なぜエディオンはPBを作るのか?暮らしの“気づき”に応える「e angle」のものづくり
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商品の価値が均一化する「コモディティ化」は、ものづくりに関する多くの業界で課題となっている。生活を支える家電業界も同様に、各社が付加価値の高い商品開発に取り組んでいるが、新たなプレーヤーとして注目を集めるのが家電量販店だ。本来は売る側である家電量販店は、「PB(プライベートブランド/自主企画商品)」の作り手として、多様化するライフスタイルにアプローチしている。
その一つ、エディオンのPB「e angle(イー アングル)」は、「くらしを、新しい角度から。」を掲げ、生活の細かなシーンに寄り添った商品を展開している。30を超える商品ラインアップは、ユーザー一人ひとりの声から生まれた独自アイデアで人気を博しており、同社の重点事業へと成長している。

本記事では、株式会社エディオン 執行役員 営業本部 PB商品推進部長の安倍 寛氏にインタビュー。同社がPBを手がける意義と、「e angle」が生み出す価値の本質に迫る。
なぜエディオンがPBを作るのか――「量販店だからこそできること」
メーカーが作った商品の販売を担う、家電量販店。生活者とじかに接する売り場では、「もう少し音が静かだったらいい」「使わない機能が多く、価格が高い」「部屋にマッチするデザインがない」など、販売員との会話の中で多様な“声”が生まれている。
本来、こうした声はメーカーにフィードバックされ、商品開発に生かされる。しかし近年、そのサイクルに変化が生じていると、安倍氏は説明する。
安倍氏「背景にあるのは、国内の総合家電メーカーが限られる中で、お客様の小さな声をお伝えしても製品化していただくことが困難な構造になったことです。一方、エディオンには、毎月500〜1,000件もの顧客のリアルな要望が寄せられています。手が行き届かない隙間ニーズに対し、私たちが自ら商品を開発できないかと、2018年にPB『e angle』を立ち上げました。店頭という接点から『こんな商品が欲しい』という要望を集め、ニッチな領域でオリジナル商品を展開する。メーカーとの共存関係を大切にしつつ、新たな価値提供を実現するのが、エディオンの方針です」
「e angle」の最大の特徴は、ユーザーの潜在的なニーズにマッチする機能だ。ワイヤレスと有線の両方で接続できる2WAYイヤホン、微細な泡の力で汚れを落とすウルトラファインバブル口腔洗浄機(※1)、静音設計が施された171Lの冷蔵庫、洗剤が自動投入される食器洗い乾燥機など、きめ細かな配慮が好調な売り上げにつながっている。

安倍氏「『くらしを、新しい角度から。』がブランドのコンセプトです。家電はスペックや価格だけでなく、デザインや質感、置かれる場所やユーザーの感情など、さまざまな要素を内包します。既成概念にとらわれず、多様な“アングル”から家電を見つめ直し、新たなアイデアを取り入れることで、お客様の困りごとを解決する。そんな自由な視点が、『e angle』の強みです」
では具体的にはどのようにして、「e angle」の商品が生み出されていくのか。企画から販売に至るプロセスを、事業の舞台裏から見ていく。
(※1)「ファインバブル」「ウルトラファインバブル」「FINE BUBBLE」は一般社団法人ファインバブル産業会の登録商標です。
店頭での会話からアイデアが生まれる、マーケットイン発想の開発サイクル
エディオンが家電販売事業で重視するのは、店頭の販売員による手厚いサポートだ。一人ひとりの顧客のニーズを踏まえ、最適な商品を提案するために、現場では丁寧なコミュニケーションが行われる。こうした接客プロセスの中で、「e angle」の企画につながる潜在的な声も収集されるという。
安倍氏「店頭でお客様から受けた質問、製品に対する要望は、販売員を通じて本社に届けられます。このプロセスでは、お客様視点に立った商品改良のアイデアが集まることも多く、マーケットイン型の商品企画の起点になっています」
生活者との接点に加え、商品カテゴリーを横断する企画力も、家電量販店ならではの特長といえる。大型家電から乾電池まで幅広い商品に精通する視点は、アイデアの水平展開につなげられるからだ。
安倍氏「例えば、食器洗い乾燥機の洗剤自動投入は、もともと洗濯機の機能から着想しています。『毎回洗剤を入れるのは手間』『洗濯機のようになればいい』という、販売員とお客様の店頭での会話が、発売当時に国内初(※2)となった機能を実現しました。お客様の困りごとに多角的な視点でアプローチした、『e angle』の典型モデルといえます」

