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世界で年間9,200万トンが廃棄 「古着ブーム」でも服の大量廃棄が減らない本当の理由

世界のファッション業界はいま、「循環型経済」への転換を急いでいる。リセール・リペア・アップサイクル・レンタル。あらゆるブランドが“サステナブル化”を掲げているにも関わらず、衣類の廃棄量は増え続けている。

その矛盾に真正面から切り込んだのが、オランダの非営利団体Fashion for Goodと、同じくオランダのシンクタンクCircle Economyによる最新レポート『Sorting for Circularity: Project Rewear(以下、Project Rewear)』である。

Project Rewearはヨーロッパ4カ国、ガーナ、パキスタンをまたぐ大規模調査を通じて、古着経済の実態と限界、そして次世代循環インフラの可能性を描き出している。そこから浮かび上がるのは、単なる「古着ブーム」では解決できない、構造的な問題である。

「循環型ファッション」は本当に機能しているのか

現在のファッション産業は典型的な「Take-Make-Waste(採取・製造・廃棄)」型産業である。資源を採取し、製品を製造し、消費された後に廃棄される一方向型の経済モデルだ。

Project Rewearによれば、世界では年間9,200万トン以上の繊維廃棄物が発生している。一方で、循環利用されている素材はそのうちのわずか0.3%に過ぎない。さらに世界の衣類の生産量は2030年までに2015年比で63%増加すると予測されている。

Project Rewearは、ファッション業界の問題を「廃棄」ではなく、“過剰生産そのもの”にあると指摘する。実際、世界では毎年1,000億~1,500億着の衣類が生産され、その最大30%は消費者の手に渡ることなく余剰在庫となるとも推定されている。

つまり、衣類のリユース市場が成長しても、新品生産量が減らなければ環境負荷は根本的には改善しないのである。

ヨーロッパの調査で見えた「まだ着られる服」の大量廃棄

Project Rewearでは、オランダ、スペイン、ポーランド、リトアニアの4カ国で8,280点の古着を分析した。その結果は衝撃的である。37%は無傷と判明し、さらに41%は軽微な損傷のみであり、合計すると約8割が再着用可能だった。

しかし、それらの多くは再流通しない。再着用できる状態であっても、リペアや洗浄、検品にかかるコストが販売価格を上回り、利益を確保できないためである。

たとえば小さなシミ、毛玉、ボタン欠損程度なら簡単に修復可能である。しかしヨーロッパの古着市場では、洗浄・検品・物流・撮影・人件費を加えると、販売価格を上回ってしまうケースが珍しくない。

Project Rewearでは、ある選別施設で年間4,700万キログラムの衣類を扱う一方、リペアされたのはわずか50キログラムだったという事例も紹介されている。

ここで重要なのは、服の価値は「品質」だけで決まらないという点である。調査では、素材耐久性や損傷度よりも、ブランド力やトレンド性の方が価格を左右していることが明らかになっている。

H&MやZARAなどのファストファッションブランドの服が大量に流通している一方で、物理的には着用可能でも“販売できない服”は大量に存在する。つまり現代の古着市場は、「耐久財市場」ではなく、依然として「トレンド市場」なのである。

日本でも「服の余剰」は静かに進行している

この問題は決してヨーロッパだけの話ではない。日本でも年間約47万トンの衣類が廃棄されているとされ、環境省によれば、その多くが焼却または埋立処理されている。

日本は一見すると「服を長く着る文化」が残っているように見える。しかし現実には、低価格EC、短サイクルトレンド、SNS起点の消費加速によって、国内でも大量廃棄構造は確実に進行している。

さらに、日本の古着市場にもヨーロッパと共通する構造がある。リユース業界は成長しているものの、収益の中心はブランド品や状態の良い高価格帯商品であり、大量に流通する低価格衣料の再流通は依然として難しい。

一方で、日本には独自の可能性もある。たとえばワークウェア、アウトドア、デニム、ユニフォームなど、耐久性の高いカテゴリにおいては、リペア・再販との親和性が高い。実際、Patagoniaの「Worn Wear」やGoldwinのリペアサービスなど、長寿命化を前提とした事業モデルは国内でも徐々に広がり始めている。

また、日本は高齢社会でもある。今後は「大量所有」よりも、「少数を長く使う」価値観との親和性が高まる可能性もある。つまり日本のファッション市場は、単なるヨーロッパ型リセール追随ではなく、“長期使用前提の循環モデル”を独自に構築できる余地がある。

