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なぜ「ファミマの靴下」に海外の観光客が殺到するのか 日本の“当たり前”が世界の憧れになる理由

東京の街角で、海外からの観光客がコンビニに入っていく。

外国人旅行者がコンビニを訪れる目的といえば、おにぎりや日本のお菓子、抹茶スイーツを試すことが定番だろう。

ところがいま、彼らが棚の前で探しているのは食べ物ではない。白地に青と緑のラインが入った「ファミリーマート(以下、ファミマ)の靴下」だ。

たった約2ドルのこの商品が、海外の旅行者の間で「日本で絶対に買うべきお土産」として注目を集めている。

BBCは「コンビニの靴下が日本で最もクールなお土産になった背景」としてこの現象を特集し、日常的な必需品が文化的アイコンへと変化していることを紹介している。また、CNN系列の配信コンテンツでも取り上げられるなど、“コンビニ靴下”は海外メディアの関心事になりつつある。

一見ささやかなブームに見えるが、この現象は「日本の当たり前がなぜ世界の憧れになるのか」という問いにつながる。なぜ高級ブランドでも伝統工芸でもなく、コンビニの靴下なのか。

そこには、日本の生活文化、旅行者の価値観の変化、そしてSNS時代の拡散構造が交錯している。

日常の必需品が「文化アイコン」になる

この靴下が単なる消耗品ではなく、海外の旅行者にとって特別な意味を持ち始めている点は、BBCの記事でも指摘されている。

日本のコンビニで売られるストライプ柄の靴下は、手頃な価格ながら旅行者の間で“クールなお土産”として人気を集めている。これは、日常の生活用品でありながら、日本の消費文化やコンビニ文化そのものを体現する存在として受け取られているためだ。

靴下は世界中どこでも使われる日用品だ。しかし、ファミマのラインソックスが特別視される背景には、日本のコンビニが単なる買い物をする場所という認識を超えて、生活の質やデザイン性、そして日常の豊かさを象徴する存在になっているという文脈がある。

こうした空間で出会った日用品が、「その土地の文化」として旅行者の記憶と結びついていくのである。

この現象は、日用品が文脈次第で文化的価値を獲得しうることを示していると同時に、観光の目的が「ランドマーク」や「伝統工芸品」といった特別なものだけではなく、「現地の暮らしに根ざした体験」へと広がっていることも浮かび上がらせる。

ファミマが仕掛けた「コンビニウェア」という発明

ファミマは、2021年に衣料品ライン「コンビニエンスウェア」を立ち上げた。

背景にあったのは、コンビニが担う役割の変化である。食品や日用品を買う場所にとどまらず、生活のあらゆる場面を支えるインフラとして定着する中で、衣料品もまた「ついで買い」ではなく、日常的に選ばれる商品領域になり得ると見込まれた。

従来のコンビニの衣料品は、出張先で忘れたときに買う“緊急用”が中心だった。しかし、ファミマが目指したのは、その延長ではない。

日用品でありながら「わざわざ買いたくなる」衣料品をつくり、コンビニ発の新しいライフスタイル提案へと昇華させることだった。

そこで導入されたのが「デザイン性」である。

ファミマは、ファッションデザイナーの落合 宏理氏と共同開発し、生活に馴染む実用性とストリートでも成立する意匠を両立させた。象徴的なのが、白地に青と緑のラインが入った靴下である。

結果として、企業カラーを大胆に落とし込みながらも、ミニマルで“アイコン化”しやすいデザインが国内外で支持を集めた。

さらに、季節ごとのカラー展開やコラボ商品を投入することで、コンビニ衣料を単なる消耗品ではなく「集めたくなる商品」へと変えていった。コンビニエンスウェアは、コンビニが生活文化を編集し発信する場になり得ることを示したと言える。

観光の価値観は「特別」から「日常」へ。SNSが“語れるお土産”を生み、ブランド価値を変える

この靴下の人気を理解するうえで重要なのが、旅行者の価値観の変化である。

従来、お土産といえば「その土地ならではの特別なもの」だった。しかし、SNS時代の旅行者は、観光地の定番よりも「現地の日常」を体験し、それを持ち帰ることに価値を見いだすようになっている。

コンビニで靴下を買うという行為は、日本人にとっては日常だ。

一方で、旅行者にとっては「日本の生活文化に触れる体験」になる。旅の記憶は名所だけでなく、日常のディテールに宿るという感覚が広がっているのだ。

そして、この価値観の変化を加速させているのがSNSである。

ファミマの靴下は、ミニマルで象徴的なデザインを持ち、価格も手頃で、「コンビニで買える意外性」そのものが投稿価値になる。旅行者が靴下を履いた写真をシェアする行為は、単なる購入報告ではなく「日本の日常を持ち帰った」というストーリーの共有になる。

SNSでは高価なラグジュアリーよりも、「意外性があり語れるもの」が評価される傾向がある。ファミマの靴下は安くて便利な日用品から、“語れるお土産”へと変化したのである。

この現象が示しているのは、日常に埋め込まれた商品でも、デザインと文脈次第で文化的価値を獲得しうるということだ。

旅行者が買っているのは靴下そのものではなく、「日本の日常を持ち帰る体験」であり、それがSNS上で共有されることでブランド価値が拡張していく。

ファミマの靴下ブームは、観光と消費、そして拡散が結びつく現代において、商品が“語られる存在”になることの重要性を示している。

「日本の当たり前」が世界の憧れになるとき

なぜ、ファミマの靴下が海外で人気なのか。それは「2ドルのお土産」という価格だけでは説明できない。

そこには、日本のコンビニという生活文化、旅行者が「日常」に価値を見いだすという視点の変化、そしてSNSによって体験が共有される構造が重なっている。ファミマの靴下は単なる衣料品ではなく、「日本の日常を持ち帰る」という物語をまとった存在として受け取られ始めたのである。

この現象が示しているのは、文化の輸出は必ずしも伝統工芸や高級ブランドによって起こるわけではないということだ。むしろ、生活の中に埋め込まれた当たり前のプロダクトが、デザインと文脈によって世界の憧れになりうる。

コンビニは、もはや利便性の象徴ではなく、日本の暮らしを編集し発信するメディアになっている。その棚に並ぶ靴下が“語られるお土産”になるという事実は、現代の消費と観光がどこへ向かっているのかを端的に映し出している。

日本の「当たり前」は、ときに最も強い価値になる。その転換点を示す象徴として、この靴下ブームは注目に値する。

文:中井 千尋(Livit

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