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家族に「辞めなさい」と言われて本当に辞める。“家族中心”のベトナムの働き方と日本との決定的な違い

家族が“働き方”を決める国

「そんな会社、辞めなさい。」

ベトナムで働き始めて間もない頃、同僚が突然会社を辞めました。理由を聞いて、私は思わず言葉を失いました。残業が続いた彼に、家族がそう伝えたから——。

納期前で残業が続いた時期があり、家族が“この働き方は違う”と判断したそうです。彼はその判断に従い、あっさり退職を決めました。

【プロフィール】
あや(仮名)
日本では営業職・チームマネジメントを経験。その後、学生時代からいつか叶えたいと思っていた、海外での転職を実現。ベトナムでは、営業としてプロジェクトを獲得し、ローカルスタッフとの協働に携わる。現在は自身の経験から、海外での経験を活かした働き方・キャリア支援にも関心を持つ。

日本で働いていたとき、家族からの助言が職業選択にここまで強く影響する場面を見たことがありませんでした。もちろん日本でも家族は心配しますが、「辞めるかどうか」は最終的に本人が抱え込みがちな領域です。

一方、ベトナムでは“家族の意向”が働き方に直結します。仕事は人生の中心ではなく、あくまで生活の一部。家族が違和感を持てば、働き方を変えるのは自然な選択肢だという価値観なのです。

このエピソードは特別ではなく、現地では珍しくありません。退職後も転職市場が活発なため、早ければ数週間で次の職場が決まります。退職を必要以上に重く捉えない分、家族がブレーキ役として機能しやすいのだと感じました。

「働き方は家族の問題でもある」という前提。日本で働いていた私にはなかった視点でしたが、ベトナムで仕事をするなかで、最初に強く印象に残った文化の違いでした。

日本で“頑張りすぎていた”私

私のキャリアは、日本の食品会社の営業職から始まりました。

当時の働き方は、今振り返ってもかなりハードです。繁忙期は連日夜遅くまで働き、休日出勤も珍しくありませんでした。年間休日は80日ほど。仕事中心の生活に疑問を感じながらも、“そういうものだ”と受け止めていました。

転機になったのは、体力的なきつさもありましたが、“働き方に選択肢がない”ことへの違和感でした。終わらない仕事があれば残業する。足りない人員は気合で補う。職場の雰囲気も「どうにかして乗り切るしかない」という一択でした。

その後、働き方を変えたくて転職しました。環境は大きく変わり、プレイヤーとしての業務もチームマネジメントも経験できましたが、30代が近づくにつれ、別の課題を感じるようになります。「この会社で働き続けると、キャリアの幅は限られるのではないか」という不安です。

ちょうどその頃、夫婦で「今後どう働き、どう生きていくか」を話し合いました。共通していたのは、“もう少し余裕のある働き方がしたい”という思いと、“新しい環境で自分たちの選択肢を広げたい”という気持ちでした。

結果、海外で働くという選択肢が現実味を帯びてきました。英語で仕事ができ、成長市場であり、生活コストも比較的安い──。条件を整理していくと、東南アジア、とくにベトナムが、働き方と生き方を同時に見直すための、前向きな選択肢として浮かび上がったのです。

家族の時間を守るための“線引き文化”

ベトナムで働き始めて感じたのは、「仕事と生活をどこまで分けるか」という線引きが、日本よりもはるかに明確だということでした。

まず、勤務時間の捉え方が根本的に違います。就業時間が終われば、ほとんどの人がすぐに帰宅。その理由はさまざまで、子どもの迎えや家族との食事、親戚の集まり、宗教行事──。日常のスケジュールは家族を中心に組まれています。

残業していると、「大丈夫?」「早く帰らなくていいの?」と声を掛けられることもあります。日本のように、忙しい時期の追加作業を当然とする空気はありません。仕事が終わらなければ明日に回す。勤務時間外に対応することが“普通でない”という前提があります。

この価値観は仕事の進め方にも影響します。ベトナムでは、職務範囲が明確に区切られており、依頼された範囲を正確に実行することが基本です。具体的には、私が依頼した作業について、背景の想定や関連部分まで自発的に確認して進めるということは少なく、指示した範囲をきちんと仕上げる、というスタンスが一般的でした。

ベトナムの働き方に触れる中で、この“線引き文化”は、家族の時間を確保するための仕組みとして機能していると気づきました。働き方を変えるというより、働き方の前提にある価値観が違う──そう感じています。

職場にも“家族的”な側面

もう一つ、ベトナムで働いて驚いたのは、職場がどこか“家族の延長”のようにも感じられることでした。

たとえば社員旅行。こちらでは社員だけでなく、配偶者や子どもが一緒に参加するのが一般的です。会社の福利厚生として行われるだけでなく、「家族ごと歓迎します」という会社からのメッセージでもあります。

この感覚は、日常のコミュニケーションにも表れています。オフィスでも、困っている人がいれば自然に手を差し伸べたり、同性であれば肩をポンと叩かれたり、笑いながら軽いボディタッチがあったりと、日本では珍しいほどのスキンシップがあります。

また、午後になると自然に「おやつタイム」が始まり、お菓子や果物を分け合います。これも仕事を離れて気軽に交流するひとときで、家族の団らんのような温かさがあります。

とはいえ、ベトナムの職場は“重い家族的”ではありません。必要以上にプライベートに踏み込んだり、感情を背負い合ったりはしません。家庭の話題は日常的に出ますが、深く干渉はしないのが特徴的です。

ベトナムでは家庭こそが生活の中心。職場の人間関係はその外側にあり、だからこそ、近すぎず遠すぎない程よい距離感が保たれています。

家族を起点に働き方を見直すという選択

家族を軸に働き方を設計する──それは日本での働き方にも、十分に応用できると感じています。
たとえば

・家族と過ごすために仕事をどう仕上げるか工夫する
・業務を無理に背負いすぎない
・“明日に回す”という選択肢を持つ
・家庭や個人の時間を削らない働き方を交渉する

どれも小さな変化ですが、“働きすぎないための線引き”を持つことは、結果的に仕事の質を保つことにもつながります。

私自身、日本での働き方を振り返ると、知らず知らずのうちに頑張りすぎることが多くあったと感じます。仕事を第一に置く生活は、自分だけでなく家族にも負担をかけていたのかもしれません。

ベトナムでの日々は、働く目的や優先順位をあらためて考えるきっかけになりました。家族を軸に働き方を考えるというシンプルな視点が、働き方そのものを大きく変えていく可能性がある──そう実感しています。

文:あや
編集協力:岡 徳之(Livit

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