ガーナで起きている「廃棄物植民地主義」

Project Rewearが特に踏み込んでいるのが、ヨーロッパから輸出される古着の行き先である。ガーナ・アクラのカンタマント市場には、毎週約1,500万着の古着が運び込まれる。ここは世界最大級の古着市場として知られている。

現地では約3万人が働き、そのうち5,000人以上が古着事業関連に従事している。しかし実態は、単なる「リユース市場」ではない。

Project Rewearが調査した2,474点の衣類のうち、86.5%に損傷が見つかった。輸出時には「再着用可能」と分類されていても、実際には販売困難な商品が大量に含まれているのである。

さらに問題なのは、損失負担が現地側に押し付けられていることである。ガーナの商人たちは、古着を圧縮梱包した「古着ベール」を品質保証なしで購入する。中身を事前に確認できないため、低品質な衣類が多ければ赤字を抱えることになる。

加えて、売れ残った古着は現地で廃棄される。排水路や海岸、路上に大量の繊維廃棄物が流れ込み、焼却による大気汚染も深刻化している。

Project Rewearはこれを、「Waste Colonialism(廃棄物植民地主義)」と表現している。本来、ヨーロッパの過剰消費によって生まれた廃棄物問題である。しかし実際には、その廃棄物の処理負担はグローバルサウスへ押し付けられている。

これは単なる古着輸出ではなく、グローバル経済構造そのものの問題だという指摘である。

パキスタンは「世界の選別工場」になっている

一方、パキスタンは異なる役割を担っている。同国は年間80万トン以上の中古衣料を輸入し、その一部を再輸出している。特にカラチ輸出加工区には約70社が集積し、世界規模の選別ハブとなっている。

ここでは大量の衣類が、リユース向け・リサイクル向け・ダウンサイクル向けに細かく分類される。

興味深いのは、その経済合理性である。中古衣料輸入価格は1トンあたり約400〜500ドルだが、選別後の再輸出価格は約900ドル前後に上昇する。つまり「選別」が巨大な付加価値を生んでいるのだ。

特に人件費の低さが競争力となっている。靴の片方だけを輸入し、現地でペアリングして再輸出するという事例まで紹介されている。

ただし、ここでも労働環境問題は深刻だ。女性労働者は低賃金リペア業務に集中し、非正規雇用も多い。循環経済は成立している。しかし、それが「公正」かどうかは別問題なのである。

AIは古着市場を変えられるのか

Project Rewearでは、循環型ビジネスの実証実験も行われた。特に注目されるのが、reverse.fashionが提供するAIによる古着の選別システムである。このAIシステムでは、ブランドや状態、色、素材、トレンド、サイズなどをAIが高速判定し、価値の高い商品を自動抽出する。

結果として、売上20%増、年間20万ユーロ規模の収益改善、人件費削減などが確認された。

重要なのは、“わずかな選別精度改善でも、巨大な利益差になる”という点である。年間3万トンの衣類を処理する再流通施設では、利益ゼロから650万ユーロへ改善する試算も示されている。

つまり古着市場の課題は、「服がない」ことではなく、「価値を正しく識別できていない」ことなのである。

Repair Economyは成立するのか

もう1つ興味深いのが、古着のリペア・再販を手がけるオランダの企業United Repair Centreによるリペア実証である。その結果では、低価格Tシャツのリペアはほぼ赤字の一方、デニムやアウターは、リペア・再販事業として採算が取れる可能性が高いことが示された。

例えば、あるジャケットはリペア後に125ユーロで販売されたという。つまり修理経済は、「全部を直す」のではなく、“高付加価値カテゴリに集中する”ことで成立する。

これは日本市場にとっても重要な示唆である。日本では「服のリペア文化」は存在するが、ファッション産業全体の経済構造にはまだ組み込まれていない。だが高価格帯ブランド・アウトドア・デニム領域では、十分ビジネス化余地がある。

「Rewearだけでは足りない」という結論

Project Rewearの特徴は、循環型ビジネスを過度に礼賛するのではなく、その経済的な限界も含めて検証している点にある。

むしろ最終的には「Rewearだけでは不十分」と結論付けている。また、本当に必要なのは、過剰生産抑制、EPR(拡大生産者責任)、リペア優遇税制、耐久性基準、ブランドの生産責任、グローバルサウス支援など、経済システム全体の変革だと指摘している。

つまり、「サステナブルな古着ビジネス」を増やすだけでは、ファッション産業は変わらない。本当に問われているのは、「どれだけ服を生産するのか」である。

そしてその問いは、ファッション業界にとどまらず、日本の他の業界にも向けられている。

文:岡 徳之(Livit

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