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「会社員かフリーランスか」はもう古い “半所属”という新しい働き方が広がる理由

「会社を辞めてフリーランスになる」が、この10年のキャリア論の中心だった。特にコロナ禍以降、その流れは加速した。

リモートワークの普及、副業解禁、SNSによる個人ブランディング、そしてAI活用の普及によって「個人でも十分に戦える」という感覚が広がったのである。

しかし2025年以降、その空気が変わり始めている。日本でも海外でも、フリーランスから再び組織へ戻る人が増えているのだ。

ただし、それは単純な「会社員回帰」ではない。欧米を中心に存在感を増しているのが、「Fractional Work(フラクショナル・ワーク)」と呼ばれる働き方である。

特定の1社にフルコミットせず、複数企業に“部分的に参加する”。その新しいキャリアモデルが、静かに広がり始めている。

フリーランスブームの調整局面

近年、日本では「フリーランスから会社員へ戻る人が増えている」という話題が、採用市場やSNSで頻繁に語られるようになった。

背景には、案件単価の下落、景気不透明感、そして生成AIによる競争環境の変化がある。

ライティング、デザイン、翻訳、マーケティングなどの知的労働では、AIによって“平均的アウトプット”の価値が急速に下がった。従来は数万円で受注できていた仕事が、AIの活用を前提に半額近い単価で発注されるケースも珍しくない。

さらにフリーランスは、本業に加え、営業、請求、税務、契約管理、保険の手続き、キャッシュフロー管理まで、自ら担う必要がある。

日本国内でも、「自由のコスト」が改めて可視化され始めているのである。実際、日本でフリーランス経験者が再び会社員へ戻る動きが広がっている背景として、収入の不安定さや福利厚生の欠如を指摘する記事もある。

一方で企業側の対応も変化している。慢性的な人手不足のなか、企業は中途採用枠を拡大し、フリーランス経験者を積極採用するようになった。

かつては「会社員を辞めてフリーランスになる」がキャリアの上昇ルートだった。しかし今は、“一度フリーランスになった人が、再び組織に価値を感じ始めている”のである。

海外で広がる「Fractional Work」

興味深いのは、アメリカやイギリスでは、この流れが単純な「正社員復帰」にはなっていないことだ。代わりに伸びているのが、Fractional Work(フラクショナル・ワーク)である。

これは、1社専属ではなく、複数企業に“部分参加”する働き方を指す。週2日だけCMOを務める。複数社のAI導入アドバイザーを兼任する。週1回だけ経営会議に参加する。そうした「半所属」が広がっているのである。

イギリスの時事メディアThe Weekは、この働き方を「安定と自由を両立する新しい雇用モデル」と紹介している。同記事では、従来のフリーランスとの違いとして、「単発案件」ではなく、企業の戦略や意思決定に継続的に関与する点を挙げている。

つまり、単なる業務委託ではない。組織の“内側”に入りながら、複数企業を横断するのである。

イギリスでは、CMOやCFOなどの経営層人材が複数企業に分散参加する「Fractional Leadership(フラクショナル・リーダーシップ)」が拡大している。

イギリスのニュース誌The Timesによれば、ビジネスSNS「LinkedIn」でFractional Leadershipを掲げるプロフィール数は、2022年の約2,000件から、2024年には11万件規模へ急増した

“複数所属”を選ぶ人たち

実際に、Fractional Workを実践する人たちは何を感じているのか。

The Timesが紹介した英国のマーケター、Chris Lawson(クリス・ローソン)氏は、現在3つの組織を横断してCMOを務めている。午前はエンターテイメント施設「Gravity Max」、午後はチケット系スタートアップ、夜は政府系デジタル案件に関わる生活だ。

ローソン氏は記事内で、「フルタイム時代より働いている」と認めながらも、「いまのほうが成功している感覚がある」と語っている。

興味深いのは、その理由である。ローソン氏は、複数企業を横断することで知見の循環速度が圧倒的に上がるという。ある会社で得た知識を別の会社へ応用し、それがさらに新しい学習を生む。単一組織に閉じるより、成長速度が速いというのである。

また、Jeff Harris(ジェフ・ハリス)氏は、ヘルステック企業、禁煙アプリ企業、住宅ローン企業の3社でCFOを兼任している。最初は短期プロジェクトとして関わったが、一部企業では「週3日CFO」として継続契約へ移行した。

ハリス氏は、「Fractional Workは“試用期間付き経営参加”でもある」と説明する。まずは業務に部分参加する。自身と相性が良ければ関係を深める。必要であればフルタイム化する。従来の「採用して長期的な雇用関係を築く」モデルとは異なる関係性なのである。

さらにアメリカのニュースメディアAxiosが紹介したFractional COOのKhadijah Robinson(カディージャ・ロビンソン)氏は、10年以上フルタイム勤務を続けた末にバーンアウトを経験し、2023年から複数企業への分散参加へ移行した。

彼女は、「もう1つの会社だけに人生を預けたくなかった」と語る。この言葉は象徴的だ。かつてフリーランス論は、「自由」や「自己実現」を中心に語られていた。しかしFractional Workには、“依存先を分散することで、自分を守る”という現実的な感覚が強くある。

「一社依存」が最大のリスクになった

なぜ今、この働き方が広がるのか。背景には、「会社に所属していれば安定」という前提の崩壊がある。

アメリカでは2024年から2025年にかけて、Google、Amazon、Meta、MicrosoftなどBig Tech企業による大量レイオフが続いた。アメリカのシンクタンクThe Conference Boardの2025年調査では、「2025年にレイオフを実施した企業」は41%に達し、前年の30%から増加している。

つまり、正社員になれば安定が期待できるという時代ではなくなった。その結果、「1社に依存しないこと」そのものが、新しい安定として認識され始めている。

アメリカの調査会社MBO Partnersの2024年調査によれば、米国には7,270万人の独立系ワーカーが存在する。さらに2025年には、年収10万ドル超の独立系プロフェッショナルが560万人へ増加した

これは、「フリーランス=不安定」という単純な構図ではなくなっていることを示している。むしろ今は、複数の収入源を持つこと自体が安定になりつつあるのである。

AI時代、「個人」と「組織」の関係は変わる

この変化を、「AIによって個人が不利になった」と理解するのは正確ではない。むしろAIによって、個人の生産性は大きく向上した。

AIを活用し、1人で企画から制作、営業資料の作成まで担えるようになった。従来10人必要だった仕事を、1〜2人で完了できる場面も増えている。

しかし同時に、AI時代には「個人では持てない資産」の価値も上がっている。顧客基盤、ブランド、コミュニティ、継続的な信頼、そしてチームによる学習速度である。AIはアウトプットを均質化する。だからこそ、“誰と組むか”の価値が相対的に上がる。

2025年の論文「The Future of Work is Blended, Not Hybrid」は、これからの仕事を「Hybrid Work」ではなく、「Blended Work」と表現している。人間とAI、個人と組織、社内と社外が混ざり合う働き方だ。

今後は、「会社員かフリーランスか」という二択そのものが古くなっていく可能性が高い。

重要なのは、どこに所属するかではない。どの組織と、どの距離感で接続するかである。そして、その接続先を複数持つことが、新しい時代の「安定」になり始めている。

文:岡 徳之(Livit

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