東京のスタートアップ戦略は「育成」から「世界展開」へ──SusHi Tech Tokyo 2026現地レポート
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「SusHi Tech Tokyo 2026」は、東京都が主催するアジア最大のグローバルイノベーションカンファレンスだ。持続可能な(Sustainable)都市を先端技術(High Technology)で実現するというミッションのもと、2023年から毎年開催されている。
4回目を迎える今回は、世界60の国と地域から約770社のスタートアップが出展し、商談件数は約1万件、参加者数は約6万人(オンライン含む)を見込む、過去最大規模の開催となった。前回2025年の参加者数は約5万8,000人だったことを踏まえると、着実に規模が拡大している。
本記事では、イベントの様子をオープニングセッションの内容とあわせてレポートする。
小池都知事、英語で宣言。東京のスタートアップ戦略は次のステージへ
オープニングセッションでは、多くの参加者で埋め尽くされた会場で、小池 百合子東京都知事が英語でスピーチに臨んだ。

小池知事はまず、このイベントが置かれた時代背景に言及したうえで、SusHi Tech Tokyoの意義を説明した。
「私たちは今、深刻な激動の時代を生きています。不安定な国際情勢、頻発する自然災害、エネルギーや資源をめぐる混乱の拡大、そして急速な変化…このような時代だからこそ、持続可能な都市の実現を改めて強調したいんです」
続いて、4年前に掲げた「10×10×10のイノベーションビジョン」、つまりはスタートアップ数・ユニコーン数・官民連携数をそれぞれ10倍にするという目標の進捗について語った。

「わずか4年間で、東京都は約1,000社のスタートアップと連携し、その市場価値がほぼ倍増しました。この実績を可視化するため、本日『Tokyo Startup Database』を立ち上げました」
Tokyo Startup Databaseとは、東京都と連携するスタートアップの企業情報や評価額などを一元的に公開するプラットフォームだ。東京都のエコシステムの広がりを、国内外に示す狙いがある。
さらに、次のフェーズとして「SusHi Tech Global」という新たな取り組みを紹介。

サステナブルな社会の実現に向けたグローバル展開を目指すスタートアップを集中支援するプログラムで、すでに77社を選出しているという。資金面についても、踏み込んだ発言があった。
「4年前に、5年間で10億ドルを投じると約束したが、今年、予定より1年前倒しで目標を達成できる見込みです。来年度までに、官民連携のもとさらに10億ドルの投資フローを創出します」
スタートアップを生み出す段階から、グローバルに育てる段階へ。東京都の戦略が大きく転換したことが、この10分余りのスピーチから伝わってきた。
小池都知事のスピーチに加え、同日には高市 早苗内閣総理大臣も登壇し、政府としてスタートアップの育成を強力に推進する方針を示した。官民が足並みをそろえてイノベーションを後押しする姿勢が、イベント開幕初日から鮮明になったといえる。

所狭しと広がるロボットと人の波──未来技術が集結した会場の熱気
オープニングセッション後、会場フロアへと足を踏み入れると、その規模に圧倒される。東京ビッグサイト西1〜4ホールを使った会場は、スタートアップや大手企業の展示ブース、パビリオン、ステージが所狭しと広がる巨大な空間だ。
ひときわ人だかりができていたのが、リアルな動きで来場者を驚かせていた恐竜型ロボットの展示だ。精緻な皮膚の質感と滑らかな動作は、思わず足を止めさせるほどの存在感があった。技術の見せ方として、わかりやすく、かつインパクトがある。会場の空気感を象徴する一場面だった。

ロボティクス領域ではほかにも、高所作業用の点検ロボットや、パワードスーツを使った重量物運搬の体験デモなど、製造業・インフラ分野の現場課題に直結するソリューションが並んでいた。「アニメで見るような未来」と「今日の工場や現場」が地続きになっている感覚、それがこの会場独特の雰囲気と熱量を生み出していた。

さらに、人型の変形ロボットなども展示されており、来場者がスマートフォンで撮影している様子もみられた。国内外から集まった投資家やビジネスパーソンが、実際に触れたり試乗したりしながら情報収集をしている姿も多く見られ、展示会というよりも「商談の場」としての色合いも強いといえる。

