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ミシュランが示す「2026年の食」7大トレンド なぜいま世界は“日本の価値”に注目するのか

ミシュランガイドと聞くと、レストランのランキング付けを思い浮かべる人が多いだろう。だが、世界各地を巡るミシュランの調査員は、レストランの評価にとどまらず「いま、食がどこへ向かっているか」を言語化する。

ミシュランが公開した「2026年の食のトレンド」が示しているのは、次に流行る“料理ジャンル”ではない。火・時間・サービスといった、食の体験を支える根本的な要素が再び脚光を浴びるという流れだ。

そして興味深いのは、その変化の説明の中で「日本」が繰り返し登場することだ。主役として大きく語られるのではなく、参照点として自然に言及されている。

本稿では、ミシュランが挙げた7つのトレンドと、記事内で具体例として挙げられるレストランを手がかりに、世界が再発見しつつある「日本の価値」を読み解いていく。

2026年の食を形づくる「7つのトレンド」

ミシュランが提示する食のトレンドは、次の7つだ。

1.焦げ・煙・炎が“新しい標準”に
火を使った直接的な表現が広がっている。スウェーデンの「Knystaforsen」、ブエノスアイレスの「Anchoíta」や「Don Julio」が例として挙げられる。

2.伝統料理が現代的に根を下ろす
ポーランド・ヴロツワフの「BABA」や「IDA kuchnia i wino」、さらにアジアではホーチミンの「CieL」、クアラルンプールの「Akar」、杭州の「Sense」、成都の「Co-」などが、伝統料理の“再解釈”の例として並ぶ。

3.苦味と深みの時代
苦味や旨味、発酵、海藻、濃いストック(肉や魚の骨などを煮出したもの)などで“重くせずに構造をつくる”というトレンドが生まれている。ロンドンの「Plates London」、バンコクの「Baan Tepa」が当てはまる。

4.時間は食材である
マリネや穏やかな発酵、「麹(Koji)」など、時間が味を育てるという潮流が拡大している。ケベックの「l’Auberge Saint-Mathieu」、フランス大西洋岸の「La Marine」、コペンハーゲンの「Sushi Anaba」、クアラルンプールの「Terra Dining」などが例として挙がる。

5.愛されフレンチ回帰の動き
ビストロ料理の素朴さが越境している。例として「Bistrot le Héron」「Émilie & Thomas – Moulin de Cambelong」と、クアラルンプールの「Bidou」などが紹介されている。

6.サービスとは文化である
トロリーサービス(ワゴンで料理を運び客席で仕上げるサービス)スタイルの復活として、杭州の「La Villa」やペナンの「Mémoire」が挙げられる。一方で、カウンター文化の例として「Alchemist」「Frantzén」、そして中国では杭州の「Sense」や上海の「Fu He Hui」、レイキャビクの「ÓX」がある。

7.次の中心地を探る
料理人の学びの目的地は依然としてフランスと日本だが、次の中心地としてはバンコクや中国の新規開業店が頭角を現している。

例えば、バンコクでは「Duet by David Toutain」、「Sartoria by Paulo Airaudo」、「Belén by Paulo Airaudo」、「Cannubi by Umberto Bombana」、「K by Vicky Cheng」や中国では、福建の「Chef Kang’s」が存在感を高めている。

具体例としてのレストランが示す「共通点」

店名をたどると、ミシュランがいま注目しているものが見えてくる。

例えば、「Knystaforsen」や「Don Julio」が象徴するのは、テクニックの誇示ではなく、火が引き出す輪郭の明瞭さと体験性だ。「BABA」や「IDA kuchnia i wino」からわかるのは、郷土の“魂”を残したまま皿を軽くする編集力。「Plates London」「Baan Tepa」が示すのは、苦味・旨味・発酵の「深さ」を、重さではなく構造として扱う発想だ。

つまり、2026年の食は「派手な新発明」よりも、「価値観の選び方」で差がつくということである。

ここからが本題である。なぜこの流れの中で、日本が“基準”として現れるのだろうか。

なぜミシュランのトレンドで日本が何度も現れるのか

ミシュランの記事で日本は観光地としての称賛ではなく、説明の基準として扱われている。

まずトレンド1は「火」の文脈で日本が登場する。

ミシュランの調査員は、いま世界で火が再評価されている理由を語るときに、炭や薪、熱い石と並べて「binchotan(備長炭)」に触れる。重要なのは、ここで「備長炭」が“珍しい素材”としてではなく、“火の復権”を説明する表現として使われている点だ。

