近年、映画館数の減少が続いている。一般社団法人コミュニティーシネマセンターの調査によると、1993年に1,400館以上あった映画館は、 2013年にはおよそ600館まで減少した。

映画館の閉鎖が続く一方、複数の上映館を備えたシネマコンプレックスは増加。日本映画製作者連盟の調査では、上映スクリーン数は2000年の2,524から2016年には3,472に上り、そのうちシネコンのスクリーン数は1,123から3,045と3倍に達した。

シネコンにはない価値を提供する「ミニシアター」の未来

シネコンが増加する裏で、それ以外の映画館は苦境に立たされている。近年はインディペンデント映画を中心に上映する「ミニシアター」の閉館も相次いだ。

2016年1月には『トレインスポッティング』や『アメリ』など熱狂的なブームの火付け役となった渋谷の「シネマライズ」が閉館している。

館数の減少に伴い、特定のミニシアターに作品が集中してしまう現象も起きている。前述の一般社団法人コミュニティーシネマセンターのレポートでは、一つの作品を上映できる回数が少なくなり、「映画を大切に育てたいと考える上映者にとっても、望ましくない状況」が続いているという。

苦しい状況が続く一方、新たな取り組みに積極的なミニシアターも存在する。先日、渋谷のミニシアター「アップリンク」は公開中の作品をストリーム視聴できるオンデマンドサービス「アップリンク・クラウド」の提供を開始した。

「東京での公開日に観たいと思っても近くに映画館がない方、忙しくてついつい見逃してしまう方」など、既存の業態ではリーチできなかった層に映画を届ける狙いだ。アップリンク・クラウドのTwitterアカウントには公開中の作品に関する情報が並んでいる。

日本未公開作品をいち早く届ける「Amazonビデオ ミニシアター」

先日、Amazonビデオは日本未公開作品を先行独占公開する「Amazonビデオ ミニシアター」の提供を開始した

プレスリリースにおいてAmazonビデオ事業部門 本部長のウェイド・ワカシゲ氏は、「良質な映画を日本で初公開」できる喜びとともに、同サービスの価値を次のように語っている。

「海外で多数受賞した映画でも、日本ではなかなか劇場公開されなかったり、海外劇場公開後からDVD発売やオンデマンド配信開始まで、最長1年以上かかることもあります。特に映画ファンのみなさまには『Amazonビデオ ミニシアター』を通して、できるだけ早いタイミングで日本初公開の映画をご覧いただき、また、視聴できる映画作品数も増やしていくことで、Amazonビデオのサービスをより楽しんでいただけると思います」

Amazonはニーズの少ないニッチな商品も網羅することで、圧倒的な市場シェアを獲得してきた。元『WIRED』編集長のクリス・アンダーソン氏はこうした戦略を「ロングテール戦略」と呼び、物理的な制約の少ないECサイトにとってロングテール戦略は成長の鍵であると述べた。

特定の映画ファン向けの作品も取り揃える「Amazonビデオ ミニシアター」は、映像配信サービスにおけるAmazonのロングテール戦略を後押しするだろう。

また、映画製作者側にとっても、利用者数の多いAmazonビデオを経由して日本市場に作品を流通できるのは大きな利点のはずだ。

ミニシアターにどのような「映画体験」を求めているのか

Amazonビデオ ミニシアターの登場によって、ミニシアターなどの映画館減少は加速するかもしれない。「観たい作品が観られるから」という理由で映画館を訪れている人であれば、ミニシアターに足を運ぶ必要もなくなるからだ。

しかし、「映画館で映画を見る」という体験に価値を見出す人は決して少なくない。2016年に10代~70代の男女を対象に行われた調査では、新作映画がオンラインと映画館で同時公開された場合に、映画館を選ぶ人が多数派だったという。ちなみに調査ではオンライン視聴が月額1000円の場合と仮定している。

また、日本以上にストリーミングサービスの普及の進むアメリカでも、映画館で映画が見放題になるサービス「MoviePass」が人気を集めている。NetflixのCEOであるReed Hastings氏も、「共通体験として友人と映画館に映画を観に行く意義は変わらないだろう」と映画の変わらぬ価値を認めた。

映画ジャーナリスト大高宏雄氏は、1989年に出版された「ミニシアターをよろしく」の中で、ミニシアターは「テレビ、ビデオなどの映像産業の影響を受けて瀕死の状態となった興行界の新たな方向性を打ちだしたもの」と述べたという

ストリーミングサービス隆盛の現在においても、アップリンク・クラウドのようにミニシアターの新たなあり方を示していく必要があるだろう。例えば神奈川県の「アミューあつぎ 映画.comシネマ」は「社会付加価値を創出する映画館」を掲げ、公民館との送迎バスサービスや社会課題に関わる映画の上映などを行なっている。

ミニシアターが街から姿を消してしまい、シネコンで上映されない作品との偶然の出会いがなくなるのはやはり寂しい気がする。今後もミニシアターならではの豊かな映画体験をアップデートし、より多様な映画体験が生み出されていくことを期待したい。

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