「地球のため」では続かない? 気候変動時代に見直したい、今日からできる「旬を食べる」という選択
INDEX
「気候変動は気になる。でも、自分に何ができるのだろう」
そんな感覚を抱いたことはないだろうか。マイボトルを持ち歩く、プラスチック製品の使用を減らす、節電を心がけるなど環境のためにできることはいくつもある。しかし、「自分一人が行動しても意味があるのだろうか」と感じると、なかなか続かない。
環境問題は規模が大きく、個人の日常的な行動とのつながりを実感しにくい側面がある。そうした中、世界経済フォーラム(WEF)は気候変動への適応策の一つとして「旬の食材を食べる」という視点を提案している。
この視点は、「もっと環境のために頑張ろう」という話ではない。気候変動によって社会そのものが変わり始めるなかで、私たちが「豊かさ」や「便利さ」をどう捉えるのか、その価値観を見直す話なのである。
気候変動時代は、「効率」より「レジリエンス」が求められる
これまで私たちは、「効率の良い社会」を追い求めてきた。世界中から食材を運び、一年中好きなものを食べられる。必要なものが、必要な時に、必要な場所へ届く。こうした便利さは、現代社会における「豊かさ」の1つとして捉えられてきた。
しかし、その前提は少しずつ揺らぎ始めている。干ばつや洪水、異常気象による不作、物流の混乱など、気候変動は、1つの農場や1つの国だけの問題ではなく、世界の食料システム全体に影響を与え始めている。
そこでWEFが注目するのが、「レジリエンス(変化に適応しながら、社会や暮らしを維持する力)」という考え方だ。
食料システムにおいても、効率性だけを追求するのではなく、気候や環境の変化に適応しながら、安定的な供給を維持できる仕組みが求められている。
そして、そのヒントとして挙げられているのが、「旬の食材を食べること」である。
食文化は、環境に適応するための“知識システム”だった
WEFは、食文化を単なる伝統ではなく、「その土地や季節とどう付き合ってきたかを受け継ぐ知恵」として捉えている。
世界各地の食文化には、その土地や季節に応じた食材の選択や保存、調理など、地域の環境に適応するための知識が蓄積されてきた。こうした知識は、世代を超えて受け継がれ、地域ごとの食文化を形成してきた。
つまり、旬を食べることは、単に「季節感を楽しむ」だけではなかった。その土地の気候や土壌、農作物の多様性に合わせて暮らすための知恵でもあった。
一方で、冷蔵技術や物流の発達によって、私たちは季節を問わず多くの食材を手に入れられるようになった。しかし同時に、「その土地、その季節に合わせて食べる」という知識や多様な食材を活用する文化に触れる機会は減少している。
気候変動によって食料供給の不安定化が懸念されるなか、食材や生産地域の「多様性」が重要になる。特定の作物や産地だけに依存すれば、そこで不作や災害が起きたとき、影響は大きくなる。反対に、地域ごとに多様な作物が育ち、季節に応じて食べる文化が残っていれば、変化に対応できる余地が生まれる。
つまり、食の季節性は多様性を支え、多様性はレジリエンスを支える。WEFの記事が示しているのは、そうしたつながりである。
日本の「旬」は、未来の知恵になる
この話は、日本の食文化とも重なる。春のたけのこ、夏の枝豆、秋のきのこ、冬の大根など、日本では古くから季節ごとの食材を楽しむ「旬」の文化が根付いてきた。
それは単に「旬の食材はおいしいから」というだけではない。見方を変えれば、「そのときにある食材を受け入れ、暮らしを組み立てる」という知恵でもあった。
もちろん、現代の食料システムは昔とは違う。スーパーには一年中さまざまな食材が並び、輸入品や加工品も日常に欠かせない。とはいえ、現代において、かつての食生活に全面的に戻ることは現実的ではない。
それでも、「一年中同じ食材を求める」のではなく、「季節に合わせて食べる」という感覚は、気候変動時代に新しい意味を持ち始めている。
それは、自然に従うというより、変化を前提に暮らしを組み立てる考え方である。手に入らないものを無理に求め続けるのではなく、そのときどきにあるものを楽しむ。そうした柔軟さは、これからの時代の豊かさになるのかもしれない。
サステナビリティは、「我慢」では続かない
環境に配慮した行動を継続するためには、負担を抑えながら日常生活に取り入れられることも重要となる。過度な我慢や制約を伴う取り組みは、長期的な継続が難しくなる可能性がある。
だからこそ、これからのサステナビリティには、「正しいこと」だけではなく、「続けられること」という視点が必要になる。
旬の食材を生活に取り入れることも、その1つだ。旬の食材は、味や価格、季節感といった身近な理由から日常生活に取り入れやすく、その選択が結果として地域の農業や食料の多様性を支えることにもつながる。
環境への配慮だけを目的とするのではなく、日々の食生活に無理なく取り入れられることが、持続的な行動につながる。こうした身近な選択を継続することも、サステナビリティを実践する1つの方法といえる。
サステナビリティとは、特別な誰かだけが実践するものではない。日々の暮らしのなかで、誰もが無理なく続けられる選択を増やしていくことでもある。
未来を変えるのは、今日の食卓かもしれない
気候変動への対応は、環境負荷の低減だけでなく、変化する環境に適応しながら暮らしや社会を維持する「レジリエンス」の観点からも捉える必要がある。WEFが示す「旬の食材を食べる」という選択も、その1つといえる。
これからは、「効率が良いこと」だけではなく、「変化に適応できること」が社会の強さになっていく。その変化は、エネルギーや産業だけでなく、私たちの食卓にも及んでいる。
日々の食生活に旬の食材を取り入れ、季節に応じた食を選択することは、個人が実践できる身近な取り組みの1つだ。こうした選択だけで気候変動そのものを解決できるわけではないが、変化し続ける時代のなかで、自分たちの暮らしを少しずつしなやかにしていくことにつながる。
私たちはこれまで、季節を問わず、必要なものをいつでも手に入れられることを「豊かさ」の1つとして捉えてきた。しかしこれからは、「変化に合わせながら暮らせること」が、新しい豊かさになるのかもしれない。
旬の食材を食べることは、地球を救うための自己犠牲ではない。変化を前提とする時代を、自分らしく、無理なく生きるための小さなレジリエンスである。
未来を変える行動は、必ずしも壮大である必要はない。今日の食卓で、その季節ならではの恵みを味わうこと。そんな日々の積み重ねが、変化に強い社会と、新しい豊かさを育てていくのかもしれない。
文:中井 千尋(Livit)