AMP

AMP CLOSE×

大人になるとなぜ「友達づくり」が難しくなる? SNS時代に再注目される“第三の居場所”とは

大人になると、友達をつくるのが急に難しくなる。学生時代には、教室へ行けばいつも同じ人がいた。授業の前後に話したり、一緒に昼食を食べたり、特に約束をしなくても何度も顔を合わせたりする。その積み重ねをすることで、いつの間にか友達ができていた。

ところが、学校を卒業すると、そうした環境は少なくなる。リモートワークが広がり、職場で毎日同じ人と顔を合わせるとも限らない。SNSを開けばいつでも誰かの近況を知ることはできるが、画面の向こうの「つながり」と、実際に誰かと時間を過ごすことは同じではない。

だからといって、「友達をつくろう」とイベントに参加したり、知らない人へ話しかけたりするのは、それなりに勇気がいる。

こうしたなか、海外では、自宅でも職場でもない「Third Space(サードスペース)」が改めて注目されている。かつてはカフェやバーなどが代表例だったが、近年ではランニングクラブやウェルネス施設など、その形も広がりつつある。

なぜ今、人々はこうした場所に集まるのか。サードスペースの広がりを追うと、デジタル時代に変化する人とのつながり方と、そこから生まれる新たなビジネスの可能性が見えてくる。

「友達をつくろう」は、意外と難しい

SNSによって、私たちはいつでも誰かとつながれるようになった。それでも、大人になってから新しい人間関係をつくるのは容易ではない。

社会人になると、学生時代のような偶然の接点は少なくなる。「誰かと話したい」と思っても、わざわざ友人を誘うほどではない。知らない人と交流するためだけのイベントに参加するのも、少しハードルが高い。

こうした状況を考えるうえで興味深いデータがある。「思いやりのある社会づくり」を研究するハーバード大学教育大学院のプロジェクト「Making Caring Common(メイキング・ケアリング・コモン)」が2024年にアメリカで実施した調査では、成人の21%が孤独を感じていると回答。

さらに、孤独を感じている人の67%が、「意味のあるグループの一員だと感じられない」と回答している。

つまり、孤独は単に「話し相手がいない」という問題だけではない。自分が自然に属していると感じられる場所やコミュニティが存在するかどうかも関係している。

人と人を「つなぐ」手段は増えた。いま不足しているのは、「友達をつくろう」と意識しなくても、何度も顔を合わせるうちに自然と関係が育っていく環境なのかもしれない。

そこで改めて注目されているのが、「サードスペース」と呼ばれる第三の居場所だ。

いま注目される「サードスペース」とは

サードスペースは、決して新しく生まれた概念ではない。

アメリカの経済メディアForbesは、社会学者のRay Oldenburg(レイ・オルデンバーグ)氏が提唱した、自宅でも職場でもない、人々が気軽に集まれる「第三の居場所」という考え方を「サードスペース」として紹介している。カフェや理髪店、街角のバーなど、地域の人たちが自然に顔を合わせてきた場所がその代表例だ。

サードスペースの特徴は、単に「自宅と職場以外の場所」であることだけではない。

何度も訪れることができ、顔見知りができ、そこにいること自体に大きな目的を必要としない。サードスペースには、人間関係を「つくろう」としなくても、繰り返し同じ空間を共有するうちに関係が生まれていくという特徴がある。

そして今、以前からあるサードスペースの概念が、新たな形で注目されている。

現代のサードスペースは、必ずしもカフェや公園のような固定された「場所」とは限らない。定期的に同じ活動をするコミュニティそのものが、サードスペースの役割を果たし始めているのである。

「人とのつながり方」が変わっている

その象徴が、近年急速に存在感を高めているランニングクラブだ。

Forbesが紹介するフィットネスアプリ「Strava(ストラバ)」のデータでは、Strava上のランニングクラブへの参加が59%増加し、フィットネスグループに参加した回答者の58%が、そこで新しい友人ができたと答えている。

