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男女差わずか9ポイント 縮まるゲーマー人口の性差
もはや「ゲーム=男性の趣味」という時代は終わった。
Global Gamer Studyが示すデータは、長年の固定観念を覆す現実を突きつける。同調査によると、ビデオゲームをプレイする女性の割合はネットを利用する全女性の72%に達したことが判明、男性の81%に対し9ポイントまで迫っていることが明らかになった。全ゲーム人口に占める女性の割合も45%まで増加しているという。
米国では、この変化がより顕著に表れている。米エンターテインメントソフトウェア協会(ESA)の2025年版報告書によれば、5歳から90歳までの2億510万人のアメリカ人が定期的にゲームをプレイ、その内訳は女性47%、男性52%とほぼ均等であることが分かった。興味深いことに、ベビーブーマー世代(61~79歳)では女性プレイヤーが52%と、男性の46%を上回る逆転現象も確認された。
ユーロモニターの調査も同様の傾向を示す。女性のオンライン消費者のうち、週1回はビデオゲームをプレイしているという割合は38%に達した。モバイルやオンラインゲームの普及により、男性の参加率に急速に追いついているという。
女性ゲーマーの属性も多様化の一途をたどる。44%の女性が自らをカジュアルゲーマーと位置づける一方で、コンソールやPCプラットフォームでコアゲーマーとして活動する層も着実に増加。米国や英国では、アクションアドベンチャーやシューターといった「ハードコア」ジャンルを、男性とほぼ同じ頻度でプレイする女性が増加傾向にあることが報告されている。
市場への影響も無視できない。2024年、ビデオゲームは世界の玩具・ゲーム収益の66%を占め、2,790億ドル(約41兆円)に達した。女性プレイヤーは単にゲームをプレイするだけでなく、ストリーミング配信、デザイン、開発チームのリードなど多岐にわたる役割を担っている。また、ゲーム本体、追加コンテンツ、サブスクリプションサービスへの支出も男性と同等以上の経済力を持っており、直接的な影響と周辺市場への影響を含め、その可能性に注目が集まっている。
賞金4,500万円の女性向けゲーム大会 広がる支援ネットワーク
この大きな変化を生み出している要因として、女性ゲーマーを支援するコミュニティの形成と拡大が挙げられる。
象徴的な動きの一つが、女性向けeスポーツ大会の充実だ。2025年に開催されるThe Milk Cupは、賞金総額30万ドル(約4,500万円)という規模で実施される。賞金は前年の25万ドルから増額している。人気ゲーム『フォートナイト』のBuild Mode Duosで競う大会として注目を集めている。特筆すべきは、コミュニティからのフィードバックを反映し、個人戦からデュオ形式へと変更された点だ。チームプレイに変更し、協力する機会を増やすことで、プレイヤーだけでなく、さらなるファンベースの拡大を狙っている。
さらにThe Milk Cup Academyという画期的な取り組みも始動した。単なる大会開催にとどまらず、トップゲーミングプロフェッショナルによる専門的なコーチング、競技トレーニング、スクリメージ(練習試合)を通じたスキル向上の機会を提供。参加者の健康とパフォーマンスのサポートまでを含む包括的なプログラムとなっている。
業界横断的な支援ネットワークも急速に発展中だ。the*gamehersのアンバサダープログラムは、ThunderpickやWalmartといった大手企業との提携を通じて、女性ゲーマーに新たな機会を創出。コンテンツ制作、独占的なゲーミングイベントへの参加、コミュニティ内での交流など、多岐にわたる支援が展開されている。
これらの動きは、業界全体の意識変革により、さらに加速する見込みだ。2025年9月には、ポルトガル・リスボンで、SBCサミット Women Empowerment(WE)イニシアチブの第2回プログラムが開催され、ゲーム産業における主要な女性団体が一同に会した。All-In Diversity Project、AMIG、GGW、SheEOs、Women in Gaming Africaなど、国際的に認知された業界団体が協力し、歴史的に性別格差が顕著だったゲームセグメントでの女性参加とリーダーシップの向上を目指すという目標を再確認した。
4,600兆円の購買力。「ゲーマー・ママ」という巨大市場
女性ゲーマーの台頭によって創出される新たなビジネス機会にも関心が集まっている。
世界の消費者意思決定において、女性が影響を及ぼす割合は85%、約31兆ドル(約4,600兆円)に上る。テクノロジー、自動車、アルコール飲料といった従来男性優位とされていた分野でも、女性の影響力は拡大の一途をたどっており、ゲーム市場も例外ではなくなっているのだ。
最も顕著な市場機会として浮上しているのが「ゲーマー・ママ」という新セグメント。
米広告代理店業界団体American Association of Advertising Agencies(4As)の調査では、米国の母親の87%がアクティブなゲーマーであり、その80%がコンソール、PC、モバイルといった複数のプラットフォームを使いこなしていることが判明。また同調査では、彼女らが単なるカジュアルゲーマーではない点も強調されている。パズルゲームからアクション・アドベンチャー、レーシング、シューター、シミュレーションまで幅広いジャンルを楽しみ、半数以上が10年を超えるゲーム歴を持つベテランプレイヤーだという。
特に、彼女らが家族との絆を深めるツールとしてゲームを活用していることが注目されている。たとえば、子供とのコミュニケーションに関して、容易と評価している母親の割合は、非ゲーマー・ママでは35%だったのに対し、ゲーマー・ママでは45%と10ポイントの差が出た。また、他のプレイヤーとゲームをする際、50%の母親が子供とのゲームプレイを選択していることも明らかになった。これらは、家族向け広告の新たな可能性を示すもので、ゲーム開発企業やブランド企業、広告関連企業が熱視線を送るセグメントになっている。
周辺機器市場も急速な成長を見せる。Omdiaの調査では、2025年のゲーム周辺機器・アクセサリー市場は200億ドル(約3兆円)に達し、2030年には250億ドル(約3兆7,500億円)に迫ると予想されている。特にゲーミングモニターが全体収益の49%を占め、2030年には市場の半分以上を占める見込みだ。
広告戦略においても、女性ゲーマーの特性を活かした新たなアプローチが生まれている。ゲーム開発大手Gameloftは、ゲーム環境内での製品・サービスの自然な統合を通じて、女性およびカジュアルゲーマーに直接リーチできる「COMBO! Pop」を開発。ゲームプレイを中断することなく、インタラクティブかつ印象的なフォーマットでブランドと接続する手法を確立した。
現在、女性のオンラインゲームプレイを遠ざけていた「有害チャット」をAIモデレーションで排除したり、「かわいいカルチャー」とゲーミングカルチャーの融合が進むなど、女性のゲーム市場への参加を後押しする取り組みが加速中だ。45〜47%という女性比率が50%を超える日はそう遠くはないのかもしれない。
文:細谷 元(Livit)