現場発のアイデアは、グローバル商品企画部に集約され、開発に向けて検討が行われる。アイデアは全て商品化を目指すという基本方針の下、マーチャンダイザーが市場動向を精査し、計画を立案。原価などの事情で保留となる企画も、改良に向けて再検討される。
安倍氏「商品化が決まれば、製造ラインを整備するフェーズに移ります。小売業者の不得意な領域ともいえますが、社員が海外を奔走し、強固なネットワークを構築してくれました。また、国内家電メーカーの皆さまにも、製造拠点の紹介など協力をいただいています。事業領域をすみ分け、一緒に業界を発展させるという、共存共栄の姿勢が生きているのでしょう」

製造と販売の一体化は、スピーディーな商品化プロセスにも直結する。大規模なマーケティング戦略や仕入れなど、市場ニーズに迅速に応える商品づくりができるのだ。
安倍氏「2025年8月、Netflixが『第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の独占配信を発表したことを受け、e angleでのポケットラジオの開発を決めました。ネット環境に不慣れな高齢者などが、テレビで大会を楽しめないことを想定したためです。翌年3月の開催に間に合うよう、1月に発売した結果、売り上げは目標の6倍に到達。トレンドを踏まえたスピーディーな商品開発も、私たちの役割だと実感しました」
(※2)国内の家庭用据え置きタイプの食洗機において。2023年12月7日時点。(エディオン調べ)
多様な生活者にフィットする“ちょうどいい家電”の設計思想
「e angle」は、特定の世代に向けたブランドではない。幅広い生活者のニーズに応えることを前提としながら、その中で近年は、これまで接点の少なかった若年層にも広がりを見せている。
2024年にスタートした「カラーデザインシリーズ」は、若年層に向けた商品群。“くすみカラー”を特徴とするシンプルなデザインが施されたオーブントースターやグリル鍋、カーボンヒーターは、インテリアとしてなじむ「ビジュ家電」として評価を高めている。
安倍氏「家電量販店の顧客年齢層は高い傾向にあり、20代・Z世代へのアプローチは業界全体の課題でした。一方、家電は必需品でもあるため、若い方々は別の場所で購入しているはず。仮説を検証して見えてきたのは、インテリアショップや生活雑貨店が販売するオリジナル家電の人気です。“オシャレ”な商品が求められていると、気づきを得ることができました」
エディオンでは早速、顧客や販売員の声を分析し、若者向けシリーズの企画に着手。カラーデザインをポイントとした商品づくりに、方向を定めていった。
安倍氏「エディオンの店頭を見渡しても、モノトーンを基調とした家電が占めている。現場からは『カラーバリエーションが欲しい』『他の家具と一緒にコーディネートしたい』といった声も届いていました。個性を大切に、自分の生活スタイルに合う家電をそろえるのは、若い方々の感性です。丸みを帯びた形状などを含め、愛着を抱けるデザイン性にこだわりました」

エディオンが販売する調理家電では、30代以下の購入比率が16.5%にとどまっていたのに対し、カラーデザインシリーズでは21.9%に上昇。課題の打破に成功したターゲットに寄り添う商品開発は、さらに強化していく方針だ。
安倍氏「Z世代向けのカラーデザインシリーズは、低価格で提供するために機能やサイズを抑えているのも特徴です。一方、実用性を高めた“ミレニアル世代向け”のシリーズ、パステルカラーでお小遣いでも購入できる“α世代向けのシリーズ”も好評です。世代ごとのライフスタイルを分析し、多様な特性に応えていくことで、幅広い方々にお越しいただける家電量販店を目指します」
さまざまな観点が求められるPB開発では、景況を含む消費動向の分析も必要になる。安倍氏が特に重視する観点は、「消費の二極化」だ。
安倍氏「世の中にある製品をより良くする付加価値の創造は、常に求められており、私たちも開発を進めています。他方、物価高などを受けて生活防衛や慎重消費が広がっているのも事実です。両方の消費者心理に対応するには、単にスペックを高めるだけでなく、コストを下げる視点も欠かせません。価格に合わせて調整すべき不要な機能を見極めるのも、生活者視点に立つ私たちの得意とするところです」

