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「反AIマーケティング」が世界で拡大──Dove・Polaroid・Aerieに見る“人間らしさ”の逆襲

生成AIがマーケティングのあらゆる領域に浸透している。広告ビジュアルやコピー、SNSの投稿まで、AIが作るコンテンツが日常的になった。かつて数週間を要した制作が数時間で完結し、効率は飛躍的に高まったが、その裏で“AI的均質化”が進行している。どのブランドも似たようなトーンと質感になり、感情が希薄したような表現が増えているのだ。

その反動として、海外では「人間らしさ」を前面に押し出すブランドが注目を集めている。AIを否定するのではなく、“AI時代における人間らしさの再定義”を試みる動き——いわば「反AIマーケティング」である。AIが当然の存在となった今だからこそ、アナログ・身体性・感情・偶然といった“非効率な価値”が見直されている。

Dove——“Real Beauty”が切り開いた、反AIマーケティングの起点

AI生成モデルを使わないことを宣言したDoveの“Real Beauty”キャンペーン
(出典:Dove公式サイト

世界的に知られるパーソナルケアブランドDoveは、2024年4月、ブランド誕生20周年の節目に「AIによって生成・改変された女性像を広告に使用しない」と宣言した。この声明は、長年続く「Real Beauty」キャンペーンの理念をAI時代にアップデートするものである。

Doveは、世界各国で調査を実施し、67%の女性が「AI生成画像は不自然な美の基準を助長している」と回答、78%が「AIの“完璧な美”は自己肯定感を損なう」と感じていると発表した。こうした結果を踏まえ、「AIを使って“リアルな女性”を表現しない」ことを正式にブランドポリシーに組み込んだ。

この方針は倫理的メッセージを超え、ブランド戦略として機能している。AIが理想像を量産する時代に、Doveは「多様で不完全な現実の美」を守る存在としての信頼を確立した。

PolaroidやAerieが続く「反AIマーケティング」の流れは、まさにこのDoveの決断を文化的起点としている。DoveはAIを拒むのではなく、人間の尊厳と信頼を軸に“美の表現”を再構築したのである。

Polaroid——“AIでは感じられない瞬間”を売る

「AIには、足の指の間の砂の感触は再現できない」と掲げたPolaroidの屋外広告
(出典:Polaroid公式プレスリリース

Polaroidは、AI時代における人間の感覚をテーマに掲げた象徴的ブランドである。2025年7月、同社は「AIには、足の指の間の砂の感触は再現できない」「死ぬ間際に“もっとスマホをいじっていたい”なんて誰も言わない」といったコピーを街頭広告で展開した。

AIを直接批判するのではなく、AIが決して再現できない感覚的な体験を想起させる内容だ。指先のざらつき、写真を振って現像を待つ時間、光を感じる瞬間——それら“人間の五感”を通じてしか得られない価値を訴求している。デジタル写真がどれほど正確でも、そこには「偶然」や「失敗の美しさ」がない。Polaroidはその“不完全さの価値”をあえて提示した。

このメッセージは、アナログ回帰ではなく「AI時代における人間の創造性の再確認」である。テクノロジーが感情を代替しようとする世界で、Polaroidは“感じること”そのものをプロダクトの価値としたのだ。

Aerie——AIもレタッチも使わない、“100%リアル”のコミットメント

AIもレタッチも使わないことを宣言したAerieの「#AerieREAL」キャンペーン
(出典:Aerie公式サイト

American Eagleの姉妹ブランドAerieは、2025年10月、「AIで生成した人物・身体を広告で使用しない」と公式に発表した。同社はAI生成・レタッチ・加工をすべて排除した“100% リアル”な広告方針を打ち出し、「本物の肌、本物の笑顔、本物のストーリー」を映すと宣言した。

特筆すべきは、広告制作に関わるすべてのパートナー企業・フォトグラファー・エージェンシーにもAIの不使用を義務づけている点である。制作の外注先までを含め、AI活用を禁じるという徹底したポリシーは、ブランドの“倫理サプライチェーン”を構築する試みといえる。

この方針は、効率やスピードよりも“誠実さと透明性”を優先する姿勢を明確に示している。Instagramに投稿されたキャンペーン告知は、Aerie史上最高のエンゲージメントを記録し、消費者から「人間の温度を感じる」と支持を得た。AIが完璧さを供給する時代に、“ありのまま”を見せることがブランドの最大の差別化になったのだ。

この「制作パートナーにもAIの不使用を義務づける」という姿勢は、制作工程が複雑な日本の広告業界にとっても大きな示唆を持つ。スピードやコストよりも、“リアルを守る仕組み”そのものがブランド価値になる時代に入りつつある。

「反AIマーケティング」はテクノロジー否定ではない

Dove・Polaroid・Aerieの試みはいずれも、”AI任せの広告が失った人間の温度”を取り戻そうとするものである。AIによる自動化が進むほど、消費者は“人の手の痕跡”に価値を感じる。デジタルが飽和するほど、アナログな不完全さが新鮮に映る。

つまり、「反AIマーケティング」は反テクノロジーではなく、人間中心の再構築——Rehumanization(再人間化)マーケティングである。テクノロジーと人間の関係を再定義するブランドが、いま世界の共感を集めている。

AI時代の差別化軸は、もはや「新しい技術」ではない。「どれだけ人間らしく響くか」である。消費者がブランドに求めているのは、効率ではなく、信じられるリアルだ。

反AIマーケティングは、テクノロジーを拒む運動ではなく、AIと人間の共存を探る文化的実験である。効率と感情、人工と人間性。その狭間にこそ、次のブランド価値が生まれる。

文:岡 徳之(Livit

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