ランニングクラブが興味深いのは、「友達をつくること」そのものを目的にしなくていい点だ。そこにいる人たちは、まずランニングのために集まっている。同じコースを走り、休憩し、終わったあとにコーヒーを飲む。その過程で自然に会話が生まれる。

「初対面の人と何を話そう」と考え続ける必要もない。共通の活動が、会話のきっかけになるからだ。

同じ変化は、ウェルネスの世界にも見られる。サウナや冷水浴などを提供するウェルネス施設「Othership(アザーシップ)」は、ガイド付きのサウナセッションや冷水浴(コールドプランジ)に加え、人々が交流できる共用スペースを設けている。ウェルネス体験だけでなく、人とのつながりを生み出す環境そのものをサービスの一部としているのだ。

ここから見えてくるのは、人とのつながり方の変化だ。会話や交流そのものを目的に集まるのではなく、ランニングやウェルネスなど、共通の活動を通じて自然に交流が生まれる。何かを一緒にすることが、人とつながるきっかけの一つになっている。

「居場所」そのものが、新しいサービスになる

そして、この変化は新しいビジネスにもつながり始めている。

Forbesの記事では、ウェルネスだけでなく、音楽やカルチャーの領域にもサードスペース的な発想が広がっていることが紹介されている。

アーティストのPrincess Nokia(プリンセス・ノキア)氏は、一般的なリスニングパーティーではなく、参加者が一緒にコラージュ作品をつくりながら新曲を聴くイベントを開催した。「音楽を聴く」だけではなく、同じ空間で体験を共有する理由をつくったのである。

こうした事例からは、企業やブランドが提供できる価値の広がりも見えてくる。

サードスペースという視点に立てば、商品やコンテンツそのものだけでなく、人が集まり、同じ体験を共有し、交流できる「場」も価値の一つになり得る。

「ここに来れば誰かがいる」「また来れば、知っている顔が増えていく」という感覚そのものが、サービスの価値になり得るのだ。Forbesも、コミュニティが継続的な関係を生むためには、単発のイベントとして演出するのではなく、「また戻ってくる理由」として設計することが重要だと指摘している。

商品を売るだけではなく、人が繰り返し訪れたくなる場所をつくる。これからの店舗や対面型サービスにとって、「コミュニティをどう設計するか」は、ますます重要なテーマになっていきそうだ。

SNSの次に必要なのは、「行けば誰かがいる場所」なのかもしれない

SNSやマッチングアプリの普及によって、人と出会い、つながる手段は増えた。一方で、調査結果が示すように、孤独やコミュニティへの帰属意識をめぐる課題は残っている。そこには、人と「つながること」と継続的な「関係を築くこと」の違いがあるのかもしれない。

人間関係は、一度マッチングすれば完成するものではない。同じ場所で何度も顔を合わせ、挨拶をし、少しずつ会話が増えていく。その時間の積み重ねによって、「知らない人」が「知っている人」になっていく。

だからこそ、これから必要なのは、さらに効率よく人と人をマッチングするサービスだけではないのかもしれない。

「特に約束をしなくても、行けば誰かがいる」。そんな場所を、社会の中でどのようにつくり直していくか。

Forbesは、これまでオンラインで「オーディエンス」をつくることに注力してきたブランドやアーティストが、これからは人々が実際に足を運びたくなる「場」をつくるようになる可能性を指摘している。

SNSによって人とつながることが簡単になった時代だからこそ、同じ場所で対面し、何度も顔を合わせることの価値が、再び高まっている。

友達を直接「つくる」サービスではなく、友達が自然に「できていく」環境をつくる。サードスペースの再評価が示しているのは、そんな人間関係の変化と、そこから生まれる新しいビジネスの可能性なのかもしれない。

文:中井 千尋(Livit)

Vote

    あなたの年齢を教えてください
    あなたの性別を教えてください
    あなたの年収を教えてください
    勤務先でのあなたの役職を教えてください
    勤務先の会社規模を教えてください
    1カ月あたりの自己投資額を教えてください
    起業経験や起業意向について教えてください
    資産運用について行っているものを教えてください(複数回答可)