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ユニクロ・Levi’sが「服を買わない方法」を教える理由──“売って終わり”ではない小売の新潮流

服を売る会社が、「新しい服を買わない」ための方法を顧客に教え始めている。

2026年7月、アメリカ・サンフランシスコのLevi’s店舗に集まった高校生たちが手にしていたのは、新作のジーンズではなく針と糸だった。90分のワークショップで、ボタン付けや裾上げ、穴の補修、破れの修繕を学んでいた。

一見すると奇妙な光景である。アパレル企業は、新品の服を売ることで成長してきた。その企業が、手持ちの服を長く使う方法を顧客に教えているからだ。

しかし、これはLevi’sだけの試みではない。ユニクロ、Primark、Zaraなども修理やリメイク、縫製ワークショップを店舗やサービスに組み込み始めている。

アメリカのAP通信が報じたこうした動きから見えてくるのは、単なる環境施策ではない。「新品の服を売る場所」だった店舗を、「手持ちの服を持ち込む場所」へ変える、小売ビジネスの変化である。

Levi’sが高校生に「服の直し方」を教える理由

Levi’sを展開するLevi Strauss & Co.が2026年1月に始めたのが「Levi’s Wear Longer Project」である。高校生などの若者を対象に、衣服の修理やカスタマイズ方法を学ぶ機会を提供するプロジェクトだ。

プロジェクト開始の背景には、服を長く着たいという意識がある一方で、修理する技術を持たない若者が多いという実態がある。

Levi Strauss & Co.が2025年にアメリカで実施した調査では、Z世代の35%が「修理やカスタマイズの方法を知っていれば服をより長く着る」と回答した。一方、41%は穴の補修やボタン付けといった基本的な修理・カスタマイズの技術を持っておらず、その割合は上の世代の約2倍だったという。

そこでLevi Strauss & Co.は、Discovery Educationと提携し、高校生らを対象に無料教材や店舗ワークショップの展開を開始。このワークショップの狙いは、服を買う人自身が購入後のメンテナンスまで担えるようにすることだ。

ただし、Z世代が環境への配慮だけを理由に、服を修理しているわけではない。AP通信の取材に対し、イギリスの市場調査会社GlobalDataの小売アナリストNeil Saunders(ニール・サンダース)氏は、若者は手頃な価格を理由にファストファッションを利用する一方で、リセール品を購入したり、手持ちの服を修理したりするなど、さまざまな選択肢を使い分けていると指摘する。

「新品か中古か、消費か環境配慮か」という二者択一ではない。節約・古着・DIY・自己表現・環境への配慮という価値観を併せ持つ消費者に、「修理」という体験がフィットしているのである。

ユニクロ・Primark・Zaraも「販売後のサービス」へ

日本企業では、ユニクロが2022年から「RE.UNIQLO STUDIO」を展開している。

このサービスでは、顧客が持ち込んだユニクロの商品を対象に、穴やほつれを500円から修理するほか、約100種類から選べる刺繍を700円から、日本の伝統技法「刺し子」を使ったリメイクを1,000円から提供している。2025年4月時点で世界22の国と地域、58店舗に広がり、日本国内では16店舗に設置されていた。

特徴は、単に服を元通りにするだけではない点だ。刺繍や刺し子を加えれば、着古した服を「自分だけの一着」に変えられる。修理とカスタマイズを組み合わせ、アフターケア自体を体験に変えているのである。

より象徴的なのが、アイルランド発の衣料品大手Primarkだ。同社の「Love It For Longer」では、顧客自身がボタンやファスナーの交換などを学ぶ。AP通信によれば、こうしたワークショップを9カ国で730回以上開催しているという。2026年にはイギリスに展開する3店舗で、服を預かって修理するサービスも試験導入した。

Zaraも「Zara Pre-Owned」で購入後の領域に踏み込む。アメリカではボタン交換3.5ドル、ファスナー交換20ドル、小さな穴や破れの補修12ドルなど、具体的な修理メニューを設定している。さらに中古品の再販などにもサービス領域を広げている。