4つの重点テーマと真剣な眼差しでピッチに挑む起業家たち
SusHi Tech Tokyo 2026が今年掲げる重点テーマは、「AI」「ロボティクス」「レジリエンス」「エンターテイメント」の4つだ。
ロボティクスについては前述の通り、会場のいたるところで最前線の技術を体感できる展示が並んでいた。
一方でAIの領域では、NVIDIA、Benhamou Global Venturesといったグローバルプレイヤーが登壇し、「AIはインフラ化のフェーズから社会実装のフェーズへ」という論点を深掘りした。東京大学の教授である松尾 豊氏といった国内の第一人者も登壇し、AIが文明そのものを変える転換点にあるという議論が展開された。

また、レジリエンスの領域では、サイバー防衛や気候変動対策、建設用3Dプリンタによるウクライナ復興支援まで、危機への対応力を高めるテクノロジーが一堂に会した。会場外では環七地下調節池などのインフラ見学ツアーも実施され、「都市を守る技術」をリアルに体感できる機会が提供された。
エンターテイメントでは、アニメ産業の未来や日本発音楽コンテンツのグローバル展開、AI映画の最前線を扱うセッションが組まれ、テクノロジーと文化の交差点を探る内容となった。展示エリアでも、AIによるマンガの多言語翻訳や、実在するMLB投手の球をVRで再現するバッティング体験など、テクノロジーが創作や体験の在り方を変える事例が並んでいた。
さらに、会場4階に設けられた「SusHi Tech Global Stage」では、グローバル展開を目指すスタートアップたちのピッチが行われていた。ステージを埋める聴衆の視線は真剣で、登壇者の言葉に耳を傾けながらメモを取る投資家や企業担当者の姿が目立った。

今回のピッチコンテスト「SusHi Tech Challenge 2026」には、世界60の国と地域から820社が応募。事前審査を通過した18社がセミファイナルに臨み、最終的にファイナルで頂点を競う。優勝賞金は1,000万円だ。

同フロアの「Investor Stage」では、大企業と投資家による対談セッションも並行して行われており、午前中から席が埋まっていた。グローバルな投資トレンドを語るVCや、日本市場への期待を語る海外投資家、テーマは違っても、共通しているのは「東京を起点に何ができるか」という問いだった。

新しい学校のリーダーズが彩ったフィナーレ──「育てる」から「世界へと送り出す」フェーズへ
3日間のイベントを締めくくるのは、4月29日のパブリックデイだ。子どもから大人まで無料で入場できるこの日は、最先端技術の体験ワークショップや中高生向けピッチコンテスト、科学実験ライブなど多彩なプログラムが展開された。

そのステージを飾ったのが、「新しい学校のリーダーズ」のライブパフォーマンスだ。独自のダンスと世界観で国内外に熱狂的なファンを持つ彼女たちの出演は、テクノロジーとエンターテインメントの融合を体現する瞬間となった。ロボットとの共演も披露され、会場は大きな盛り上がりを見せ、イノベーションの祭典を華やかに締めくくった。

改めて今回の会場で感じたのは、このイベントが「スタートアップの展示会」から「事業が動く場」へと変わってきているという実感だ。
参加者は単に情報収集しているのではなく、商談を進め、接点を生もうとしている。イベント公式アプリを使ったAIによる商談相手のレコメンド機能、大企業によるリバースピッチ、世界24の国・地域・都市が集うシティパートナーエリアなど仕掛けの一つひとつが「接点をビジネスに変える」ことを意識して設計されている。
世界五大陸から49都市のリーダーが参加するG-NETS首長級会議が並行して開催されており、都市レベルの政策議論と民間のビジネス展示が同じ時間軸で進んでいる点も、このイベントならではの特徴だ。コーポレートパートナー68社、アンバサダー345社、メディアパートナー40社と、エコシステムを支えるプレーヤーの数も年々厚みを増している。
東京発のスタートアップエコシステムが、「育てる」から「世界へと送り出す」フェーズへ。SusHi Tech Tokyo 2026の会場は、その転換点を可視化した空間だった。