商品の先にある“満足”を提供するのが、エディオンのものづくり精神
低価格志向を受け成長するPB市場だが、品質が懸念される側面もある。「e angle」では安心・安全で寿命の長い商品を届けるため、社内に「商品性能テスト研究所」を設置。
特殊環境の中で過酷な温度・湿度、電圧などを与え、安全性をテストしている。耐久性では専用治具でマウスを7万3,000回クリックするなど、小売業者としては徹底した管理が特徴だ。厳格な基準を満たさない場合は販売されないという。
安倍氏「商品性能テストは、もともと新規取引するメーカーの製品で実施してきた、家電量販店としての取り組みです。長年にわたり蓄積された知見と環境を、『e angle』に応用しています。『e angle』の委託先工場に対しては、まず既存製品を取り寄せて分解や動作確認を行います。その後、試作も繰り返します。さらに私たちは、安全性や耐久性のみならず、『操作ボタンの押しやすさ』『作動音の静かさ』など、使い心地のテストも欠かしません。その際に他の商品と比較できるのも、家電量販店の利点です。お客様に安心・安全を届けるのはもちろん、家電量販店は好評もクレームも、最前線で受け止めてきました。品質担保を最優先する姿勢は、事業を継続する上でも不可欠です」
PB市場の競争も見込まれる中で、今後「e angle」の事業はどのように展開されていくのだろうか。安倍氏は「IoT社会の実現が、一つの指針となる」と構想を語る。
安倍氏「エディオンでは現在、IoT社会の実現に向けて取り組みを強化しています。2025年には日本最大級のテクノロジー総合展『CEATEC』に、家電量販店として初めて出展しました。注力事業の一つが、『エディオンスマートアプリ』です。離れた場所からの家電操作、見守り機能を備えるアプリですが、複数の異なるメーカーの製品とも連動できる、家電量販店ならではの機能を特徴としています。『e angle』においても、同アプリと連動する製品を拡充させ、スマート家電としての機能を強化していく方針です」

信頼と実績を積み重ねる、エディオンのPB事業。コモディティ化が進む家電業界で、明確な差別化を実現したポイントは、企業理念『効用の提供と完全販売によるお客様第一主義の実現』にあるという。
安倍氏「エディオンの事業は全て、『効用の提供』と『完全販売』に基づきます。『効用の提供』とは、単に商品を販売するのではなく、その先にある価値や満足を提供すること。各担当者がお客様に寄り添うのは、この理念を共有しているからでしょう。そして『完全販売』は、商品を良い状態で長く使い続けていただくために、品質保証やアフターサポートを徹底する姿勢です。新たな時代においても二つの理念を実現すべく、『e angle』の充実化に尽力してきました」
安倍氏自身、店舗でキャリアをスタートさせた一人だ。さまざまな部門を経験した今も、顧客と接した原体験を大切にしていると語る。
安倍氏「販売員として『こんな機能があったらな』『もっと生活を良くしたい』という声に応えることが、私の出発点でした。その後、商品開発やアフターサービスなど経験する中でも、お客様視点を最優先してきました。この姿勢は私だけでなく、多くの社員が共有しています。企業風土として定着しているからこそ、お客様のお困りごとを解決するために自然と新しいアイデアが生まれるのでしょう。今後も私たちはユーザーの声に寄り添い、魅力的な商品を届けていきます」
固定観念を取り払い、斬新な視点からヒット商品を生み出す、エディオンの「e angle」。ブランド成長の核心には、一人ひとりの声と向き合う、社員たちの細かな配慮があった。私たちの生活シーンを変える小さなイノベーションに、これからも注目したい。
取材・文:相澤 優太
写真:佐藤 麻衣