“100枚作って1枚当たれば勝ち” 「AIゴミ投稿」が変えるSNS、企業に問われる信頼
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SNSを開くと、筋肉隆々の消防士が子猫を救う画像、指が6本ある赤ちゃんの感動写真、実在しない高齢職人の成功物語、歴史上の人物が現代の街を歩く動画が次々と流れてくる。
最近では、イエス・キリストがエビの姿で描かれた「Shrimp Jesus(エビのイエス)」や、ガラス細工のような果物、巨大な犬と暮らす少女など、現実には存在しないAI画像がFacebookで何百万回もシェアされ、大きな話題となった。
こうしたコンテンツは、海外で「AI Slop(AIスロップ)」と呼ばれている。直訳すれば「AIが生み出す粗悪品」という意味だ。日本でも「AIゴミ投稿」という表現が使われ始めている。
生成AIの進化によって、画像も動画も文章も数分で大量生産できるようになった結果、インターネットは「情報不足」の時代から、低品質なコンテンツがあふれる時代へ移行しつつある。
AIゴミ投稿の影響は、ネットカルチャーの領域にとどまらない。企業のマーケティング、ブランディング、オウンドメディア運営、採用活動など、ビジネスにおける情報発信の前提そのものを変える可能性がある。
AIゴミ投稿とは何か
AIゴミ投稿とは、生成AIによって大量に作られた価値の乏しいコンテンツを指す言葉である。イギリスのReuters Institute for the Study of Journalism(ロイター・ジャーナリズム研究所)は、「十分な編集や事実確認を経ないまま公開されるAIコンテンツが急速に増えている現象」として紹介している。
AIゴミ投稿を考えるうえで重要なのは、AIを使用しているかどうかではない。問題は、AIでコンテンツを大量生産され、そこに人間による編集や検証、独自の価値がほとんど加えられていない点にある。
代表的な例としては、「余命宣告された犬が最後に飼い主へ残した言葉」といった架空の感動ストーリー、「この植物を食べると寿命が20年延びる」といった根拠のない健康情報、AIが生成した美女や赤ちゃんの画像に人生訓を添えただけの投稿、実在しない事件や歴史を紹介するショート動画などが挙げられる。
AI音声で著名人になりすました投資アドバイスや、ニュース映像のように見える偽動画も増えている。
これらのコンテンツは、一見すると事実であるかのような印象を与える。しかし、人物の指の数や背景に不自然な点が見られるほか、引用元そのものが存在しないケースもある。
それでも、人間の感情や好奇心を刺激するよう設計されているため、多くの「いいね」やコメント、シェアを獲得している。
「エビのイエス」はなぜ拡散したのか
AIゴミ投稿を象徴する事例として世界的に知られるのが、「Shrimp Jesus(エビのイエス)」である。

(画像:Facebook/Know Your Meme)
2025年ごろからFacebookでは、イエス・キリストがエビやカニの姿で描かれたAI画像が大量に投稿され始めた。宗教的な意味はほとんどなく、芸術作品でもない。目的はただ1つ、ユーザーの反応を集めることだった。
こうしたAI画像に対し、「Amen(アーメン)」とコメントしたり、友人にシェアしたりする利用者が相次ぎ、一部の投稿は数百万件規模の反応を獲得した。さらに、花で作られたライオンや木製の飛行機、ガラス細工のような動物など、同様のAI生成画像が大量に投稿された。
スタンフォード大学の研究者らは、このようなAI画像を投稿するFacebookページが100以上存在し、合計で数億件規模のエンゲージメントを集めていたと報告している。
こうした画像が拡散した背景には、その奇抜さや面白さだけでなく、AIによるコンテンツの大量生産がある。AIによって制作コストが限りなくゼロに近づいたことで、「100枚作って1枚当たれば勝ち」というビジネスモデルが成立してしまったのである。
なぜAIゴミ投稿は急増しているのか
背景には、生成AIの急速な進化とSNSアルゴリズムの組み合わせがある。ChatGPTが公開された2022年末以降、画像生成AI、動画生成AI、音声生成AIが次々と登場し、個人でも画像や動画、音声など数百点のコンテンツを短時間で制作できるようになった。
