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経済や産業の進化に不可欠なBtoB企業に焦点を当て、強みや社会的価値を可視化することで、そのダイナミズムと未来における価値成長を紐解く企画「Social Shifter〜進化を加速させる日本のBtoB」。今回取り上げるのは、コンサルティング事業を展開する株式会社才流だ。
社会や産業の構造が急速に変化するなか、BtoB企業が直面するマーケティングや営業の課題も複雑化している。事業の特性に合わない施策の乱立、戦略と現場の分断、属人化による再現性の欠如——。同社はこうした課題に正面から向き合い、“メソッド”によるアプローチで企業の課題を解決する。
今回は代表取締役社長の栗原康太氏に話をうかがい、多くのBtoB企業に共通する課題と、課題解決への糸口を探った。

- <企業概要>
- 株式会社才流
- “メソッドカンパニー”をビジョンに掲げ、新規事業開発のアイデア創出から仮説検証、事業化後の伴走支援まで行うコンサルティング会社。独自のメソッドを開発し、BtoBマーケティング、法人営業など様々な領域の支援サービスを提供している。
- 企業公式サイト: https://sairu.co.jp/
BtoB企業を取り巻く変化で高まる支援ニーズ
才流のクライアントは、IT・製造・医療・金融など多岐にわたる。事業開発から実行、組織定着までを一貫してサポートするケースも少なくない。上流から関わる理由として、栗原氏は成果へのつながりやすさに言及した。
「すでに商品が完成した段階でのマーケティングや営業の支援は非常に厳しい場合もあります。商品が市場/顧客に受け入れられている状態でなければ、どれだけマーケティング・営業に力を入れても売り上げにはつながりません。そのため、事業開発から一気通貫での支援が求められています」

同社の支援事業は、栗原氏自身が独立以前から専門領域としていたBtoB企業に特化している。近年は、BtoB企業における支援ニーズのさらなる高まりを感じるという。その理由として、BtoB企業を取り巻く環境に起こった2つの変化が影響していると栗原氏は語る。
「BtoB企業を取り巻く環境には、主に2つの変化があります。1つ目は顧客の購買行動のデジタル化です。かつては展示会や営業によるカタログ提供など、オフラインでの取引が中心でした。しかし今は、情報収集はインターネットになり、セミナーやカンファレンスもオンライン化し、購買行動のデジタルシフトが加速しています。2つ目は労働人口の減少、とくに営業職人材の減少です。BtoC企業はEC化が進むと同時に販売職の削減が進みますが、BtoB企業において営業は変わらず不可欠です。にも関わらず、労働人口が減ることはほぼ確実で各社が営業職の採用・定着に課題を持っています」
DXやAIの導入により、一人あたりの生産性を上げようとする動きもあるが、実際には経験や知見のある人材の不足こそ最大のボトルネックだ。だからこそ、才流のような専門家による支援ニーズはなお高まっているのだ。
蓄積されたノウハウと幅広い視点で課題を解決
マーケティング支援に定評のある同社は、事業を展開するうえで他社とはどのように差別化を図っているのだろうか。
「マーケティングだけでなく、事業開発や法人営業・パートナービジネス・カスタマーサクセスなどの横断的な知見を評価いただいています。マーケティング支援会社であればマーケティングの範疇で課題解決を行いますが、弊社はより広い観点から分析し、課題の特定や改善策の提案をできる点が強みです。
また、メンバーシップ型雇用が中心の大手企業では、事業開発やマーケティングなどのスペシャリストが社内にいないこともあります。そのような場合にも、我々のように様々な知見を蓄積している専門家との連携は、大きな価値があると感じていただけるはずです」

専門家だからこそできる課題解決とは、具体的にどういったアプローチがあるのだろうか。同社の支援が実を結んだ印象的なエピソードをうかがう。
「数年間かけて開発したものの、200件商談して1件しか売れなかったという相談がありました。そこで、市場・ターゲットの再設定、商品の特徴の洗い出し、価格やサポート内容の見直しまで行った結果、売れるようになった事例があります。また、弊社が支援したクラウドサービスでは、それまでセルフサーブ型だったものを価格を上げて人的サポートを付帯したことで売り上げが向上したケースも。日々の業務のなかでツールの習熟が難しい場合、ユーザーは手厚いサポートを求めており、そこに顧客ニーズがあったわけです」
商品は同じでも、売り先やサポート内容、価格の変更によって成果に差が出る。最適な解決方法を見つけ出し、結果を残すのが才流の役目だ。
デジタルシフトのなかで見える“人”の重要性
デジタル化や労働人口の減少といった大きな構造変化に加え、近年ではAI活用が注目されている。才流では、ITに精通する企業へのコンサルティングも行っているが、栗原氏は「本当に問われているのは、DXやAI活用よりも“人”である」と語る。
「仕事は最終的に“人”がやるものです。DXやAI活用に長けていても、それを組織に浸透させ、運用していく段階では人の手が必要になります。例えば、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理)、その他営業・マーケティング領域のツールではAIが適切な提案を出してくれる機能もありますが、そもそも人の手により適切にデータが入力されていないため、AIがうまく働かないケースが大半です。AIをトレーニングする前に活用する人材をトレーニングする必要があるわけです」
効率化・自動化を目的にデジタルツールを導入しても、最終的には運用する人の納得感や習慣化が必要だ。特にBtoBにおいては自動化しきれない業務が多く、20年前と本質的な課題は同じままのケースも少なくないという。
「私自身、2007年頃からこの仕事に携わっていますが、本質的には“人”が関わる部分に課題が集約されていると感じます。ECなどは自動化できる領域ですが、日本のEC化率はカテゴリーによっては10%程度。残りの90%はリアルな接点が必要で、BtoBにおいてはさらにデジタルだけでは完結しない領域が大半です。だからこそ、“人”の重要性が際立ってきます」

