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「良い会社」と「良い投資」は違う? SpaceX上場からZ世代が学ぶべき投資の視点とは

ロケット開発企業のSpaceXが上場し、日本でも「買うべきか」という問いが一気に現実味を帯びた。ロケット、Starlink、AI、火星など、これほど物語性のある企業は少ない。

しかし、海外のプロ投資家の議論を追うと、熱狂だけではない冷静な論点が見えてくる。彼らが見ているのは「SpaceXは成長性の高い企業か」ではない。「その成長性に対して、今の株価は妥当なのか」である。

SpaceXは「ロケット開発企業」ではなくなった

SpaceXは2026年6月11日、1株135ドルで5億5,555万5,555株を売り出すIPO価格を発表した

翌6月12日からNasdaqで「SPCX」として取引が始まり、Goldman Sachs、Morgan Stanley、BofA Securities、Citigroup、J.P. Morganなどが主幹事団に名を連ねた。調達規模は約750億ドルとなり、近年の大型IPOのなかでも異例の大きさである。

ただし、現在のSpaceXを単なるロケット開発企業と見ると、本質を見誤る。投資家から特に注目を集めているのが人工衛星を活用した高速インターネットサービス「Starlink」である。

アメリカの投資調査会社MorningstarはSpaceX IPO分析で、Starlink事業がSpaceXの過去3年間の成長と収益性の大部分を担い、当面は同社の「金融エンジン」になると指摘している。ロケット開発事業は参入障壁を築き、Starlinkが収益を生む。さらにStarship、直接通信、軌道上AIデータセンターといった将来の事業展開への期待が株価に織り込まれている。

この構造は、AmazonがEC企業からクラウド企業へ変わった過程に似ている。投資家がAmazon Web Services(AWS)の利益率を見抜けたかどうかでリターンが大きく変わったように、SpaceXでも「ロケット開発事業」ではなく「通信インフラ事業」と「AIインフラ事業」をどう評価するかが問われている。

ARKは「買い」、Morningstarは「待て」と言う

SpaceX株への投資に積極的な投資家の代表格はCathie Wood(キャシー・ウッド)氏率いるARK Investである。

アメリカのビジネスメディアBusiness Insiderは、SpaceX株がIPO後に下落した局面で、ARKが3,200万ドル超を買い増したと報じた。株価は一時、IPO後の高値から28%超下落したが、ARKはその下落を長期投資の好機と見た。

一方、Morningstarはかなり慎重だ。MorningstarはSpaceXの公正価値を1株63ドル、企業価値7,800億ドルと試算し、IPO価格の135ドルを大きく下回ると評価した。理由は、SpaceXの評価が「すでにMoonshot(野心的な成長)シナリオの高い実現確率」を織り込んでいるからだ。

Morningstarは、現在のSpaceXの評価には、まだ未証明の技術への期待も含まれていると指摘する。具体的には、Starshipの上段を短期間で再利用する技術や、宇宙空間にAIデータセンターを構築して収益化する構想などだ。

ここが重要である。ARKもMorningstarも、SpaceXが凡庸な会社だとは判断していない。むしろ、両者ともSpaceXの成長性を評価している。異なるのは、その成長期待を踏まえた現在の株価を妥当とみるかどうかである。

株価は夢だけでなく需給でも動く

上場直後のSpaceX株は大きく揺れた。アメリカの金融情報メディアInvestopediaは、SpaceX株が取引開始後に226ドルを上回る場面があった一方、150ドルを下回る局面もあったと報じている。また、NasdaqはSpaceXを2026年7月7日から「Nasdaq-100」に採用すると発表した。これはQQQなどの指数連動ファンドからの買い需要を生む。

しかし、指数採用は企業価値そのものを変えるわけではない。上場直後の株価は、事業の評価だけでなく、浮動株の少なさ、個人投資家の熱狂、指数組み入れ、ロックアップ解除の時期によって大きく動く。

アメリカの投資・金融専門メディアBarron’sは、SpaceX株が6月16日の終値高値から24%下落したと報じた。Business Insiderも、公開株式は全体の約4.3%にとどまり、今後ロックアップ解除で売却可能株式が増える可能性に触れている。

この点は日本のビジネスパーソンにとって特に重要だ。SNSでは「IPOで買えば勝てる」「話題株は早く乗るべき」といった空気が生まれやすい。しかし、IPO直後の株価は企業の実力だけでなく、需給イベントで上下する。

SpaceX株への投資を判断する際には、同社の将来性だけでなく、大幅な株価変動を許容できるかどうかも考える必要がある。

プロが見ているのは「良い会社」ではなく「良い投資」

投資の世界には、「良い会社」と「良い投資」は違うという考え方がある。SpaceXはまさにその教材である。

たとえば、Starlinkが世界の通信インフラになるという物語は魅力的だ。現在の地上通信網が届かない地域、航空機、船舶、軍事、災害対応、スマートフォンへの直接通信など、用途は広い。

Morningstarも、Starlinkが今後もSpaceXの収益の柱になるとみている。一方で、SpaceXが掲げるStarlinkの1.6兆ドル規模の市場機会については楽観的すぎる可能性があると指摘している。

つまり、論点は「成長するか」ではなく、「どのくらい成長すれば今の株価を正当化できるか」である。仮に企業価値が2兆ドル前後であるなら、投資家はすでに相当な成功を織り込んでいる。

ここから株価がさらに大きく上がるには、Starlinkの加入者数・ARPU(1契約者当たりの平均売上高)・営業利益率・Starshipの再利用性・AI事業の収益化が、かなり高い水準で実現する必要がある。

これはNVIDIAにもTeslaにも共通する。NVIDIAはAI半導体事業で圧倒的な成長を見せたが、株価が高くなるほど「期待を上回り続ける」必要がある。

TeslaもEV市場の拡大を先取りして評価されたが、競争激化や利益率低下で株価は大きく揺れた。SpaceXも同じである。企業への成長期待が高いほど、株価には将来の成長が先に織り込まれる。

日本のZ世代ビジネスパーソンは、この議論をどう受け止めるべきか

では、日本のZ世代のビジネスパーソンは、この議論をどう受け止めればよいのだろうか。投資に関して、日本では「買うべきか、見送るべきか」という二択で語られがちだ。しかし海外では、「どの価格なら買うか」「資産全体の中でどの程度の比率で保有するか」といった議論が中心になっている。

SpaceXを巡る海外の議論から学べることは、銘柄選びそのものではない。ARK Investは長期的な成長性を重視し、Morningstarは企業価値を重視する。どちらもSpaceXの事業を高く評価しながら、投資判断は異なる。

共通しているのは、「良い会社」と「良い投資」は必ずしも一致しないという考え方である。

日本でもSpaceX株を買うべきかという議論は今後も続くだろう。しかし、その答えを探す以上に重要なのは、自分は企業の成長性を重視する投資家なのか、それとも価格と価値のバランスを重視する投資家なのかを理解することではないだろうか。

SpaceXの上場は、その問いを私たちに投げかける格好のケーススタディである。海外のプロ投資家が何を根拠に判断しているのかを知ることは、SpaceX株への投資に限らず、企業の成長性と株価の妥当性を見極める視点を養うことにつながる。

文:岡 徳之(Livit

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