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日本がデジタル分野のグローバルリーダーになるには? GSMAのレポートが示す「3つの処方箋」

日本のデジタル変革(DX)は、重要な岐路に立たされている。経済産業省が警鐘を鳴らす、DXの遅れによって年間最大12兆円もの経済損失が生じる恐れがある「2025年の崖」。さらに、海外IT製品・サービスへの支払い超過がもたらす約6.8兆円の「デジタル赤字」は、国家的な課題となっている。これらの数字が示すのは、日本がもはや先進国という地位に安住する余裕がないという、厳しい現実だ。

こうした状況下で、世界のモバイル通信業界を牽引する国際組織「Global System for Mobile Communications Association(以下、GSMA)」が、日本に向けた最新レポート「Japan’s Digital Nation: Pathways for Transformation(日本のデジタル国家:変革への道筋)」を発表した。

GSMAは、世界220カ国以上を代表する750社以上の通信事業者と、およそ400社の通信機器ベンダーや端末メーカーなどが加盟する、モバイル業界最大の団体。そのGSMAが、日本のデジタル国家としての現状を分析し、「デジタル変革への処方箋」を提示した。

今回AMPは、GSMAが東京で開催したメディアラウンドテーブルに参加。発表したレポートを踏まえ、日本のDX推進に必要な要素を深掘りしていく。

日本は「データガバナンス」で高評価。一方で「イノベーション」が課題

GSMAのレポートは、「デジタル国家指数(Digital Nations Index)」を策定し、各国・地域のデジタル国家としての成熟度を測るもの。この指数は、単なるデジタル化の表面的な進捗だけでなく、デジタル国家を支えるための根幹となるインフラ、イノベーション、データガバナンス、セキュリティ、人材という5つの柱で、多角的に評価されている。

この指数に基づき、日本は総合スコア76点を獲得し、アジア太平洋地域(APAC)で第3位の「先進デジタル国家」に位置づけられた。この結果に対して、GSMAアジア太平洋地域責任者のジュリアン・ゴーマン氏は「安堵すべきではない」と警鐘を鳴らす。

出典: GSMA Intelligence「デジタル国家を支える5つの柱」

「日本がAPACで第3位というポジションにいるのは、長年の努力の結果であり素晴らしいことです。しかし、このレポートが伝えたいのは、この『先進デジタル国家』という地位に甘んじることなく、いかにして『世界の指標となるグローバルリーダー』へと進化するかという点です。世界のデジタル競争のスピードは凄まじく、わずかな油断が競争力の急激な低下を招く。日本にはリーダーになるポテンシャルがあるからこそ、残された構造的な課題に真摯に向き合うべきだと考えています」

日本のスコアの中でも特に高く評価されたのが、「データガバナンス」の分野である。

日本は、データが安全かつ自由に行き交う未来を目指す「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:Data Free Flow with Trust)」という理念を国際社会に提唱してから、データ保護、説明責任、そして透明性を確保するための強固な法的枠組みを確立してきた。これは、個人データ利用の倫理やAIガバナンスに関心の高い現代において、日本の競争優位性につながっている。

「日本は強固なデータガバナンスの仕組みを持っており、これが、他の国と差別化できている競争力の一つです。特に、デジタルサービスが人々の生活に深く入り込む現代において、『信頼』と『透明性』に裏打ちされたデータ流通の仕組みを持っていることは、日本がデジタル分野においてグローバルリーダーになれる可能性を示しています」

しかし、データガバナンスにおいても課題がないわけではない。それは、生成AIの利用拡大に対応するための、プライバシー規制の柔軟性だ。強固な規制は信頼を生む一方で、新しい技術の足かせになるリスクもはらんでいる。いかにして「信頼性」と「柔軟性」を両立させるかが、日本の次なる課題となるだろう。

出典: GSMA Intelligence「デジタル国家スコア:2025年」

一方で、日本の最も大きなウィークポイントとしてレポートで明らかになったのは、「イノベーション」における深刻な停滞である。

日本は、「Innovative Optical and Wireless Network(以下、IOWN)」のような超高速・大容量・低遅延・低消費電力の次世代ネットワーク技術を生み出す研究開発力が世界トップレベルにある。しかし、その優れた研究結果や特許で収益を生み出し、社会を大きく変える商業化へと結びつけるメカニズムが十分に機能していないのだ。これこそ、日本が直面する「2025年の崖の原因」となっている。

「約20年前、日本のモバイル技術やイノベーションは世界中の人々が学びに来るほど進んでいました。しかし、この20年で世界各国が進化し、大胆な政策や規制改革を行い、競争が激化。たとえば、ベトナムは国家ミッションとしてモバイルテクノロジーの使用を促進し、経済成長のエンジンにしています。日本のイノベーションを加速させるためには、日本が持つ素晴らしい研究結果を、活力あるスタートアップ・エコシステムを通じて商業化していくべきだと思います」

