜65ドル。単に「Sitar」の名前を付けたライセンス商品ではなく、シタール氏本人とPacsunのデザインチームが初期段階からシルエット・素材・カラー・サイズ感・スタイリングまで共同で開発した。
シタール氏は「自分のクローゼットにあったらいいと思う定番アイテムから始めた」と説明している。開発には8〜10カ月をかけたとPeopleは報じている。今回のコレクションは、Pacsunとの3度目の共同開発となる。
この段階に至っては、クリエイターの役割は商品の宣伝にとどまらない。自身のフォロワーの好みやニーズを商品開発に反映させ、ブランドとともに商品を生み出すプロデューサーへと進化している。
第5段階:「ブランドオーナー」──フォロワーを持ってから会社を作る
さらに、クリエイター自身がブランドを立ち上げ、経営するケースも登場している。
その代表例が、YouTuberのMrBeastことJimmy Donaldson(ジミー・ドナルドソン)氏が展開するチョコレートブランド「Feastables」だ。

https://feastables.com/pages/ethicalsourcing
アメリカの経済メディアBloombergが投資家向け資料をもとに2025年に報じた内容によると、Feastablesの年間売上高は約2億5,000万ドル、利益は2,000万ドル超となっている。一方、YouTubeやAmazon Prime Video向けの番組制作などを手がけるメディア事業は、同程度の売上高を記録したものの、約8,000万ドルの赤字となった。
つまり、世界最大級のYouTuberであるドナルドソン氏にとっても、動画制作を中心とするメディア事業より、チョコレートを販売するブランド事業のほうが高い収益性を示したのである。
Feastables公式サイトが説明するブランドの歩みを見ても、当初の「MrBeast Bar」から商品を改良し、現在ではカカオ調達や児童労働問題まで含めた独自のブランドミッションを掲げている。もはや単なる「YouTuberのグッズ事業」の領域にとどまらないといえる。
イギリスのファッションクリエイター Victoria Magrath(ヴィクトリア・マグラス)氏の事例も注目に値する。
元大学講師のマグラス氏は2012年にブログ「Inthefrow」を開始し、ブランド案件やLTKでの商品推薦へとビジネスを拡大した。イギリスのメディアThe Timesは2026年8月に、現在もLTK経由で継続的に売上を生み出す一方、2025年には自身のメイクアップブランド「byfrow」を立ち上げ、初日に1,000件を超える注文を獲得したと報じた。
マグラス氏は、情報発信から商品紹介、販売、自社ブランドの立ち上げへと事業を拡大してきたクリエイターの一人である。
「フォロワー数」より重要になる、自分の市場を持てるか
この5段階から、クリエイターのビジネスモデルがどのように変化しているのかが見えてくる。
当初はSNSでの影響力を生かした広告収入が中心だったが、次第に商品の販売にも関わるようになり、自ら紹介する商品の選定や商品開発、さらには自社ブランドの立ち上げへと活動の幅を広げている。
ただし、すべてのクリエイターがこの順番で事業を拡大し、ブランドオーナーを目指すわけではない。複数のブランドの商品を紹介・販売するセレクトショップ型のビジネスも、継続的な収益を生み出す事業モデルの一つである。
こうした変化は、クリエイターのキャリアにも新たな可能性をもたらしている。
従来、インフルエンサーを含むクリエイターの価値は主にSNS上のフォロワー数や影響力によって評価されてきた。しかし、商品紹介・販売を通じて、フォロワーがどのような商品に関心を持ち、何を購入し、どの価格帯やカテゴリーに反応するのかを把握できるようになっている。
つまり、フォロワーは単なる情報の受け手ではなく、具体的な購買需要を持つ「市場」として捉えられるようになったのである。
商品を開発してから顧客を獲得する従来の起業とは事業構築の順序が異なる。クリエイターは先にコミュニティを作り、商品を紹介して需要を学び、売れるカテゴリーを発見してから、自分の商品を作ることができる。
2026年8月には、クリエイター支援大手のDigital Brand Architectsが、クリエイターの収益多角化やブランド立ち上げを支援するV1sion Venturesの買収を発表した。クリエイターの「その先の事業」を支援すること自体が、新しい産業になり始めているのだ。
これからクリエイターを目指す人にとって、重要なのはフォロワー数だけではない。自身の発信がどれだけ購買行動につながるのか、どのような商品が支持されるのか、そして自身の強みを生かしてどのような商品を生み出せるのかが、今後の可能性を左右する。
SNSの普及によって個人がメディアとして影響力を持つようになったとすれば、次に広がるのは、その影響力を商品販売やブランド経営へと発展させるビジネスモデルである。
クリエイターは情報の発信者にとどまらず、自ら事業を展開する存在へと進化し始めている。
文:岡 徳之(Livit)