北欧の自然の中で火と向き合う「Knystaforsen」、都市のグリル文化を洗練させた「Anchoíta」や「Don Julio」の話題に、「備長炭」が登場する。火の演出や香りではなく、「火力を安定させ、表現をコントロールする」ものとしての共通認識があるためだ。

トレンド3の「苦味と深み」では、日本は味覚の説明そのものとして登場する。

ミシュランは、苦味と並走する要素として「umami(旨味)」を挙げ、それを「日本料理における豊かな味」として説明する。この表現は、旨味がもはや“流行の単語”ではなく、深みを語るための基礎概念になっていることを示している。

例えば「Plates London」の皿に「miso」が登場し、「Baan Tepa」では数週間の自家発酵が、店の味を形づくっている。それらは国籍の違いを越えて、旨味・発酵・熟成を「重さではなく奥行き」として捉える認識が広がりつつあることの表れだ。

そしてトレンド7の「次の中心地を探る」で、日本の立ち位置がよりはっきりと示される。

シェフが学びに行く“定番の修業先”として、ミシュランはフランスと日本を名指ししつつ、次の目的地として、バンコクの「Duet by David Toutain」や「Sartoria by Paulo Airaudo」、中国の「Chef Kang’s」などを挙げている。

ここでの日本は「新しい中心地候補」ではない。むしろ、どのような新興ハブが生まれようとも、包丁さばきや魚の扱いといった技術を磨くために戻る場所として描かれている。

世界が再発見する「日本の価値」

では、なぜいま日本が参照されているのだろうか。

ミシュランの7つのトレンドを1本の線で結ぶと、「効率や派手さ」から「時間・精度・意味」への回帰が見える。そしてその回帰は、日本の価値観と強い親和性がある。

例えば、トレンド4の「時間は食材である」では「麹(koji)」が取り上げられている。ケベックの「l’Auberge Saint-Mathieu」が冬を越える保存の知恵として乳酸発酵を用いる例、フランスの「La Marine」が魚を冷蔵熟成しながら廃棄を減らす例、そして「Sushi Anaba」が何十年も成熟する貝を扱い、その年齢が食感と味を決めるという例がある。

ここで語られているのは「時間を短縮して価値を生むこと」ではない。時間をかけることで味を“育てる”という考え方だ。これは、日本が伝統的に得意としてきた領域と重なる。

トレンド6の「サービスは文化である」も同じだ。「La Villa」や「Mémoire」でトロリーサービススタイルが復活する一方、「Alchemist」、「Frantzén」、「ÓX」のようにカウンターが“距離の近さ”を体験に変えている。

つまりサービスは裏方ではなく、店の価値観そのものの表現になるということだ。サービスは効率を重視するのではなく、「どのような体験を提供するか」に重きを置く動きへシフトしている。

さらにトレンド2の「伝統料理の再編集」では、「BABA」や「IDA kuchnia i wino」が“慣れ親しんだ料理”を軽やかに磨き直し、「CieL」、「Akar」、「Sense」、「Co-」のような店が、物語や文化的アイデンティティを技術で翻訳している。

この翻訳力は、まさに日本が世界に示せる強みでもある。日本の特長は、派手に新しいことをする力というより、時間・精度・文脈を扱い、価値を積み重ねる力にあるからだ。

そしてトレンド7では、バンコクに「Duet by David Toutain」や「Cannubi by Umberto Bombana」といった強い新規開業が集まり、中国にも「Chef Kang’s」のような店があることを紹介している。そのような状況においても日本は、技術を研ぐ砥石としての役割を担い続けている。

これは日本が優れているという話ではなく、世界の食が成熟の先で「時間をかける」「静かな精度」「意味の設計」を求めるようになった結果、日本的価値が必要とされているということだ。

トレンドが向かう先に、すでに日本が体現してきた価値がある――それがミシュランの記事から読み取れる、世界の中での日本の現在地である。

文:岡 徳之(Livit

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