2017年11月6日に東京・馬喰町にオープンしたカフェ「GATHERING TABLE PANTRY」。今ほどキャッシュレスという言葉が浸透していなかった時期に、完全キャッシュレスという先進的な取り組みを行ったことが注目を浴び、多くのメディアに紹介された。そのオープンから約1年半。キャッシュレスによってどのようなメリットがあったのかを聞いた。

次世代の店舗運営に向けた新たな取り組み

最初に「GATHERING TABLE PANTRY」について紹介しておこう。完全キャッシュレスという部分が注目を浴びたが、実は次世代を見据え、生産性向上と働き方改革を目指した研究開発店舗。

店長が接客やマネジメント、人材育成など、本来、力を入れたい業務に時間を割けるよう、最新テクノロジーを活用している。

完全キャッシュレスのカフェ「GATHERING TABLE PANTRY」。

店の前にはキャッシュレスであることと、支払い方法を明示。

「少子高齢化による労働人口の減少や、従業員の働き方改革と言う意味合いもあって、GATHERING TABLE PANTRYでは次の3つの取り組みを行っています」と、ロイヤルホストなど、ロイヤルグループを率いるロイヤルホールディングスの名倉氏。

ロイヤルホールディングス イノベーション創造部 課長 名倉祐爾(ゆうじ)氏。

その3つの取り組みというのが以下だ。

1.IT活用による店長業務の効率化
2.キッチンオペレーション改革
3.設備のコンパクト化

ロイヤルグループの既存店では、「店長業務の負担が大きく、人材育成の時間が取れない」などの課題があった。その課題に対応するため、「GATHERING TABLE PANTRY」ではITを活用して、お客さんがタブレットを使ってオーダーを行うセルフオーダーを採用。

店に入るとスタッフがキャッシュレス店舗であることを説明し、それぞれにタブレットを用意。画面をタッチ操作しながらメニューを見て、お客さん自身がオーダーする。

タブレットでメニューを見ながらオーダーする。

メニューが決まったらタップしてオーダー。

お客さんがオーダーすると、キッチンのタブレットに注文した内容が表示される。

オーダーしたメニューが届かない内は、お客さんのタブレットのステイタスが「調理未」に。

メニューが出されると、ステイタスが「配膳済」に変わる。「Check」を押すと決済できる。

キッチンのオペレーションも通常の店舗とは異なる。ロイヤルグループのセントラルキッチンで作った料理を最新の調理機器で再現できるよう、何度で何分、どのような方法で調理しているか、シェフの技術を緻密にデータ化。マイクロウェーブコンベクションオーブンなどの調理機器に登録された番号を押すことで、誰でもシェフが加熱調理した料理を再現できるようにした。

通常の飲食店舗では店全体の面積に対して、キッチンなどのバックヤードに4割程度のスペースが必要になるが、「GATHERING TABLE PANTRY」では厨房設備を軽量化。現金を持たないので、金庫のスペースも必要ない。ペーパーレスで多くの書類をデータ化しているので、店舗面積の36坪に対してバックヤードが約10坪(内キッチンが5坪)と、極力、省スペースにできていると言う。

奥がキッチンスペース。店舗面積に比べて省スペースにできる。


キッチンにはコンロがなく、最新調理機器が並ぶ。

キャッシュレス化のメリットとは?

「機械に置き換えられる部分と、人がやるべき部分を整理して、店長業務を効率化した結果、事務作業が減り、接客やマネジメントなど、本当に店長にやって欲しい業務の時間を増やすことができました」と名倉氏。

ロイヤルグループの他店と「GATHERING TABLE PANTRY」との業務時間の比較

業務が終わった後のレジ締め作業に通常は40分(店全体の現金にまつわる管理は1時間~1時間半)かかるそうだが、「GATHERING TABLE PANTRY」ではお金のやり取りがないので、売り上げとレジのお金を合わせる必要がない。

「金額が合わないと、どこで間違えたのかを追求しなければいけません。でもキャッシュレスだとお金のやり取りが記録でき、お釣りを渡し間違えるといったミスがありません。そういったレジ締めや売り上げ管理に加え、釣り銭の用意や銀行への入金などの作業が不要なためこの店では業務を効率化できています。店舗の現金管理には精神的なストレスがかかります。しかも店長など限られた人しかできない業務ならなおのこと。人を限定する業務をシステムに置き換えることができると、働き方にも大きく影響します」とキャッシュレスのメリットを語る。

レジ締め作業がなく、フライパンや鍋の洗い物がなく、フロアの掃除もロボット掃除機で行う同店。そういったことから営業終了後、15分程度でスタッフ全員が帰ることができているそう。

「GATHERING TABLE PANTRY」の新しい試みで蓄積された情報は、ロイヤルグループの他の店舗にも展開。ロボット掃除機はロイヤルホストの全店で利用され、レジもお客さんにお金を入れてもらうスタイルに変更した。

全店舗でレジのシステムを入れ替えた。

「ロイヤルホストでは80%のお客様が現金で、20%がクレジットカード決済という割合です。完全キャッシュレスにすることはできませんが、従業員が現金に触れないことで衛生面に配慮し、現金管理や事務の時間を減らせるようにしました。商業施設に入っている店舗以外のほぼ全ての店舗に導入しています」

QR決済にも対応しセルフでの決済も実現

オープン当初の支払い方法はクレジットカードと電子マネーだけだったが、2018年5月からはQR決済にも対応。支払い方法でQR決済を選ぶとカメラが立ち上がり、お客さんが提示したQRコードを読み取りする。

クレジットカードや電子マネーを選ぶとスタッフが端末を持ってテーブルを訪れ、操作するのに対して、QR決済はセルフで操作できるので実にスムーズ。お客さんのタブレットとスタッフのApple Watchが連携しているので、お客さんがセルフで決済操作を行っていても、スタッフはその操作や完了をちゃんと把握できる。

お客さん側のタブレットの決済画面。複数のQR決済に対応。

タブレットでお客さん側のQRコードを読み取ることでセルフ決済できる。

スタッフのApple Watch。振動で決済操作の経過を伝える。

「18年5月はQRが4%、クレカ57%、電子マネー39%という割合でしたが、 19年6月ではQRが24%、クレカ41%,電子マネー35%と、QRコード決済が増えています」と名倉氏。

QR決済は無料で送金できることから、「パーティ予約時にQR決済で先に予約金を入金してもらうなどすれば、当日、無断キャンセルするという問題にも対応できるかもしれません」と、QR決済の可能性を語る。

しかしその一方で、手数料の問題もある。「外食産業は利益率が低いので、各サービスの決済手数料を払っていたら、利益が少なくなってしまいます。また振り込まれるまでのスパンが長いと、経営的に厳しい部分もあるのではないでしょうか」と、キャッシュレスの課題について言及する。

「GATHERING TABLE PANTRY」の売り上げはオープン時より1.5倍に増加。キャッシュレスのメリットは多いが、だからといって、完全キャッシュレスのお店を何店舗も作るという段階ではない。「社会が少しずつ変わり、現金を利用する割合が少なくなっていくことが大事。そのためにもキャッシュレスを体験して、その便利さを感じてもらうことが大切なんだと思います」

取材・文:綿谷禎子