新品を売るだけでなく、修理し、中古品として再販する。アパレル企業は、購入後も1着の服に長く関わるようになっている。

「古い商品」が新しい来店理由になる

1着の服を長持ちさせれば新商品の販売機会が減るにもかかわらず、なぜアパレル企業は修理サービスに取り組むのか。

その1つの答えが、「顧客接点」である。従来の小売企業は、顧客を再び店舗へ呼ぶために新作を投入し、コレクションを入れ替え、セールを開催してきた。いわば「新商品」が再来店の理由になるモデルである。

修理サービスは、この構造を反転させる。数年前に買ったジーンズを直すためにLevi’sへ行く。穴の開いた服をユニクロへ持ち込む。Zaraで買った服のファスナーを交換する。「古い商品」が「来店理由」になるのだ。

しかも、修理では「どこをどう直すか」「どんな刺繍を入れるか」といった会話が発生する。通常の買い物とは異なるブランド体験を設計できる。サンダース氏はAP通信に、こうしたサービスがブランドイメージにもプラスに働くとの見方を示している。

短期的な販売数量だけを見れば、修理は「新品を売らないサービス」である。しかし顧客生涯価値(Customer Lifetime Value:CLV)という視点に立てば意味が変わる。1回の購買額ではなく、購入後を含めて顧客との関係をどれだけ長く設計できるか。修理サービスはそのための新たな接点になり得る。

「新品のほうが安い」というビジネスモデルの高い壁

もっとも、「修理=サステナブル」と単純に評価することはできない。

循環型経済の普及を推進するイギリスの非営利団体Ellen MacArthur Foundationによると、世界の衣料品生産量は200020年から15年に約2倍となった一方、1着あたりの着用回数は36%減少した。

Ellen MacArthur Foundationは同時に、リセール、レンタル、修理、リメイクといった循環型ビジネスモデルが、2030年までに7,000億ドル規模となり、世界のファッション市場の23%を占める可能性があると試算している。現在とは異なるビジネスモデルが成立する余地は大きい。

ただし、ここには経済合理性という難題がある。修理は人の手を必要とする一方、新品の衣料品はグローバルな大量生産によって極端に低コスト化されている。「古い服を直すより、新品を作るほうが安い」という構造をどう逆転させるかが、修理サービスを一部店舗の実験から産業へ成長させる鍵となる。

さらに、修理工程を従来型の大量生産モデルに付け足すだけでは、環境効果も限定される。Ellen MacArthur Foundationも、循環型サービスが従来モデルへの単なる「追加策」にとどまるだけでは、必ずしも環境負荷削減につながらないと指摘している。

サステナビリティが「メッセージ」から「サービス」へ

それでも、今回紹介した潮流は見逃せない変化を示唆している。これまで企業のサステナビリティ施策は、再生素材の活用やCO2排出量の削減、包装材の見直しなど、企業側の取り組みが中心だった。消費者から見れば「環境に配慮しています」という企業メッセージとして受け取るものでもあった。

一方、修理サービスでは、顧客自身が取り組みに参加する。破れた服を店舗に持ち込んで修理してもらったり、自ら修理方法を学んだりすることで、服を長く使うことにつながる。

同時に企業にとっては、「売った後」に顧客との関係を続ける仕組みでもある。服を売って終わるのではなく、修理やカスタマイズ、再販まで手がける。こうしたサービスを提供することで、ブランドは販売後も顧客との接点を持つことができる。

これからの小売業では、「何着売ったか」だけでなく、販売後も顧客との接点をどうつくるかが重要になるかもしれない。

修理やカスタマイズ、再販といったサービスが広がる背景には、環境への配慮だけでなく、販売後も顧客との接点をつくろうとするアパレル企業の狙いがある。「新品を売って終わり」だった小売のあり方が、変わり始めている。

文:岡 徳之(Livit)

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