「ミレニアル世代」と並びそのライフスタイルや志向に注目が集まる「Z世代」。

ピュー・リサーチ・センターの定義では1997〜2012年の間に生まれ、現時点で7〜22歳になる層だ。

ブルームバーグによると、世界人口に占めるZ世代の割合は32%。全世界77億人のうち約24億7,000万人がZ世代に分類される。24億3,000万人と推定されるミレニアル世代を若干上回る人口数だ。

ミレニアル世代、Z世代どちらも新しいトレンドを作り出す層であり、それぞれの世代の特徴に関してこれまでさまざまな調査が実施されてきた。

たとえばマッキンゼーが2018年11月に発表したレポートでは、ミレニアル世代とZ世代が育った時代背景の違いなどから、各世代の特徴を以下のようにまとめている。ミレニアル世代は、グローバル化、経済安定、インターネット普及という時代に育ったため、グローバリストかつセルフオリエンテッドな特徴を持つと評価。フリーランスとして世界各地で仕事をするライフスタイルへの人気が高いことなどが、この評価の妥当性を示していると言える。

一方、Z世代が育ったのは、リーマンショック後の金融危機・経済不安が起こり、ソーシャルネットワークが加速度的に普及した時代。このためミレニアル世代に比べ、Z世代は現実的な考えを持つ傾向が強いという。Z世代はフリーランスよりも企業に就職する道を選ぶ割合がミレニアル世代に比べ高いといわれているが、育った時代背景を考慮すると納得できる。

またソーシャルネットワークの活用は日常となり、経済的な背景や国籍関係なく、同じ趣味・価値観を持つ同世代とつながることを求める傾向も強いと指摘している。同レポートでは、この特徴を「Communaholic」という言葉で表現している。

マッキンゼーのほかにも、ミレニアル世代とZ世代の違いを調べたレポートは数多くあるが、概ねミレニアル世代に比べZ世代は現実的な考えを持っていること、ソーシャルメディアの活用が日常になっていることが示唆されている。

現実的であるということは、将来に備え何かしらの準備をしていることが想定される。ピュー・リサーチ・センターの調査は、このことを示す興味深いデータを示している。米国の15〜17歳の層の時間の使い方を調べたところ、10年前に比べ勉強時間が44分増加、20年前に比べ30分増加していることが明らかになったのだ。

ミレニアル世代やX世代が10代だった頃より、Z世代はより多く勉強していることになる。一方、アルバイト時間や外で遊ぶ時間は16〜23分減少している。現実的な視点を持つZ世代は、バイトや遊びの時間を減らし、勉強に力を入れていることが示されている。なお、男子学生よりも女子学生の方が勉強時間が長くなる傾向があるという。

Z世代のこのような特徴は、ソーシャルメディアのトレンドからも見つけることができる。その1つがYouTubeの「Study with me」トレンドだ。いったいどのようなトレンドなのか。

Z世代の80%が知識・スキル習得にYouTube活用

「Study with me」とは、自分の勉強している様子をライブストリームなどで配信し、フォロワーと一緒に勉強する空間を作り出し、お互いに勉強の動機づけを行う動画ジャンルだ。多くの高校生や大学生が「Study with me」動画を配信、視聴数は増加傾向にあり、グーグルもYouTubeで成長ジャンルになっていると指摘している。

具体的にどのようなコンテンツなのか。

人気チャンネルの1つとして挙げられるのが「TheStrive Studies」。ニューヨーク在住で現在救急医学を勉強する女性が運営するチャンネル。登録者数は18万6,000人で、累計再生回数は870万回以上。最も再生数が多いのは2時間30分ひたすら勉強する様子を映す動画で、再生数は320万回に上る。

「Study with me」動画(「TheStrive Studies」チャンネルより)

法学系の学生が運営する「WaysToStudy」も人気チャンネルだ。登録者数は44万人以上、累計再生回数は1400万回。「Study with me」動画だけでなく、勉強ハックや試験に向けたモチベーションアップ動画を配信し、人気を得ている。

英エクセター大学に通う女性ルビー・グレンジャーさんのチャンネルでも「Study with me」動画を配信。チャンネル登録者数は36万人以上。勉強ハックやエクセター大学とのコラボ動画など勉強に関するさまざまなコンテンツを配信しており、累計再生回数は3,600万回を超えている。

ルビー・グレンジャーさんのYouTubeチャンネル

これらのチャンネルの動画コメント欄では、同世代の学生が勉強に関する情報を交換したり、励まし合ったりしており、国境を超えた勉強コミュニティができあがっている。

勉強をするときもソーシャルでつながり、お互いにモチベーションを高めあっている様子は、上記で紹介したマッキンゼーの調査レポートが用いた「Communaholic」という言葉がうまく表現しているといえるだろう。

しばしば問題動画が配信され批判されることがあるYouTubeだが、Z世代の多くが勉強のモチベーションを高める知的空間として活用していることを考えると、次世代教育のあり方を示し学習プラットフォームとして機能する社会的価値が非常に高い存在であるといえる。

Z世代にとってYouTubeが知的空間として機能していることは、数字からも見て取ることができる。

グーグルとフランスのリサーチ会社Ipsosが実施したZ世代の意識調査では、85%がYouTubeを視聴していると回答。そのうちの80%がYouTubeのおかげで知識が増えたと回答したのだ。また、68%が将来必要になるであろうスキルの習得にもYouTubeが役立っていると答えている。

YouTubeをよく視聴し、知識・スキルの習得に熱心なZ世代。そのニーズを反映するかのように、YouTube上ではこの数年ハイクオリティな教育コンテンツが急増している。

とくに英語圏におけるプログラミング系コンテンツの充実度は目を見張るものがある。PythonやJavaなど、多くのテクノロジー企業で使用されているプログラミング言語を数時間に渡って教えるコンテンツが増加。インストラクターの質も高く、基本的な知識はYouTubeだけで得られる環境ができあがっている。このほか、数学やAIなどを教えるコンテンツも増えており、Z世代だけでなくミレニアル世代やX世代も大きな恩恵を受けている。

社会経済の変化速度が加速する現代。知識・スキルの更新頻度は確実に高まっている。ソーシャルネットワークを活用して、勉強のモチベーションを維持し続けるZ世代の学習方法は、ミレニアル世代やX世代にとっても有益なものになるのではないだろうか。

文:細谷元(Livit