違和感から未来を変える。中高生が挑む包摂的社会へのアプローチ 内閣府SIPシンポジウムレポート
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少子高齢化が進む日本では、社会的孤立が深刻な課題の一つとなっている。核家族化や地域とのつながりの希薄化に加え、病気や障がいによる就労困難や、子育て・介護による不安などが孤立をさらに深めてしまう要因だ。
孤立のない社会を実現するために必要なのは、人と人との接点を閉ざさないこと。その鍵となるのが、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の解消だ。年齢や性別、国籍や外見といった表面的な情報で他者を判断することなく、それぞれの立場や価値観に思いを巡らせ、対話を重ねる姿勢が求められる。
こうした課題意識のもと、内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラム(以下、SIP)は、2026年3月18日に「内閣府SIP『包摂的コミュニティプラットフォームの構築』シンポジウム」を開催した。SIPは、社会課題の解決に向けて産学官が連携し、新しい技術や仕組みの社会実装を目指す国家プロジェクトである。「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」は、SIPの課題テーマの一つであり、本シンポジウムでは同テーマにおける取り組みの成果が報告された。
包摂的とは、性別・年齢・国籍・障がいの有無などに関わらず、すべての人が排除されることなく社会の一員として受け入れられる状態を指す。
当日は「世の中をちょっとよくする部」として活動する玉川学園の中高生25名が、「若者も高齢者も長生きしたい社会をデザインする」をテーマに企画を発表。アンコンシャス・バイアスへの気づきを広める展示『みんなの違和館』や、世代間の分断を乗り越えるコミュニケーション施策、幼少期からの教育など、実現性の高い企画が示された。
人生100年時代のウェルビーイングに必要な視点とは何か。シンポジウムの内容をレポートする。
社会への寛容性と、個人の自立性を高める
開催に先立ち、内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 企画官(人・くらし担当)の坂西 義史氏は、「一人ひとりが性別や年齢、障がいの有無などに関わらず社会に参加し、活躍し続けられる“社会の寛容性”を高めるとともに、自らの幸福や生きがいに向けて主体的に考えて行動ができる“個人の自立性”を高めることが重要である」と語った。

社会の寛容性×個人の自立性。この両軸こそが、包摂的な社会づくりの重要なキーワードとなる。
見えない偏見を可視化するアプローチ
続いて、玉川学園の生徒2チーム(チームWISH・チームGENKI!)による発表が行われた。
最初に登壇したチームWISHは、「太っている女の子は痩せている女の子よりも価値が低いと思うか?」という問いを投げかけ、会場の空気を一変させた。多くの人が「NO」だと答えるであろう問いに対し、「本当に本心からの回答か?無意識に他人の体型やファッションを否定していないか?」と重ねて問い直す。
こうした無意識の偏見が社会には広く存在しており、とりわけ10代の生きづらさにつながっていると訴えた。

そこで同チームは、見過ごされがちな違和感や偏見を可視化することで社会を変える一歩にしようと、『みんなの違和館』を企画・制作。そこには、どこかで見聞きしたような何気ない一言が並び、実はそれらがアンコンシャス・バイアスであると気づくきっかけを与えてくれる。

同企画は、4月24日〜4月26日の3日間、ITOCHU SDGs STUDIO(東京・北青山)での展示が予定されている。
また、幼少期の価値観形成に着目した『三つ子のたましいプロジェクト』も紹介。幼稚園児とその保護者を対象に、偏見を生みにくい思考を育む絵本の制作に取り組んでいるという。
挨拶から始まるコミュニケーション
次に発表したチームGENKI!は、人間関係の希薄化に着目した。
人生100年時代のウェルビーイングには、人とのつながりや生きがい、多様性を受け入れる姿勢が不可欠である。しかし、現実にはその姿勢があまり見られないのではないかと問題提起する。その象徴的なものとして、「近所の大人が登校中の小学生に『おはよう』と声をかけても、不審者かもしれないと警戒されてしまうことがある」と、挨拶に関する例を挙げた。
この実態を検証するため、同チームは玉川学園前で挨拶の実証実験を行ったという。その結果、挨拶を返した割合は、未成年で27.6%、20〜30代で14.3%、40〜50代で12%、60歳以上で24%にとどまった(年齢は外見から推測)。背景には、防犯意識の高まりによる他人への不信感があると分析する。

こうした状況に対し、地元のJ1チームFC町田ゼルビアと連携した「ゼルビア・コミュニティビンゴ」を提案。スタジアム周辺で他人との会話を創出するゲーム形式の施策で、世代を超えたコミュニケーションを促す試みだ。
最後に、より簡単な施策として「GMA(元気よく毎日挨拶しよう)運動」を提唱。会場全体で実際に挨拶を交わす場面も見られた。
重要課題はサンドイッチジェネレーションへの支援
SIP「包摂的コミュニティプラットフォームの構築」のプログラムディレクターを務める、筑波大学大学院 教授の久野 譜也氏は、「大人の考えだけでは社会は変わらない」という仮説のもと、玉川学園との連携を進めてきたという。今後は、シンポジウムで紹介した取り組みを社会実装していくことが重要であり、「この分野を支える新たなビジネスや制度の構築がミッションになる」と展望を語った。

特に注力したいテーマとして挙げたのが、サンドイッチジェネレーションへの支援だ。子育てと介護を同時に担う世代(主に40〜50代)のことで、特に女性の負担が大きいとされる。
仕事と家庭の両立に加え、時間的・精神的な余裕を失いやすいサンドイッチジェネレーションの暮らしは、社会全体の持続可能性にも直結する。包摂的な社会の実現に向けて、これまで見えにくかった負担を可視化し、制度や仕組みで支えていくことが必要だ。
若者の柔軟な発想と、社会実装を見据えた大人の視点。この両輪によって、誰一人取り残されない社会の実現に近づくだろう。小さな違和感に気づき、他者と関わろうとする一歩の積み重ねが、包摂的な未来をかたちづくっていく。