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フランスがMicrosoft Teamsを行政から外す理由 日本は“デジタル主権”を守れるか

それは本当に「ツールの話」なのか

私たちが働く中で、ビデオ会議ツールを使わない日はほとんどないだろう。Microsoft TeamsやGoogle Meetを立ち上げ、会議に参加する。それは多くのビジネスパーソンにとって、疑う余地のない日常である。

しかしフランス政府は、その「当たり前」を見直し、行政用途において米国製ビデオ会議ツールを段階的にやめるという判断を下した。

理由は操作性でもコストでもない。問われているのは、データを誰が最終管理し、非常時に国家がどこまでコントロールできるのかという点だ。

この決断はツール選択を超え、日本にも同様の課題を突きつけている。

フランスは何を決めたのか

フランス政府は、行政機関で利用されてきたMicrosoft TeamsやGoogle Meetなどの米国製ビデオ会議ツールを、段階的に自国開発のツールへ置き換える方針を示した。

対象となるのは国家行政や公共機関における業務用途であり、2027年までに原則として新たなツールを利用するという計画だ。

導入される新ツールは、フランス政府のデジタル統括機関DINUM(政府間デジタル局)が主導して開発した「Visio」である。

Visioは、ビデオ会議や画面共有といった基本機能を備えつつ、データをフランス国内のクラウド環境で管理する設計を採用。保存・処理は、政府が定める厳格なセキュリティ基準「SecNumCloud」の認証を受けたインフラ上で行われる。

すでに一部の行政機関でVisioへ移行する試験運用が進んでおり、数万人規模の職員が日常業務で利用している。

今後は中央省庁に加え、研究機関や社会保障関連機関にも広げていく予定だ。フランス政府が重視しているのは、利便性や機能の優劣ではない。データと業務の基盤を国家が自らコントロールできる状態を保つことなのである。

なぜ米国製ツールが問題になるのか

米国製のSaaSは完成度が高く、世界中で使われている。利用そのものは合理的だ。

しかしフランス政府が問題にしたのは使い勝手ではない。その裏にある「誰が最終的に握っているのか」という構造だった。

第1に、データを最終的に管理するのは誰かという問題だ。

データが欧州のデータセンターに保存されていても、運営企業が米国企業である限り、米国法の影響を受ける可能性は残る。クラウドは場所だけで決まるものではない。契約と法制度によって支えられているインフラだ。

第2に、非常時のコントロールである。

地政学的緊張や制裁、法改正、企業の方針変更などによって、サービス条件が変わる可能性はゼロではない。行政や公共サービスにとって、それは看過できないリスクだ。

第3に、依存が進むことで代替手段を失うリスクが挙げられる。

特定のサービスを前提に業務を組み立てれば組み立てるほど、乗り換えは難しくなる。形式上は選択肢があっても、実質的には選べない状態になるのだ。

フランス政府が問題にしたのは、便利さを理由に国家運営の基盤を、他国の制度と企業判断に依存し続けることである。

日本はどこまで依存しているのか

日本でも、官公庁や自治体、民間企業の多くが、米国製のビデオ会議ツールやクラウドを日常業務の前提にしている。

テレワークやDXの流れの中で、こうしたサービスは一気に広がった。初期投資が小さく、すぐに使えるため、合理的な選択だったことは間違いない。

しかしその結果、会議や資料共有、チャットといった日常業務の前提が、特定の外資系サービスに強く結びつくようになった。特に若手にとっては、自分で選んだツールというより、「最初からそこにあった環境」という場合が多い。

問題は、どれほど依存しているかが十分に可視化されていない点にある。

業務効率化の成果を測ることはできても、代替手段があるのか、切り替えは可能なのか、といった議論は少ない。サービスの利便性を享受しながらも、どれだけの選択肢を手放しているのかは自覚しにくいのだ。

「プロテクター」と「インテグレーター」 フランスと日本の違い

コンサルティング企業のKeany(カーニー)は、各国のAI・デジタル戦略を「リーダー」「プロテクター」「インテグレーター」の3タイプに整理している。この枠組みを用いると、フランスと日本の違いは明確になる。

フランスは典型的な「プロテクター」だ。

デジタル技術を公共インフラ、ひいては主権の一部として捉え、データ保護や統制可能性を重視する。米国製ツールからVisioへ切り替えた判断も、その延長線上にある。

一方、日本は「インテグレーター」に分類される。

自前主義にこだわらず、外部の優れた技術を取り入れ、産業や業務に統合することで競争力を高めてきた。

この姿勢自体は、日本の強みでもあった。しかし、業務基盤そのものまで外部依存が進むと、選択肢を持たない状態になりかねない。

この問題は若手ビジネスパーソンに何を意味するのか

この問題は国家や行政だけの話ではない。

どのツールを利用して働くかは、どの経済圏や技術思想の上で価値を生み出すかを意味する。特定のツールのみに合わせた働き方は、環境が変わったときに柔軟性を失う可能性がある。

米国製SaaSを使うこと自体が問題なのではない。重要なのは、その前提を理解した上で使っているかどうかである。

フランスの事例は、私たちビジネスパーソンに対し、「働く基盤はどうなっているのか」という問いを投げかけている。

日本はどの立場を選ぶのか

フランスは「プロテクター」としての立場を明確に選び直した。

一方、日本はこれまで「インテグレーター」として合理性を追求してきた。その選択が誤りだったわけではない。

しかし、ビデオ会議やクラウド、AIが国家運営や安全保障にまで影響を及ぼす時代となった今、従来の延長線上にある判断が最適とは限らない。日本に求められているのは、すべてを国産化することではなく、どこまでを外部に委ね、どこからを自ら管理するのかを主体的に決めることだ。

日本は今後、「インテグレーター」であり続けるのか。それとも「プロテクター」の要素を取り入れるのか。その問いは、すでに私たちの日々の仕事の中にある。

文:岡 徳之(Livit

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