特に、スタートアップ・エコシステムの活性化が遅れていることが、デジタル分野の研究開発を市場に応用できていない大きな要因だと指摘する。研究成果を「技術の棚卸し」で終わらせず、いかにして事業化し、グローバル市場へと展開するか。この展開までのスピードと、失敗を恐れないリスクテイク文化の醸成が、デジタル競争力を高めるために必要となりそうだ。

「商業化」と「人材育成」が鍵。GSMAが提言する3つの処方箋

この現状を踏まえてGSMAは、日本がDXを成功させてグローバルリーダーとなるために、次の3つの優先政策を提言している。

一つ目の提言は、日本の強みであるネットワーク技術を基盤とし、それをグローバルなサービスへとつなげる戦略である。

次世代ネットワーク技術であるIOWNや、通信設備を特定のベンダーに依存せず構築できる「Open RAN」といった日本の強みを、単なる「技術」ではなく「商業的に展開可能なプラットフォーム」へと昇華させることに注力すべきだいう。特にIOWNが目指す超低遅延・大容量通信の実現は、自動運転や遠隔医療、スマートシティといった未来の基盤となる技術そのものである。

「IOWNのような先端技術の国際展開を後押しするため、規制面および財政面での支援を継続することが重要です。さらに、その技術を世界に開かれたかたちで提供し、第三者の開発者が自由にサービスを構築できる環境を整える必要があります」

ここで鍵となるのが、GSMAが推進する「GSMA Open Gateway」である。これは、通信事業者が持つネットワーク機能をAPIとして標準化し、世界中の開発者に開放する取り組みだ。日本が誇る高性能なネットワーク技術をAPIとして世界に開放すれば、国内外の開発者がその上で革新的なサービスを容易に構築できるようになる。これは、日本の技術がふたたび世界経済に貢献し、新しい経済圏を生み出すための最も直接的な道筋である。

二つ目の提言は、日本のサイバーセキュリティ体制をさらに強化し、「世界トップレベルのサイバー・レジリエンス国家」を目指すことだ。

デジタル国家の信頼性は、そのセキュリティ体制によって決まる。GSMAは、着実に向上している日本の体制を評価しつつも、AIの進化によって巧妙化するサイバー攻撃や詐欺への対策として継続的な投資を求めている。こうしたセキュリティは、もはや「システムを防御する部門」の仕事ではなく、ビジネスの信頼性そのものを担保する最重要戦略であると話す。

「日本のセキュリティ体制は、世界的に見ても高い水準にあります。しかし、AIの進化により、サイバー攻撃や詐欺の手口も日々巧妙化しているのが現実です。そのため、インフラのレジリエンス基準の強化や、AIを活用した予防的な防御メカニズムへの継続的な投資は欠かせません」

こうした背景から、セキュリティ分野はこれからの10年で需要が高まるキャリア領域の一つとしている。日本の「信頼性」を世界に発信するためにも、高度なサイバーセキュリティ人材の育成が今、求められている。

三つ目の提言は、高齢化社会の中でデジタル化の進展に社会のあらゆる人が取り残されないようにすると共に、AI・クラウド分野の高度な人材育成へ投資をすることだ。

レポートでは、国民全体のデジタルリテラシーは高いと評価する一方で、AI、クラウドコンピューティング、データサイエンスといった、今後の経済成長を牽引する中核分野での専門スキルを持つ人材の不足が、イノベーションの大きな制約になっていると指摘している。

「この人材不足は、日本が『研究結果』を『市場に応用する』サイクルを加速できない、構造的な足かせになり得ます。そこでこの不足を解消するために、教育・研修の拡充、デジタルスキル向上へのインセンティブ付与、そして産学官連携による人材育成体制の強化を進めることが必要です。さらに情報格差を解消するため、高齢者層を対象としたデジタル活用支援プログラムの拡充も行うべきだと考えています」

官民連携で、「国内技術」を「世界標準」に昇華させる大胆さを持つ

改めてGSMAのレポートを通じて浮き彫りになったのは、日本が持つ技術的なポテンシャルの高さと、それを解き放つための「大胆な行動」の必要性だ。こうした日本のDXに必要な推進力を生むために、「官民連携」も鍵になると話す。

「経済を変革するには、政府からのトップダウンでミッションやビジョンを示す必要があります。しかし、それを実際に実現するためには、民間企業が投資を行い、リスクを取り除きながら進化していくことが必要不可欠です。この二つが連携することで初めて、大きな変革が生まれると思います」

日本が次の10年のデジタル競争をリードするためには、IOWNやOpen RANといった技術を単に「国内の技術」として終わらせるのではなく、「世界の標準」へと昇華させる大胆さが必要だ。そして、AI・クラウド分野の高度スキルを身につけ、未来のインフラと信頼性を自ら設計できる若手リーダーの台頭こそ、日本が真の「デジタル国家」として復活するための鍵となるだろう。

文:吉田 祐基

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