どれほどDXやAI導入が進んでも、現場が動かなければ売上・利益にはつながらない。人の重要性に着目する栗原氏は、これからの企業成長において「イネーブルメント(できるようにすること)」にこそ注力すべきだと語る。
「例えば、データから明らかになった大谷翔平選手のバッティング理論を知っていても、一般の人が理論通りにバットを振ってボールに当てられるかは別問題です。同じことが企業経営にも言えて、データからやるべきことは明らかになっていても、その通りに実践できなければ意味がありません。できる人を採用するのか、育成するのか、あるいは業務プロセスをデジタル中心に変革するのか。いずれにしても、イネーブルメント(できるようにすること)の観点で組織や現場を動かすことで、組織の生産性や成果は大きく変わっていくでしょう」
才流のコンサルティングは、そこで働く人々の特徴や能力をも炙り出し、人材育成や人材採用にも伴走していく。
大手企業から求められるスペシャリスト集団
デジタル化が進む昨今においても、事業の少なからぬ領域はいまだ人の動きに左右される。コンサルティングを担うのもまた人だ。豊富な知見と経験をもとに築かれた“メソッド”で仕掛けるべく、才流には多彩なバックグラウンドを持つ人材が集まっている。
「事業開発やマーケティング、法人営業領域のコンサルティングという性質上、当該領域での深い知見と経験を持つ人材が求められているため、基本的には中途採用です。役員や事業責任者の経験やマーケティング歴15年以上といった経験豊富な人材が所属しています」
同社はフルリモート体制を実施しているが、新しい知見の共有は積極的に行われている。毎週水曜日の午前中はナレッジ蓄積・共有の時間として設定され、社内データベースの更新や、外部向けに発信するコンテンツへの落とし込みが行われているという。社員同士のオンラインコミュニケーションも活発だ。
「弊社ではSlackを使い『相談チャンネル』を運用しています。もう7年ほど続いていますが、ほぼ毎日誰かがお客様の課題解決につながる相談を投稿しています。社員は広い視点で課題に向き合えることにやりがいを感じていると思いますし、そういう考え方が好きな人が集まっている印象です」
価値ある一次情報でBtoB企業に貢献
AIの進化により、データさえ揃えば課題へのアプローチを導き出すことは容易になったかもしれない。一方で、質の高いデータが入力されなければAIは適切に動かない。「独自の一次情報がこれからのビジネスに求められる」と、栗原氏は今後の支援の方向性を見定めている。
「例えば、自動運転のWaymoでは各地でのサービスを提供する前に、人が手動で運転するセンサー付きの車が道路や周辺の風景を撮影し、自動運転システムに情報を学習させています。Googleマップに表示される写真も衛星や航空機からの写真とストリートビュー撮影車の写真を組み合わせて作られていますが、誰かが一次情報を集めて、システムに学習させる必要があるわけです。AIがますます賢くなり、こなせるタスクの幅も広がっていきますが、そこで必要になるのはAIに学習させるデータです。今後のビジネスににおいては、独自の一次情報を提供することがより求められる時代になるでしょう」
才流では、すでにエンタープライズの実態に関する独自調査と、戦略を組織にイネーブルメントする支援に着手しており、引き続き強化していきたいとのことだ。
「私たちは“メソッドカンパニー”をビジョンに掲げています。独自の調査と現場での実践を通じて得られた知見をメソッド化し、社会・顧客に提供する姿勢は今後も変わりません。これまで情報自体は直接の収益源ではありませんでしたが、AI時代になり、情報そのものに価値がもたらされる兆しを感じます。現在弊社のウェブサイトには約500本のコンテンツがありますが、1,000本、10,000本と増やし、多くの企業に貢献していきたいです」

人と情報、そしてメソッドを武器にBtoB企業を支援する才流。複雑化するビジネスの進化を加速させるエンジンとして、今後ますますその価値を高めていくだろう。
取材・文:安海 まりこ
写真:水戸孝造