SNSでは、投稿者ではなく投稿ごとの反応を評価するアルゴリズムが主流である。そのため、大量に投稿すればするほど、どれか1つがアルゴリズムによって多くのユーザーに閲覧され、拡散される可能性が高まる。質よりも試行回数が成果を左右する構造が生まれたのである。
ニュースサイトなどの信頼性を評価するアメリカの企業NewsGuardでAIサイトの調査を担当するMcKenzie Sadeghi(マッケンジー・サデギ)氏は、Reuters Instituteの取材に対し、AIが生成した記事の中には、ChatGPTのエラーメッセージまでそのまま掲載されているケースが見つかったと語っている。
人間が内容を確認せず、そのまま公開されている例は決して珍しくないという。この現象は、一部の悪質なアカウントだけの問題ではない。
広告収益、アフィリエイト、フォロワー数など、「量」が利益につながるあらゆる分野で起き始めている。そして、その影響は企業の情報発信のあり方にも確実に及び始めている。
AIゴミ投稿が企業のマーケティングを変える
AIゴミ投稿の増加によって、企業の情報発信を取り巻く環境も変化している。なかでも大きいのが、「情報を発信すること」そのものの価値の低下だ。
これまで企業は、ブログ記事を書き、SNSへ投稿し、検索流入を増やすことで認知を獲得してきた。しかし生成AIによって、同じような記事や画像、動画が無数に作られるようになった。ユーザーは毎日、膨大なコンテンツにさらされている。その中で、ありきたりな情報は簡単に埋もれてしまう。
アメリカの調査会社Gartnerは2025年、「従来型検索エンジンの利用は2026年までに25%減少する」と予測した。生成AIやAI検索の普及によって、企業の検索流入やコンテンツ戦略そのものが見直しを迫られるとしている。
検索サービスを運営する企業も対応を急いでいる。Googleは2024年3月のコアアップデートで、検索結果に表示される「役に立たないコンテンツ」を40%削減できる見込みだと発表した。その後の改善によって、当初の想定を上回る成果が出たとしている。
Googleが問題視しているのは、AIそのものではなく、AIによって大量生産された低品質コンテンツであり、「人の役に立つ独自性」があるかどうかを重視する姿勢を一貫して示している。
「人間が書いた」ではなく、「人間しか書けない」が価値になる
重要なのは、AIを使うか否かではなく、AIを活用しながら、そこに独自の価値を加えられるかどうかである。AIだけでは生み出せない情報を発信することが、企業の競争力につながっていく。
例えば、企業が実施した実験や顧客へのインタビュー、現場で撮影した写真、失敗談、担当者の考察、一次データなどは、生成AIだけでは生み出せない。
Googleも検索結果の品質を評価する考え方として「Experience(経験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」、いわゆる「E-E-A-T」を重視している。
つまり、「誰でも書ける内容」を大量生産するほど差別化は難しくなる。一方で、現場を知る人しか書けない情報の価値は、むしろ高まっていく可能性がある。
これはSNSでも同様だ。展示会で実際に見たこと、顧客との会話から得た気づき、自社で試した施策の成功と失敗。こうした一次情報は他社が容易に生み出せるものではなく、AIも簡単には再現できない。
量産競争から「信頼競争」へ
AIゴミ投稿が増えるほど、ユーザーは「この情報は本当に信用できるのか」を以前より強く意識するようになる。
Reuters Instituteは、AIによるコンテンツの大量生成が進むほど、信頼できるブランドやメディアの役割が重要になる可能性を指摘している。
情報の信頼性が重視される傾向は、企業の情報発信にも及ぶ。SNSのフォロワー数や投稿本数だけでなく、「この企業の発信には信頼できる情報がある」「この担当者の意見には耳を傾ける価値がある」と認識されることが、企業やブランドへの信頼につながる。
AIの普及によってコンテンツ制作コストは劇的に下がった。しかし、信頼を築くコストは下がっていない。むしろ、低品質な情報があふれる時代だからこそ、誠実さや透明性、一貫した発信姿勢は以前より重要になっている。
AIゴミ投稿がSNSを埋め尽くす時代は、情報発信の終わりではない。むしろ、人間ならではの経験や一次情報が、これまで以上に価値を持つ時代の始まりなのかもしれない。
文:岡 徳之(Livit)